第12話 『クラウダ・カーシュリー』
「こいつは俺の女だ」
「クラウダは僕のものだよ」
ちょっと何この展開?
2人の王子が私を取り合うなんて乙女ゲームぽい。グリューゼル戦記なのに。
「兄弟で意見が割れた時の解決方法なんてひとつしかないよね。ルーク兄さん」
「ああ。受け取れ」
そう言ってカレイド様は背中に忍ばせていた木剣をフィリップ王子の方に投げる。
フィリップ王子は飛んできた木剣を片手で掴むとすぐさま身構える。
カレイド様が木剣を身構えた途端、フィリップ王子から仕掛けてくる。
カレイド様はフィリップ王子の一撃目を受け流すとすぐさま反撃。
しかしフィリップ王子がカレイド様の素早い剣を受け止める。
「やるじゃないか。大半の賊はこの一撃で真っ二つになる」
「僕だって兄さんが出ていったあと王宮剣術を叩き込んだ。
簡単に負けてやるつもりはない」
「言うようになったなフィリップ」
2人の剣戟は素早すぎてほとんど光の筋にしか見えない。
ほとんどのギャラリーは互角の戦いに見えるかもしれないけど。
私にはわかる。カレイド様が優勢だと。
スクリーム流の奥義は一度も使っていない。
真剣勝負というよりは弟と戯れ合っているようだ。
そして次の瞬間、一本の木剣が宙を舞う。
勝ったのはカレイド様だ。
「どうしてクラウダを自分のものにしたいとウソをついた」
「へへ、兄さんにはバレてたか。兄さんとこうやって決着をつけるためさ。
第一王子と第ニ王子どちらが王国の政を行うにふさわしいか。
大勢に前で戦って証明する必要があった。兄さんもそのつもりで戻ってきたんだろ」
本来のグリューゼル戦記ならフィリップ王子とカレイド様が次期国王の座をかけて大軍を率いて戦うはずだった。
それが一対一の勝負になってカレイド様が勝った。カレイド様はどうなさるおつもり?
「俺はこの王国の王になるつもりはない」
『え?』
私もフィリップ王子もギャラリーも一同に同じ反応だ。
「次期国王はお前だ。フィリップ」
唖然とするフィリップ王子。
「じゃあ兄さんはどうして」
「俺はクラウダ・カーシュリーとの結婚を認めてもらいたくてここまでやってきた」
カレイド様と私が結婚⁉︎ ちょっと待って顔が一気に赤くなるし涙も出てくる。何この感情。素の鷹尾彩也子に戻りそう。
「それでかまわないだろ国王」
カレイド様が振り向いた方を見やると吹き抜けの大階段の最上段に国王陛下の姿がある。
「お前が妃に選んだ相手だ。勝手にしろ」
「妃じゃない。俺はカーシュリー家の婿養子になる」
「婿だと⁉︎」
「兄さん⋯⋯」
「これからの王国はフィリップが動かす。後々の憂いを取り払うなら俺が王室を離脱するのが最善だ」
「兄さんそれって⋯⋯」
「お前が思うようにやってみろ。俺は応援するだけだ」
カレイド様はフィリップ王子の手を取り、彼を引っ張り起こす。
硬く結ばれた2人の王子の握手に会場から拍手が湧き起こる。
そうか。そういうことだったのねカレイド様。
だったら今度は私が戦う番ね。
「オーホッホ。国王陛下そういうことですの。あなたの息子さんはいただきますわ。
ついでにご祝儀として2人で暮らせる土地をくださる」
「よかろう。未開の辺境の地でもプレゼントしてやろう」
「それは願ったり叶ったりですわ」
「ふん。皮肉のつもりで言っているわけではないぞ。我は本気だ。義娘よ。何が目的だ」
「スローライフですわ」
***
数日後ーー
私とカレイド様は国王より与えられた土地に到着した。
場所は王国の外れ、湖を中心に広がる森林地帯。まさに手付かずの土地だ。
もちろん住む家も買い物する店も街も街道も何もない。
「本当に未開の辺境地だなんてスローライフしがいがありますわ」
「まずは住む家を作るところからだな」
乙女ゲーム“ロイヤルガーデン”のクラウダ・カーシュリーは主人公カップルによって学院を追放。
辺境の地に追いやられるのだけれども彼女も私たちのように逞しくスローライフを過ごしたのだろうか。
「湖のほとりのこの辺りに家を建てたいですわ。カレイド様、この辺の木を切り倒すところからはじめましょうか」
完
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