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28 してやられましたわ

 スチュワードが動く間に、私は王妃陛下から呼ばれて、王宮へ行きましたの。


 エヴリーヌが王都へ戻った話は聞いておりました。以前のお茶会を思い出すと、気が重かったですわ。

 案内されてみると、王妃様の隣には、オリーヴィア王女殿下が座っておりましたの。


 「しばらくぶりね、ヴィットーリア。あまり王宮に顔を見せないと、忘れられてしまうわよ」


 王妃陛下は冗談めかして仰いますが、呼ばれもしないのに王宮に入り浸る図々しさは、持ち合わせておりませんの。と返す訳にもいかず、微笑むに留めましたわ。


 「先日は、フロンティエラント領まで遠出したそうね。リベリオが貴女を追ってゲッタイヒ湖へ落ちるところだったとか。元々の性質を抑えるのは難しくとも、いずれ結婚するのだから、仲良くしてもらわないと困るわ」


 一体、どこをどのようにしたら、()()をそのような解釈に落とし込めるのでしょうか?

 王妃陛下のお耳へ入るまでに、相応の人数を経たとして、悪意のある人物が間に複数挟まっていそうですわ。


 まるで、私の我が儘を制止するため、リベリオ様が辺境まで追ってこられて、挙げ句の果てに湖へ落とされそうになったみたいではありませんか。


 実際は、私を追ったのはエヴリーヌで、彼女がボートに乗りたがり、湖へ落ちたのです。

 リベリオ様は、彼女の企みに巻き込まれたのですわ。


 「まだ婚約中の身で、王太子殿下に意見する立場にはございませんが、我が身については、(つつし)むよう努力いたしますわ」


 事実がどうあれ、陛下に注意されては、致し方ありませんわ。

 遠回しに私のせいではない、と主張しつつ、反省の意を示してみせました。


 エヴリーヌが女帝に就いたら、王妃陛下は当然廃位となります。

 きっと、国王陛下もあの女に夢中なのでしょうね。王妃陛下は、ゲームシナリオをご存知なくとも、悪い予感を覚えているのでしょう。

 だからと言って、私に八つ当たりなさらないで欲しいですわ。


 「私もエヴリーヌ姉様と一緒に、ボートへ乗りたかったですわ。湖へ落ちた時、騎士団長が飛び込んで、助けたそうですわね。その後、看病まで担ったとか」


 オリーヴィア殿下が、話の向きを変えてくださいました。幼いながら、気の利く方ですわ。

 ですが、スチュワードによれば、エヴリーヌの味方なのでしたわね。つまりは、私の敵なのです。


 「兄は護衛として、当然のことをしたまでですわ。ソローアモ王国からの大切なお客様を、病気にしてお返しはできませんもの」


 「そう言えば、アルフォンソはピッチェ家の後継者なのに、まだ婚約者を決めていないのですって?」


 「左様にございます」


 王妃陛下の目が光ったように見えましたわ。私は、心で大きく頷きながら、目を伏せました。


 陛下、お気付きになってくださいましたのね。アルフォンソ兄様とエヴリーヌが結婚すれば、国王陛下やリベリオ様の浮気問題が、一挙に解決するのですわ。


 ですが、私が願い出るのは、出しゃばりに過ぎます。あくまでも、陛下からのご提案を待つ構えですの。


 「ベラムール伯爵令嬢も、そろそろお相手を決める年頃ね。彼となら、釣り合いが取れるのではないかしら?」


 陛下の(おっしゃ)る通りですわ。

 私は内心ほくそ笑みました。


 「まあ。気付きませんでした。確かに、そのように見受けられます。あちらは、ソローアモの身分あるご令嬢。上手く(まと)まりましたら、現在交渉中の案件にも、良い影響が及ぶかもしれません。ジョカルテ王国とソローアモ王国の将来にも、期待が持てますわ」


 さりげなく、ピッチェ家ではなく、国としての縁談を勧めます。喋り過ぎたかしら?

 いいえ。王妃陛下も、国王陛下に王命を出させることで、エヴリーヌへの気の迷いに引導を渡そうと、お考えになっておりました。

 私は、そのお考えを後押ししただけですわ。


 「そうね。アレサンドロに言ってみるわ。ピッチェ家としても、騎士団長としても、早く後継者を作ってもらわないと困るものね」


 やりましたわ。王妃陛下を味方につけましたわ。

 正確には、私ではなく、アルフォンソ兄様の味方ですわね。良いのですわ。ピッチェ家に後継者の心配がなくなれば、後は私の保身を考えるだけですもの。


 「ここにいたのね。ヴィットーリア=ピッチェ」


 前触れもなく、王太后様が入って来られました。一同びっくりして、王妃陛下までもが、椅子をがたつかせてお立ちになりましたわ。


 「王太后様。ご無沙汰しております」


 私は挨拶で深く垂れた頭を、なかなか上げることが出来ませんでした。

 何となく、王太后様が、私に険しい表情を向けていらしたように感じましたの。


 「ヴィットーリア=ピッチェ。近頃、港の方で何やら動いているようだが、まさか、カドリのやり方に横槍(よこやり)を入れようと?」


 あっ。

 スチュワードが、ドジを踏みましたのね。彼は策士ではありますけれども、隠密行動には向いていないようですわ。


 私は顔を伏せたまま、忙しく考えを巡らせました。

 王太后様のお怒りに火をつけた行動は、私の破滅回避が目的ではありますが、カドリ家の為にもなる事です。

 ですが、説明したところで、言い訳としか受け取られない雰囲気が出来上がっておりましたの。


 「まさか。そのような考えを持った事は、ございません」


 ひとまず、最低限の言葉で保身に努めます。


 「ジェレミアが言うには、港の役人どもが、パエセスト行きの貿易船にやたら難癖(なんくせ)をつけ、出航を遅らせようとしているそうだが」


 王弟殿下が相手では、下っ端役人は抵抗できません。何故ここで、ジェレミア殿下の名前が出てきますの?

 嫌な予感がしますわ。


 「恐れながら申し上げます。港湾担当者は、船だけでなく、環境など総合的な見地から出航の判断を下すのですわ。そう言えば、この先、東の方で海が荒れるような噂を耳にしましたの。あるいは、天候を見込んでの判断かもしれません」


 王太后様は、ふん、と息を吐きました。


 「その話は知っている。だから、出航を早めさせたよ。嵐を予測したなら、それまでに如何に先へ進むかが勝負。嵐が過ぎても、海はしばらく荒れるものよ」


 「左様にございましたか。これは、勉強不足でした。ご教示ありがとうございます。早速、担当の者にも学ばせますわ」


 私は素早く折れました。王太后様の怒りが、少しばかり落ち着いたように感じられましたわ。


 「ジェレミアは、エヴリーヌ嬢から知識を得たそうよ。ソローアモは色恋沙汰にしか興味がないかと思っていたが、意外に幅広い知見を蓄えていそうだ。あれも独り身が長いし、そろそろ身を固めても良いかもしれないな」


 「私、エヴリーヌ姉様が王宮に住んでくださったら、毎日遊べて嬉しいですわ」


 オリーヴィア王女殿下が、素早く口を挟みました。

 私は、恐る恐る顔を上げました。王妃陛下と、目が合いましたわ。済まなさそうな顔つきをされましたの。


 つまり、アルフォンソ兄様の縁談が、遠のいたのですわね。



 これで、カドリ家を敵に回すまでは行きませんが、味方に取り込むのには失敗した訳です。王家もまた同じく、味方とは言えない状況ですわ。


 エヴリーヌは、クオリ家を省略して、カドリ家へ直接手を伸ばしましたのね。

 すっかりしてやられた格好ですわ。

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