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27 先手必勝ですわよ

 湖のイベントに立ち会わされた私は、スチュワードも回復したことですし、さっさと王都へ戻りましたわ。


 エヴリーヌは熱も出ず元気そうでしたけれど、バルナバ叔父様が気を遣って、しばらく安静と医者に言わせたので、フロンティエラント領へ留め置かれましたの。


 リベリオ様が側で看病したがっておりましたが、王太子としての予定もおありです。護衛と一緒に戻されましたわ。私とは別の馬車です。


 代わりに、アルフォンソ兄様が残ることになったのは、嬉しい誤算ですわ。

 エヴリーヌは一応、ソローアモ外務卿の娘で、伯爵令嬢ですからね。

 騎士団長自ら看病につくことで、事故に遭わせた償いに誠意を見せる意味合いでしょう。


 兄様は、不謹慎と自戒しつつ、喜んでおりましたわ。エヴリーヌの体調には、何の不安もありませんもの。

 兄様もずぶ濡れになりましたが、健康そのものでしたわ。湖での水浴びが、大したことではなかったように見えますけれど、違いますのよ。


 部下の方々は、唇まで紫色でしたし、熱を出したり寝込んだりしましたもの。日差しは暖かくとも、水温は低かったのですわ。

 無事だったのは、ひとえに二人が、ヒロインと攻略対象だったからですの。


 ベラムール外務卿も、見舞いの使いを派遣しましたけれど、帰国させようとはしませんでしたわ。王家からお詫びも含めた見舞金を受け取った上、更に滞在を延ばすそうですの。図々しいですわね。


 ですが、国王陛下を始め、王弟殿下や宰相様が強くお引き留めした、とも聞こえておりますわ。



 エヴリーヌが叔父様の領地に留まる間に、私たちは聖女ソフィーア様と面会致しましたの。以前、スチュワードが言っていた、カドリ家に関するイベント絡みですわ。


 ソフィーア様はクオリ家が生家に当たりますが、聖女として、この件に関わりがあるのです。


 「そうですわね。近頃、カドリ家からも、ベラムール伯爵令嬢からも、面会のご要望はありませんわ。ベラムール伯爵令嬢は、タマーラとティーナに会いたいようですが、彼女たちは見習いですので、お断りしているところです」


 見習いのうちは、世俗との関わりを避ける決まりになっているのです。

 エヴリーヌにしてみれば、舞踏会に顔見せしておいて、いざ面会の段に、世俗を避けたいと断られるのは、理不尽でしたでしょうね。


 如何に寄付を積まれようと、例外を認めるべきではなかったのですわ。それも、『ダイス 愛と野望の渦』シナリオの強制力とかいうものかもしれません。


 今日は、タマーラもティーナもいないので、スチュワードも同席しておりますの。正式に聖女となれば、国民のため方々へ祈りに出かけることもあり、異性との接触禁止などと言ってはいられないのですわ。


 スチュワードは、つい最近、私専属の執事に取り立てられましたのよ。つまり、フォイエルンドへ行った時には、正確には執事でなかった訳です。


 あのような場で虚偽を申告するなんて、本当に怖いもの知らずですわ。ですが、外交は化かし合いとも言いますものね。

 結果、うまく事が運んで良かったですわ。


 ともあれ、エヴリーヌはカドリ家のイベントに、手をつけていないようですの。

 突然、辺境へ行った私たちの動きを怪しんで、追いかける方を優先したのですわね。私たちにとっては、運が良かったですわ。


 「もうすぐ、カドリ商会の船が、パエセストへ向けて出航するのですが」


 パエセストは、遠く東方にある国ですわ。同じ海の向こうでも、ソローアモより遠いので、どのような国か、あまりよくわかっておりませんの。


 私は、スチュワードから聞いた話を、如何にも自分の話のようにして、ソフィーア様に伝えます。

 彼と私の身分関係からすると、私から話した方が、ソフィーア様のご理解も得やすいのですわ。

 バルナバ叔父様や、グレンツヴァルト辺境伯夫人に対しても、同じ理由で、私が行きましたの。


 「三日ばかり、遅らせて欲しいのです」


 ソフィーア様が、大きく目をみはりました。私の頼み事は、聖女様に偽の予言をしろ、と言っているようなものですもの。驚きますわよね。


 「何か、ご事情がおありのようですわね。神からのお告げを受け取る者として、嘘をいう訳にはいきませんが、お話だけは伺いましょう。経験から、ご助言できるかもしれません」


 「ありがとうございます。その前に、一つ確認が。聖女様は、この件に関して、あるいはカドリ商会に関してでも、何かお告げを受けませんでしたか?」


 精一杯のソフィーア様の譲歩を脇に置いて、私は踏み込みます。


 「お告げは内容によって、広く知らしめて良いものと、みだりに明かしてはいけないものとに分かれます。ヴィットーリア様のお求めのものは、後者に当たります。お告げの有無を含めて、お答えできません」


 「わかりました」


 ソフィーア様の答えは、予想されたものでしたわ。私は、更に念を押します。


 「ベラムール伯爵令嬢が、同じ要望を持ち込むかもしれませんわ」


 「ヴィットーリア様。本当に、何が起きているのか、お話いただけませんか? 私もそろそろ引退を考えているのです。今の時期は、神と私たちの繋がりが薄れていて、私たちは地上に散ったお告げの片鱗(へんりん)を拾い上げようと、必死なのです」


 「そうなのですね」


 それでヒロインがしゃしゃり出て、聖女様にお告げの助言などしてしまうのですね。ソフィーア様の耳にも、エヴリーヌが次々と殿方を(たら)し込む噂が届いているのでしょう。


 (もっと)も、私も今、彼女の行動を真似て先取りしたのですけれど。

 ゲームでは、ヒロインが予測した災害を信じてもらうために、聖女様の力を借りるのですわ。


 ですが、急いだ私たちは、説得できるだけの客観的な証拠を持たずに来てしまいましたの。ヒロインと違って、全部自力で集める必要がありますもの。とても間に合いませんわ。


 湖のイベントで、エヴリーヌは、わざわざ私を巻き込もうとしましたわ。

 自分が幸せになるだけでは、足りないのですわ。

 破滅を回避するために、ヒロインのイベントを横取りするくらいのこと、あちらの仕業と比べたら可愛いものでしょう。


 「私に言えることは、ベラムール伯爵令嬢が、只者ではない、ということぐらいですわね」


 まさか、ゲームシナリオの話など、できませんわ。そのせいで、私にも予言の力があるように誤解されている気もしますが、誤解ですから。


 ソローアモ外務卿の娘相手に、下手な事を言えば、足を引っ張られます。壁に耳あり、と言うではありませんか。


 それにしても、引退間近の聖女様は、力が弱まるのですね。初めて知りましたわ。いいえ、弱ったからこそ、引退されるのですわ。



 「これで、あの女が後からソフィーア様に進言したとしても、功績を独り占めにはできないわ」


 神殿からの帰りの馬車で、私はスチュワードに話しかけました。彼の方は、厳しい表情を崩しませんでしたわ。

 湖の一件以降、私には、エヴリーヌをあの女呼ばわりする癖がついてしまいました。心の声を抑えきれないのです。


 「だと良いが。これまでと違って、天候が関わるイベントは、どうにも不安だ。タマーラとティーナの能力も気になる」


 「どんな能力なの?」


 てっきりソフィーア様と同じ、予言をするのかと思い込んでおりましたわ。私が直接知る聖女様は、ソフィーア様だけですもの。スチュワードは、少し躊躇(ためら)ってから、渋々口を開きました。


 「雨乞(あまご)い、って言うのかな? 雨は降らせることができるらしいぞ」


 「それでは、もしかして、カドリ商会の遭難は‥‥」


 カドリ商会の貿易船は、予定通り出航すると、嵐だったか竜巻だったかに巻き込まれ、難破してしまうのです。

 スチュワードも、正確な日にちまでは覚えておらず、二人相談の上で、三日遅らせれば大丈夫だろう、と私がソフィーア様に申し上げたのですわ。


 『ダイス 愛と野望の渦』では、ヒロインの助言に従った聖女様が、出航前の安全祈願に訪れたカドリ商会のお歴々に、出航日を遅らせるよう告げて、船は難を逃れるのです。


 後からお告げが、ヒロインのお陰と知ったカドリ家は、その有り余る財力を挙げて彼女を支援するのですわ。これは、王太子ルートと騎士団長ルートの場合でしたわね。


 ええ。そこで潰されるのは、私ですの。


 「クオリ家がカドリ家に、敢えて仕掛けるとも思えない。ゲーム的にも、そういう描写はなかったと思う。だが、双子が関わる可能性は、頭に入れておこう」


 「そうね。後は、出航を遅らせるため、船にも働きかけるのよね。赤芋の収穫は順調かしら?」


 「ああ。フィオリ家との繋がりが役に立った。良い種芋を貰えた。まさか、この世界に()()()()()があるとは、さすがゲーム、と思ったよ」


 カドリ商会が神殿を訪れるとも、ソフィーア様が助言をするとも、そして商会が助言を聞き入れるとも、限らないのです。


 私たちはピッチェ家の権力を動員して、出航ギリギリに積荷を増やすことで、邪魔をしようと企んでおりましたの。


 当然、諸々の手続きに関わる役人にも、手を回しますわ。無許可で出航すれば、帰港できなくなる上、罰金や船長の拘束、積荷の没収など、ありとあらゆる面倒が降りかかりますのよ。


 知らぬこととはいえ、これで船と命が助かるのですから、三日程度の遅れは我慢してもらいますわ。

 赤芋は、航海中の食料にしてもらう手筈ですの。


 パエセストへは、主に美術品を輸出しております。そして、あちらからの輸入品もまた、美術工芸品がほとんどですの。火薬などという物騒(ぶっそう)な物も、ありましたわね。


 いずれにしても、漂流した時、お腹の足しにはならないのです。

 スチュワードのいた世界では、赤芋のことを、サツマイモと呼ぶらしいですわ。

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