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14 どうやら、見覚えのある姿ですわ

 宝飾店や靴屋を巡ってもまだ時間に余裕がありましたので、お茶を飲める店へ立ち寄ることにしましたの。

 甘味や軽い食事も取り揃えた、休憩に便利な店ですわ。


 私は、こういう店にはほとんど入った覚えがなく、わくわくしながら店の隅から隅まで眺めてしまいましたわ。少々はしたなかったですわね。


 貴族専用店ではないので、平民も利用しますが、富裕な者に限られるようでしたわ。

 きっと、支払いの問題でしょうね。


 私たちは、二階の部屋へ案内されました。ベランダがあって、引き戸を開け放してありましたの。

 部屋が広く見えましたわ。


 遠慮するマルツィオとステラも座らせて、四人でお茶とケーキを食べました。スチュワードは、最初から座っておりましたわ。

 店員が、四人席の部屋へ案内したのですもの。全員分のお茶と甘味を注文しなければ、店に失礼ですわよね。


 ケーキは基本に忠実で、可もなく不可もなく、といったところでしょうか。ですが、こういう場所で食べると、一味も二味も違って感じられますわ。

 茶葉も淹れ方も、一応合格点としておきましょう。


 「美味しいケーキをご馳走になり、ありがとうございます」


 「このような店には、なかなか入らないので、良い経験になりました」


 ステラもマルツィオも貴族なのに、初めて入ったと言いますの。お世辞で嘘をつくとも思えないので、休みが少ないか、一緒に行く人がいないかのどちらかと思いますわ。


 こうした店を、一人で利用すると、居心地が悪そうですものね。

 スチュワードは、黙々とケーキを平らげ、紅茶を飲んでおりました。彼が、この店へ案内したのですわ。

 一体、誰と来たのでしょうね。


 思い出を辿(たど)るように、ベランダの方を眺めておりましたが、つと席を立って、そちらへ移動しましたの。


 店は通りを挟んで公園と面していて、部屋に座っていても、噴水の飛沫(しぶき)が見えました。

 ケーキを食べ終えた私は、景色を眺めようと、席を立ちました。


 「貴方たちは、食べ終えるまで、そこに居て結構よ」


 声をかけましたが、マルツィオなどは、残りのケーキにフォークを突き立て、一度に口へ押し込んでしまいました。

 目を白黒させております。ケーキの味わいが台無しですわ。

 二人のことは放っておいて、スチュワードの隣から外を眺めました。


 素敵な景色でしたわ。

 噴水の周りが広場になっていて、ちょっとした屋台も出ておりました。


 幾つもの球を投げ上げては受け止める芸人の周りを、食べ物片手に見守る人たちの表情は、楽しそうです。

 広場を囲むように植えられた木々には、それぞれ花が咲いて、その場面を絵画に切り取ったようでしたの。


 ハッと目が覚めたように、スチュワードが私に手をかけました。


 「お嬢様。中へ入りましょう」


 「お前、お嬢様に手を‥‥ヴィットーリア様、風に当たるとお体が」


 いつの間にか背後にいたマルツィオも、一緒になってベランダと私の間に割り込もうとしますの。やはり側にいたステラが不審顔で、公園の方を観察し始めましたわ。


 「あ」


 そこまでされたら、気になりますわよね。


 「貴方たち、そこをおどきなさい。何を隠しているのか、私に報告するのよ」


 私は、スチュワードとマルツィオを押しのけましたわ。二人は素直に従いました。

 本当の力では、(かな)いはしないのですが、そこは主従の力関係というものです。


 「お嬢様、ご覧にならない方が、よろしゅうございます」


 ステラが、焦った様子で忠告します。私は構わず、ベランダの向こうに広がる景色を観察し始めました。


 ちょうど、芸人が見物客の一人に、花を手渡したところでしたの。大方、手品で出した物でしょう。

 周囲の見物客から拍手された彼女は、一緒にいた殿方に笑いかけました。


 エヴリーヌ=ベラムール嬢でしたわ。


 平民に変装した体ですけれど、隠しきれない美貌と、白昼堂々露出気味のお胸で、すぐにわかりましたわ。


 ゲームのヒロイン仕様とでも言いましょうか。娼婦と間違われかねないというか、絶対に独り歩きはできない服装ですわね。


 交渉相手の国情を視察しているのでしょう。案内するのは‥‥リベリオ様でした。

 それで私のお供たちが、見せまいとしたのですね。


 リベリオ様もまた、平民の格好でいらっしゃいましたわ。ベラムール嬢と比べたら、より徹底しておりました。

 婚約者の私でなかったら、この距離では見分けられなかったと思いますわ。


 外国からの賓客(ひんきゃく)が、お忍びで街を視察するのに、王太子殿下自ら案内することもあるでしょう。

 年が近いことですし、一緒に行動しても、周囲から怪しまれずに済みますもの。


 それでもスチュワードたちが私を遠ざけようとしたのは、二人の距離が近過ぎたからですわね。

 ベラムール嬢は、リベリオ様の腕に絡みつくようにして寄り添い、リベリオ様もまた、顔を近くへ寄せられておりましたの。

 まるで、劇場で見る恋人同士のような振る舞いですわ。


 「ここで揉めると、人目につくわ。静かにしてちょうだい」


 私の言葉に、ステラとマルツィオは後ろへ下がりました。スチュワードだけは、隣に立ったままですが、私の邪魔にはならなかったので、そのままにしておきました。


 リベリオ様は、芸人に投げ銭をすると、ベラムール嬢と共に公園の方へ姿を消しましたわ。

 これは、もしかして、攻略対象の好感度を上げる、ということなのでしょうか。


 すぐスチュワードに確かめたかったのですが、この場には、マルツィオとステラもおります。

 私は、三人に帰宅を告げましたの。

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