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煌めく、想い  作者: りん
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【第一章:Lesson】⑨

「ちょっと確認なんだけどさ。怜那は沖先生の補習行きたいのか?」

 大翔に訊かれ、怜那は一瞬の躊躇いの後で思い切って口を開く。


「うん、行きたい」

 行けるか行けないかが真っ先に浮かんだ。けれど、そうではなくて行きたいか行きたくないかなら、答えは考えるまでもなかった。


「怜那が補習行きたいなんてなぁ。しかも数学! 天変地異の前触れかよ」

 怜那の答えに、彼はにかーっと笑う。


 ──大翔ってホントに表情豊かだよね。顔も、……私の趣味じゃないけどカッコいい方だ、と思うし。背も高くて、性格も明るいし頭もいいもんね。男も女も友達いっぱいいて、しかも凄いモテるのに、なんで家が隣ってだけの私といるんだろ。


 怜那は、一部で自分と大翔の仲が誤解されているらしいのも知っている。

 実際には生まれた時から隣同士の幼馴染みという関係、それ以上でも以下でもないのだが。

 彼も探りを入れられるたびに、あっけらかんと「怜那は妹としか思えないな」と返してはいたが、一緒に居ることが多いせいで疑われることも珍しくないらしかった。


 ──もしかして、モテすぎて鬱陶しいとかで、誤解も都合いいと思ってんのかな。それはそれでどうなんだって感じではあるけど。大翔がいいんなら、私は全然構わないんだけどさ。


 怜那自身、今までに彼氏が欲しいなどとは思ったこともなかった。

 それどころか大翔の存在がある種の牽制(けんせい)になっているとしたら、むしろありがたいくらいなのだ。

 怜那は特別背が低いわけではないが、とにかく細身だ。女性らしい凹凸(おうとつ)に乏しいことは、攻撃の格好の材料だった。

 子どもみたい、幼児体型、いくら顔がよくてもあれじゃね、と聞こえよがしに嘲笑われても、怜那には相手が期待しているだろうダメージなどはない。

 しかし、羽虫のようなもので邪魔なのは間違いなかったからだ。

 大翔に直接(とが)められて、「そんなつもりじゃなかったのに酷い」と被害者面さえできる厚顔さには呆れたものだったが。

 見様によっては、か弱く繊細そうに映るらしい顔立ちや体形。

 謂わばイメージだけで寄って来た男子生徒が、怜那を「キレイ」「カワイイ」と褒めそやし、「守ってあげたい」と口走るに至っては失笑しか出ない。

 しかも辛辣な対応で返り討ちにあって、腹立ち紛れに悪評を振りまくような彼らには辟易していた。


「……怜那さぁ、沖先生が好きなんだよな?」

 唐突な大翔の問いに、一瞬時が止まった気がした。目の前が真っ暗になり、──周囲から少しずつ色が戻って来る。


「何、何言って、大翔──」

 半ば頭に霞がかかったような状態で、怜那は何とか笑い飛ばそうとした。けれど、たぶん上手く笑えていない。


「そんなわけ、ないじゃん。いきなり何なの?」

「怜那。俺に嘘吐かなくていい。……無駄だから」

「嘘、なんかじゃ……。嘘、ってそんな」

 ……笑えない。怜那は今、冗談では済まない事態に陥っている。


 ──男の話なんてどーでもよかった。今まで好きな人なんていなかった。ホントに! ……ホント、に?


「大翔、私。私、──どうしよう」

「何が? お前にとって、好きな人が居るのって困ることなのか?」

 冷静に、怜那の逃げ道を塞いで回るかのような大翔に混乱する。

 なんだかんだ言っても、常に優しく見守って、──甘やかしていてくれていたのだろう幼馴染みの厳しい対応。


「す、好きな、人、なんて」

「怜那、何が怖いんだ? 人を好きになるのは、全然悪いことじゃないだろ。……まあ、相手が相手だけどさぁ」

「だって私。男、なんてどーせ──」

「……沖先生は怜那の顔とかだけ見てる連中とは違うよ。それくらい、お前はわかってる筈だ」

 大翔の、低く抑えた声。


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