発端 1✭
握っているシャーペンが指の間から擦り抜け落ちた。今は、北星高校の5時間目。
学校の時間帯で最も睡魔に襲われる時間帯である。 意識が朦朧とする中、眠気と戦っているのは
「小倉 祥」。 高校1年生で中学校の時剣道の全国大会で個人優勝、団体3位となった
いわばスーパー剣士だ。 「くっそ。暇で仕方がねぇ!毎日が同じようなことの繰り返し
もうつまらなさすぎる」彼が一日1度はくちにするくちぐせだった。 中学時代も「剣道が一番暇つぶしになるし、スリルがある」などというわけのわからない理由で、部活が終わった後も一人だけ残り
練習に没頭した。 「他人よりも何倍も多い練習量」これが彼を全国制覇へ導いたものなのだ。
だが、高校に入り高2校3の先輩たちに負けると急に興味が消えて、今では部活をさぼる始末。実力を
伸ばそうとしない祥に、監督はイラついていた。
「キーンコーン キーンコーン」やたらうるさいこのチャイム。「やっと終わった!!」あと2時間だけ。さっさとこの退屈な一日を終わらせたい そういっても結局明日も同じような一日。
なにかおこらないのだろうか? 退屈すぎる!
そして学校での全ての日程が終了し暗い夜道を一人歩いていた時だった。
突然何者かに襲われ抵抗しようとしたが無理だった。あいては2人いたのだ。
ひとりは自分の両腕をつかみもう一人が、ハンカチを口元におしつけてきた。 祥の必死な抵抗も
むなしく、あっというまにハンカチにしみこんであった睡眠剤でその場に倒れこんだ。
あまりにも一瞬のできごとであった。 黒いスーツに身を包んだ2人の男は
祥を車の中に押し込み、暗い夜道をはしりぬけた。
目が覚めた祥はまず周りに目をやった。トイレの個室のように狭く、白い一室に彼は閉じ込められていた。つい先ほどの出来事を思い出していたが、祥の頭の中は軽いパニック状態に陥っていた。
「っここはどここだ? 今は何時だ? さっきのやつらは? なぜおれが?」いいだしたらきりがない
ほど、疑問が頭の中に浮かんでいた。目の前に鍵らしきものが金具についていた。
無理にでもこじ開けようとしたがむりだった。手足は頑丈なロープで縛られており指を動かすことさえ難しい。いまだ心の整理がつかないそのときだった。 ひとりでに、まえのドアが「ギィィ」と音を立てて開き目の前に東京ドームくらいはあると言えるほど巨大な広間が見えた。その壁といえる部分には何百ものドアが同じように並んでいた。
「ほんとにここはなんなんだ!なにがどうなっている?」祥は腹を立てながらも吸い込まれるように広間に出た。 途端に四方八方全ての扉から俺と同じように手足を縛られた人たちが苦労しながらも
脱出してきた。男女様々な人が出てきたが共通することは1つ。全員が自分と同じ、高校せいくらいの年齢なのだ。展開が進めば進むほど疑問が増えるいっぽうだった。 ただ1つ予想がつくことがある。 それは、これから起こることが決して良いことではないという事である。 いやな予感がした。
他のドアから出てきた人たちも全員が不安そうな顔を浮かべ、中には泣き出してしまう女子もいた。
こういう時こそ冷静になることが大切だと思った祥は、とりあえずおなじ北星高校の生徒がいないか?を確認した。だが、見当たらない。どこを探しても北星高校の制服を着た生徒はおらず、逆に不安が募るいっぽうだった。 きずけば、額から汗が噴き出ていた。いやな汗だ。 祥は心の中でつぶやいた。
その時・・