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36 どうしても、断罪したいのですわね

 叔父様たちと別れた後、あちこちへ挨拶する間に、パーティが始まりました。

 まず、国王陛下が、この度の条約の締結を祝し、続いて鉱山で起きた悲劇を説明しました。


 「残念ながら、怪我人を出してしまったが、死者を出さずに済んだ。これは、ソローアモから派遣された作業員が、周囲と協力し、迅速(じんそく)に救助を行なったためである。この場を借りて、改めて、彼らの働きに感謝する」


 会場が拍手を送るのは、前方に待機するエヴリーヌですわ。今日も彼女は昼日中から、殿方の目を惹きつけずにはおかない、お胸が露出気味のドレスを(まと)っておりますの。


 カドリ外務卿が、トレイのような箱を持って、進み出ました。娘のプリシラの気持ちを知ってか知らずか、そつのない笑顔を浮かべておりましたわ。


 「今回の救助活動に感謝の意を込めて、記念の品を用意いたしました。ソローアモ側の代表として、エヴリーヌ=ベラムール伯爵令嬢に贈呈いたします」


 会場が、さらに盛り上がりましたわ。エヴリーヌは、許可を得て、早速包みを開きましたの。


 「まあ素敵。ありがたくいただきます」


 双六(すごろく)ゲームでしたわ。箱を開くとそのまま盤になるよう、図柄が書き込まれていて、金貨の形をした二色のコマと、六面体が入っておりましたの。エヴリーヌは、贈呈品を披露するよう、こちらへわずかに傾けました。


 転がり出す六面体。その目の色は、金と赤です!

 『ダイス 愛と野望の渦』の特殊アイテムダイスと同じですわ。


 私は、隣に立つスチュワードの腕を掴みました。その手に、手が重ねられましたの。

 スチュワードの手でした。見上げた顔は、微笑を浮かべておりました。


 その間にも、ダイスは箱を飛び出して、転がり落ちます。エヴリーヌは、親切にも拾い上げようとする殿方を制し、悠々と箱を閉じて、自らかがみ込みました。豊満なお胸の谷間が、殿方を足止めしましたわ。


 その金色の目が幾つだったか、エヴリーヌの表情で、この距離からでもわかりましたわ。六です。考えてみれば、ルビーのような大きな石が嵌め込まれた重い方が、下になるのが普通ですわね。

 私の持っていたサイコロが、普通ではなかったのですわ。


 「これで十。絶対勝ち‥‥って、減った? アイテムって好感度消費したっけ? それでも七ならOK」


 エヴリーヌには、ゲーム上のダイスも見えるようですわ。大きめの独り言の上、内容が意味不明で、彼女の賛美者も流石(さすが)にざわつきます。


 「ベラムール伯爵令嬢、お加減が悪いのですか?」


 カドリ外務卿が近寄りました。


 「もし、難しいようでしたら、この後のご挨拶は抜きにして‥‥」


 「大丈夫ですわ。皆様には、是非ともお礼を申し上げたいですもの」


 我に返ったエヴリーヌが、外務卿に微笑みかけましたの。それで、外務卿は傍へ下がりましたわ。


 「この度は、貴重な銅資源に関して、ジョカルテ王国と我がソローアモ王国との間に、有益な取り決めが結ばれたこと、まことにめでたく存じます」


 姿勢を正したエヴリーヌの挨拶は、堂々たるものでしたわ。

 記念品の双六盤は人に預けましたが、ダイスはドレスの隙間に()じ込んでいましたわ。


 あの様子では、アイテムのダイスは、効果を発揮しなかったのですね。髪飾りと同じように、世界に一つしかないのなら、私の持つ方が本物だったのですわ。

 ほっとしました。


 「‥‥今後、両国の絆を深め、共に発展することを願います」


 パチパチ。

 終わりとみて、拍手が鳴り始めましたが、エヴリーヌの話は、まだ終わっておりませんでしたの。


 「ですが、残念なことに、早くもこちらのジョカルテ王国には、危機の前兆が感じられます」


 皆様、両手を前にしたまま、動きを止めましたわ。


 「めでたい席を汚すのは本意ではございませんが、両国の輝かしい未来のため、看過はできません。私は、この場で、陰謀を企む犯人を告発いたします」


 ここで、エヴリーヌと目が合ってしまいましたわ。勝ち誇った表情を見た途端、幼い頃に鞭打(むちう)たれた感覚が(よみがえ)りました。長い間、忘れていたのに。


 私はふらつく体に力を入れ、手近な物に寄りかかりましたの。

 すると、誰かがしっかりと抱きかかえてくれました。スチュワードでしたわ。


 「ヴィットーリア=ピッチェ公爵令嬢」


 一層力を込めたエヴリーヌの声が、会場に響き渡りました。



 私は、スチュワードに寄りかかって、身を起こしました。倒れている場合ではありません。

 彼が心配そうに見下ろします。頷いて、腕に少し力を入れると、腕の囲いを解いてくれましたわ。


 エヴリーヌはもちろん、会場の目は、私に集まっておりました。こんな時に限って、お父様も兄様たちも、叔父様叔母様も、姿を見つけられないものですわ。


 ちなみに婚約者のリベリオ様は、エヴリーヌの側に立ち、私を睨み据えておりましたの。

 ああ、そういうことですのね。


 「彼女は、リベリオ様、この国の王太子殿下の婚約者である立場を利用して、私欲を満たしておりました。普段から我が儘で、思う通りにならなければ、癇癪(かんしゃく)を起こして物に当たる。それだけならまだしも、四大公家の一つであるクオリ家の聖女選定に口を挟んだり、フィオリ家から貴重な植物を強請(ねだ)ったりしておりました」


 物は言いようですわね。根も葉もない話でないところが、巧妙ですわ。参加者が、彼女の話に耳を傾けるのを感じます。


 「更に決定的なことに、彼女は、隣国フォイエルンドと示し合わせ、ピッチェ家の武力を以て、王都へ攻め込む計画を立てていたのです」


 会場がざわつき出しました。私は国王夫妻へ顔を向けました。すると、お父様の姿が見えましたの。

 軍務卿であるお父様は、国王陛下の側で厳しい視線をエヴリーヌへ向けておりましたわ。ですが、反論はしませんでした。


 そして、両陛下はといえば、人形のような無表情で、会場を見守っていらしたのですわ。

 この方達は、エヴリーヌが、この場で語ることを承知だったのだ、と私は悟りましたの。


 いざとなれば、ピッチェ家を守るため、お父様は私を切り捨てるでしょうね。正しい判断ですわ。

 私もピッチェ家の一員として、覚悟はしていたつもりですわ。どうして、脚が震えるのかしら?


 これが、断罪なのですわね。

 冷たくなった手を、温かいものが、そっと包みました。スチュワードの手ですわ。彼の温度が、私に力を与えてくれましたわ。私も力を込めて、彼の手を握り返しましたの。


 「その証拠に、彼女に仕えるスチュワードという男は、フォイエルンド辺境伯の身内で、彼女と敵国との繋ぎ役を果たしていたのです。現に、彼らはフォイエルンドのグレンツヴァルト辺境伯の元へ、お忍びで出かけたところを、私とリベリオ王太子殿下が目撃しました」


 私はめまいに襲われました。

 絶対に、ここで倒れてはなりませんわ。反乱の疑いを認めた印象を周囲に与えてしまいますし、そうでなくとも、スチュワードがグレンツヴァルト辺境伯の隠し子であることが明るみにされたら、フォイエルンド王国とも事を構える羽目に陥りますもの。


 あの女、私を排除するためとはいえ、何という迷惑を持ち出したのでしょう。

 きっと、私がゲームのシナリオ通り動いていたら、私自身が本当に、そのような恐ろしい計画を立てたのですわね。


 無謀ですわ。愚かですわ。スチュワードがいてくれて、良かったですわ。


 「ヴィットーリア=ピッチェ公爵令嬢は、目撃者である私を消そうと、様々な妨害工作を仕掛けてきました」


 何とか倒れずに堪えた私の耳に、エヴリーヌの告発が流れ込みます。それは、プリシラの嫌がらせですわ。

 さりげなくプリシラの様子を窺うと、(おび)えた目で私の方を見つめているではありませんか。


 自分でしておいて、忘れてしまったのですわ。それとも、王太后様の侍女にでもやらせたのでしょうか。

 王太后様は、素知らぬ顔でいらっしゃいます。どちらにしても、名乗り出そうにはありませんわね。


 それに、いくらプリシラでも、ならず者を雇ってエヴリーヌを襲わせるまでは‥‥しないと思いますわ。

 襲撃者は、捕まっていないのですわよね?


 「これらのことを、私はここに告発いたします。ヴィットーリア様、観念なさってください。せめてもの情けに、貴女のお兄様に拘束をお願いしましょう」


 てっきりアルフォンソ兄様が来るかと思いましたら、姿を見せたのはブルーノ兄様でしたわ。

 王宮内のことで、確かに近衛隊長のお仕事ですわね。アルフォンソ兄様はどこへ行ったものか、見当たりません。


 アルフォンソ兄様の恋は応援したかったのですが、エヴリーヌの方は、騎士団長の兄様を、道具としか見ていないようですわ。


 ブルーノ兄様は、スチュワードと二人で私を挟むように、隣に立ちましたが、拘束したり、連行したりする様子はありませんでした。そして、問うように国王陛下に目を向けましたの。


 「どうしました?」


 尋ねたのは、エヴリーヌですわ。

 見目麗しいブルーノ兄様は、彼女の方など見向きもせず、陛下、あるいは軍務卿であるお父様の指示を待っておりましたの。当然ですわね。


 ジョカルテの近衛隊長が、ソローアモの一伯爵令嬢の命令に従うなど、あり得ません。


 「リベリオ」


 陛下の口から出たのは、王太子殿下の名前でした。ざわついていた会場が、静かになりましたわ。


 「ただ今、ソローアモ王国のベラムール外務卿がご息女、エヴリーヌ=ベラムール伯爵令嬢から、我が国のヴィットーリア=ピッチェ公爵令嬢に対し、国家反逆罪とも取れる告発があったが、お前はかの令嬢の婚約者として、申し述べることがあるか?」


 「はい」

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