13 悪役令嬢も、真面目にお仕事しますのよ
今日は、街に出ておりますの。
孤児院へ寄付を届けに行きますのよ。お供はステラとマルツィオとスチュワードですわ。
プリシラから教わったお胸の新下着、ステラに手伝ってもらって、試着してみましたの。
ひんやりとした膏薬が、ぴたりと胸に吸い付く感触は、慣れるのに時間が必要ですが、下着の見える心配もなく、大胆なデザインのドレスを着られますの。
これがお店で買えるようになれば、社交界のご婦人に広まること、間違いありませんわ。
胸を盛り上げる効果もありますし、締め付けも少なく、なかなか考えられた発明ですわね。ベラムール嬢は、大した才媛です。
ただ、膏薬が乾いてしまったり、ダンスで激しい動きをしたりすると、お胸がポロリしてしまうのが、欠点ですわ。
まだまだ改良の余地がありましてよ。
あれからベラムール嬢が我が家に来ることもなく、彼女が何をしているのか、私にはさっぱり聞こえてきませんでしたわ。
アルフォンソ兄様と、二人でお出かけするようにも見えませんでしたし。
スチュワードによれば、今頃は、ルートに入った攻略対象の好感度を上げている、とのことですの。
兄様とお出かけしていないのなら、別のルートに入った、と言うことになりますわね。
ですが、どなたかと親しくお付き合いなさるなら、噂になっても良さそうですのに。
敵認定されたとしても、私に限りますわ。それはつまり、アルフォンソ兄様が攻略される、と言う意味でもありますもの。私はまだ、希望を捨てておりませんわ。
「ご寄付もありがたい事ですが、いつも気にかけていただいて、子供たち共々嬉しく思っております」
孤児院の院長は、金貨の入った袋を手にして、頬が緩むのを止められないようですわ。
現金の他にも、古着や食料など、馬車に積んできた品物を、マルツィオとスチュワードで運び込みましたの。
タマーラとティーナは、刺繍を教えたり、プリシラなどは算術を教えたりしたそうだけれど、私は家の代理で帳簿や子供たちを見る程度ですわね。
大抵の孤児院は、神殿と繋がっていて、院長や職員が派遣されることも多いのです。
神殿と言えば、クオリ家の聖女様が思い浮かびますわね。神殿関係者が、全てクオリ家の所縁とは限りませんわ。
影響が強いことは、認めましょう。
ピッチェ家の支援するこの孤児院の院長も、クオリ家分家の一員ですもの。
「流行病が収まって、子供たちの療養も落ち着いたようですね」
私は、帳簿を見ながら、院長に話しかけました。
「はい。両親が亡くなっても、周囲の誰かが引き取る余裕が出てきたようです」
孤児院は、一度に家族を失った子供も、引き受けてきましたの。私も罹った流行病は、多くの孤児を生み出したと聞いておりますわ。
「そういえば、当院で流行病の患者が出た時に、ピッチェ家の方から貴重な薬草を分けていただき、大変助かりました。ヴィットーリア様もお罹りになられた時期ですのに、尊いお志と感服いたしました」
「偶々当家に、余分が出たからですわ。十分な量ではなかったと思います。院長が、ご無事でいらして良かったですわ」
実際には、初めて収穫したエフェドモン草が、本当に効果を発揮するのか、人体実験のつもりで渡した、と家の者から聞きましたの。
スチュワードは、使い方までは知りませんでしたものね。院長が、正しく有効に薬草を扱ったようで、本当に良かったですわ。
強い薬は、使い方を間違えると毒にもなりますものね。
「出院する方は、神殿行きが多いのですね。ありがたいけれど、そんなに大勢引き取ってくださって、神殿の方は成り立つのかしら?」
孤児院は、大体十五歳までの子供を預かります。それまでに、養子先や働き口を見つけてやるのが、院の仕事でもありますの。
「一生を神殿に仕える子は、僅かです。神殿で新たな知識を得て、商家などへ雇われることもあります。ご心配には及びません」
「武芸に見込みのありそうな子がいたら、我が家へお知らせくださいね。騎士団へ紹介しますわ」
騎士団では、平民も強ければ出世が望めます。そのまま騎士の称号を得ることもできますし、爵位のある家へ養子に入ることもありましたわ。
「もちろんです。アルフォンソ様も、時折子供たちの様子を見にいらっしゃるのですよ。戦いごっこなどをさせて、適性を見極めていらっしゃるようです」
そうですわね。やはり、素養のある兄様が直接観察した方が、信頼できますわね。
兄様も、孤児院を気にかけていると知って、嬉しい気持ちが湧きましたわ。
孤児院を出ると、馬車は街の賑やかな方へと向かいます。街の店を見て回るのも、勉強になります。
いいえ。折角の機会ですので、街で買い物を楽しみたいのです。たまの息抜きですわ。
さて、どの店へ行きましょうか。
普段は、屋敷へ品物を持ってきてもらいますの。ですから、日頃お世話になる店でも、見かけない品物が並ぶショーケースは、新鮮に感じますわ。
予告もなしで行きましたから、品物を入れ替えたりする暇もなかったでしょう。ピッチェ家と知らずに接客する店もありましたのよ。
退店するまでには、担当の方が出てきてくれましたけれど。いつもと違う店員から、いつもと違う品物を勧められるのも、面白い体験でしたわ。
結局購入するのは、いつもと同じ傾向の品なのですけれどね。