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39 ゲームが終わっても、人生は続きますのよ!

特製の馬車に乗ったタマーラとティーナが、両側から白い花を撒いています。


 こういう時、二人で分担できるのは、便利ですわね。

 道の両側には、新たな聖女様を一目見ようと、大勢民衆が詰めかけておりましたの。一人しかいなかったら、聖女様は馬車の中を右へ左へと頻繁に移らなければなりませんし、お祝いに駆けつけた民も、運悪くお姿を見られなかった、などという失望を味わわずに済みますもの。


 「ヴィットーリアが、クオリ姉妹にシナリオを漏らしたのは、正解だったな。彼女たちのお陰で、破滅を回避できたと言っても過言ではない」


 スチュワードが、馬車を見送りながら、感慨深げに言いました。私たちは、沿道のお家を借りて、特等席から新聖女のお披露目パレードを見物しておりました。



 エヴリーヌは、ひとまず王宮預かりとして、軟禁状態に置かれましたわ。

 ソローアモ王国からは、父君のベラムール外務卿の他に、あちらの宰相様と軍事担当者まで来て、平謝りだったそうですの。

 あちらの宰相様は、王族のご出身でした。つまり、王族に頭を下げさせたことになりますわ。

 

 交易条約は、一旦破棄されました。交渉は改めて一から始めるとのことでしたが、未だ再開の話もありません。


 彼女のしたことは、戦争を始める口実にも、賠償として国土の割譲を要求しても良いほどの重罪だと思うのですが、ジョカルテ王国はどちらも行いませんでした。


 ソローアモは海の向こうですから、戦の引き際も飛び地の統治も難しいですわよね。


 その代わり、ベラムール家の財産を賠償として受け取ったそうですの。

 ええ。ベラムール卿は失脚して、爵位も失い、一家お取り潰しになりましたの。


 悪役令嬢の私が辿(たど)る筈だった運命を、代わりに引き受けた形になりましたわ。

 これが、ゲーム『ダイス 愛と野望の渦』のヒロインバッドエンドというものですのね。



 私たちは、エヴリーヌが帰国する前に、彼女から請われて会いましたの。


 「やっぱりあんたたち、転生者でしょう。魔女には会ったのよね? 運命のダイスを無効化するアイテムって、あったっけ?」


 拘束こそされておりませんでしたが、部屋には監視もあり、私たちのために護衛もおりました。彼女は、ゲームのヒロインという仮面を、脱ぎ捨てたのですわ。


 「不敬だぞ。言葉を慎め」


 護衛の一人が叱責しました。今にも、剣を抜きそうでしたわ。スチュワードが、手で制しました。


 「これが最後だ。構わない。ベラムール嬢は、何故わざわざ既婚者や婚約者のいる者と親しくなろうとしたのだ? 例えば、騎士団長だけに愛を捧げれば、ヴィットーリアも後押しするつもりだったのに」


 「どうだか。シナリオ強制力って奴も、(あなど)れない。きっと、悪役化して邪魔したと思うわ。でも、そうね。一人に絞ったら、バッドエンドは避けられたかも」


 こちらは認めていないのに、エヴリーヌは私たちが転生者であるかのように話し続けました。

 私たちも、いちいち念押ししませんでしたわ。押し問答するだけ、無駄というものです。

 

 「セバスティアーノをゲットできなかった時点で、女帝ルートを諦めるべきだったんだわ。あんたが、そんなに重要になるとは思わなかったのよ。前世で女帝ルートだけクリアせずに転生しちゃって、心残りだった。所詮(しょせん)、チュートリアルのモブキャラだと思ったのが、敗因ね。転生者じゃないとしても、あんたに色々助言したのは、セバスなんでしょう?」


 私は、うっかり頷きそうになりましたわ。その時、スチュワードが手に触れてきて、注意が逸れましたの。


 「何度も訂正しますが、私はスチュワードです。一瞬たりとも、セバスティアーノであったことは、ありません」



 エヴリーヌが帰国した後、どうなったかは、知りませんわ。

 処刑の噂は流れませんでしたから、どうにか生きながらえているのでしょう。


 スチュワードによれば、エヴリーヌの前世は平民らしいとのことでしたので、市井(しせい)の生活にも、案外早く馴染めるかも知れませんわ。



 彼女の愚行は、ジョカルテ王家にも、多大な影響をもたらしましたの。


 エヴリーヌとの婚約を夢見たリベリオ様は、王太子を降ろされました。表向きは、病気療養のためとして、実質王宮に軟禁生活ですわ。

 もちろん、私との婚約は解消されました。


 国王夫妻も、リベリオ様を放置した責任を取り、近々退位なさる予定ですの。これも表向きには、別の理由をつけますの。


 次に王位に就くのは‥‥オリーヴィア王女ですわ。

 継承順位二位の王弟殿下は、摂政に就きますの。

 そして、オリーヴィア王女の王配に、アルフォンソ兄様がなりますのよ。


 こうなるまでに、四大公家で色々話し合ったようですわ。いずれ、詳しく聞くことになるでしょう。

 私の見たところ、王家に(ないがし)ろにされたという、お父様の怒りが大きく影響したと思いますわ。


 リベリオ様だけでなく、国王陛下も王弟殿下も、エヴリーヌに振り回されておりましたもの。王家の責任は大きいですわよね。


 アルフォンソ兄様が王家へ婿に行ってしまう余波は、当然ピッチェ家に及びます。


 ブルーノ兄様が後継になるかと思いきや、マリア=カディスの商会の仕事が忙しいというよくわからない理由で、スチュワードにお鉢が回ってきましたの。


 マリアは、公爵夫人になったら、商会の仕事ができないと思ったのですわ。その通りです。

 そして、私とスチュワードが婚約したのでした。


 驚きですわ。

 お父様は、リベリオ様との婚約解消を持ちかけられた時点で、ここまでの作戦行程を描いていたのでしょうか。


 どうも、スチュワードの出自が、お父様に知られてしまっていたようですの。

 それで、グレンツヴァルト辺境伯夫妻が、和解したように見えたのですわ。


 スチュワードがピッチェ家の後継者となれば、グレンツヴァルトの跡目争いには、絡む心配がなくなりますもの。 お父様としても、スチュワードの出自を必要な時に公表できる環境は、好ましいですわよね。



 残念なのは、アルフォンソ兄様がオリーヴィア殿下と結婚することで、タマーラの密かな恋が、望みを絶たれたことですわ。


 年齢的に、オリーヴィア殿下がタマーラの引退までに寿命を終えるとも思えないですし、兄様は王配ですから、側妃にもなれません。


 普通の貴族と異なり、聖女のお勤めを終えた後は、本人の意向が尊重されると聞いています。

 ソフィーア様のように、神殿に残る道もあるならば、そこで穏やかな余生を過ごすのも良いかも知れません。



 そう言えば、フィオリ宰相が、プリシラと再婚したのでしたわ。

 亡くなった奥様を想い続けた筈が、エヴリーヌの誘惑に(なび)く姿を見た周囲が、結婚を勧めたのです。


 国王夫妻が近々退位し、残るオリーヴィア王女はまだ幼いとなると、フィオリ家としては、宰相の地位を手放したくない訳です。

 プリシラとの再婚が、残留の条件だったとも聞こえてきましたわ。


 ジェレミア殿下の摂政就任も、カドリ家出身の王太后様が粘ったのでしょう。この分だと、ティーナの引退後の結婚も、認められるかも知れませんわ。

 アルフォンソ兄様も、お父様も苦労しそうですわね。



 「さて。見物人も大分散った。そろそろここを出ても、良さそうだ」


 スチュワードは立ち上がり、私に手を差し出しました。

 結婚することになっても、私たちの関係は、あまり変わらないように思いますの。


 人前でも敬語を使わずに話して、その時は「俺」が「私」に変わる程度ですわ。

 お父様や兄様たちから、ピッチェ家の当主や殿方の心得を仕込まれて、不在がちなのも、他の召使いの用を手伝うために飛び回っていた頃と、不在であることには大差ありませんわ。


 「そうね」


 私は、スチュワードに手を預けます。そのまま馬車までエスコートされて、乗り込みました。ステラとマルツィオも一緒ですわ。


 窓から街を眺めます。

 リベリオ殿下との義務的なお茶会から解放されて、随分気が楽になりましたわ。


 今のお胸の大きさにも、慣れました。スチュワードは、もう一度、あの臭い魚の樽を作ろうとしてくれましたけれど、私が止めましたの。


 時間が経つと、美味しかった記憶が増すのですが、強烈な臭いもまた忘れ難い記憶です。いつか、臭いの記憶も薄れたら、再挑戦してみますわ。

 いいえ。やっぱりしないと思いますわ。


 「スチュ。今度、あの公園を散策したいわ」


 大きな噴水を見つけて、私はスチュワードの袖を引きました。いつぞや、リベリオ殿下とエヴリーヌが大道芸を見物した公園でした。

 今日は、祭りの後のように、閑散としております。


 「今から行こうか。ステラ、ヴィットーリアの予定はどうだろう?」


 「問題ありません」


 ステラは、私の顔をチラリと見てから答えました。気乗りしない時には、察して予定を入れてくれるのですわ。スチュワードが相手だと、予定が後回しとなる方が多いのです。


 「本当に?」


 スチュワードも、ステラのやり方をわかっているのですわ。笑いながら念押しします。


 「本当です」


 ステラも、つい笑ってしまいました。そこでスチュワードが御者に行き先を伝え、公園へ馬車を停めましたの。

 二人で噴水を一周しましたわ。そこで、突然スチュワードが前へ出て、(ひざまず)きましたの。


 「ヴィットーリア=ピッチェ。私と、結婚してくれますか?」


 そう言って、懐から小箱を出して、蓋を開けました。中には、宝石のついた指輪がありましたの。


 「まあ、スチュワード。もちろん、結婚するわよ。ところで、これはどうしたの?」


 私は、嬉しさで顔が熱くなるのを誤魔化して、彼に立ち上がるよう(うなが)しつつ尋ねました。


 「ええと。前世では、求婚する時に、こうする習慣があって。俺たち、父上に結婚しろって言われて、そのままだったから。何かケジメをつけたくて。それに、考えてみたら、婚約者らしいプレゼントも全然していなかったな、と思った」


 スチュワードは、勝手に私の指へ指輪を押し込みつつ、答えます。


 「同じ家に住んでいるもの。毎日の花束は、以前から続いているし。こうして一緒に出かけるのも、婚約者同士ですることよ。でも、嬉しいわ。ありがとう」


 私は、指輪を光に(かざ)してみせましたわ。大粒の宝石が、きらりと反射しました。


終わり

誤字のご指摘ありがとうございました。

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