【第四章:Warning!】⑤
◇ ◇ ◇
ID交換をしたあのときの、練習のようなやり取り以来、怜那は初めて沖にメッセージを送った。
《先生、ちょっと話したいことがあるんだ。》
《もしできたら、学校じゃない方がいいんだけど。》
《通話できる時間とかあったら教えてください。》
《あ、ゴメン! 無理ならいいからって言うの忘れた!》
続けて送信して、あとは沖の応答待ちだ。
《今晩、九時頃からなら大丈夫だけど、お前はそれでいい?》
三十分ほどして返信が来た。
速攻で《私も大丈夫!》と送る。
《だったらこっちから掛けるから。ちょっと待ってて。》
沖の返事を確かめて、怜那はほっと息を吐いた。
あゆ美のことを、沖に相談してみようと思ったのだ。
生徒の自分たちには、どうしても先生側の気持ちはわからない。だから沖に訊いてみたかった。
もちろん、沖は高橋ではないから、あくまでも教員の立場的なものだけでも。
九時少し前から、怜那は机の上のスマートフォンをちらちらと見るのを止められなかった。
沖は忙しいのだから、きっちり時間通りには無理かもしれない。
そう思っていたところへ通話の着信音が鳴って、怜那は飛びつくようにしてスマートフォンを手に取り、応答ボタンを押した。
「はい! 沖先生?」
『そう。今話せるか?』
「うん。あの、相談があるんだけどいい?」
話しながらベッドに乗り上げ、掛け布団を捲って、壁にもたれて座る。
『いいよ、俺で答えられることなら』
「あの、友達の話、なんだけど」
怜那は、いったん台詞を頭で唱えてみてから、沖に向けて話し出した。
「えっと、誰かとかはちょっと言えないんだ、ゴメン」
そういえば、沖と直接ではなく話すのは初めてだと気づく。
それがこういう話になるとは思わなかったけれど、ちょっと新鮮で楽しい、なんて申し訳ない気もする。
沖の忙しさは知っているからこそ。
「私の友達が先生のことが、あ、沖先生じゃなくて他の先生が好きなんだって。その子、結構好きな先生のことじっと見てて、私が見る限り相手の先生も気づいててもおかしくない気がして」
何と言っていいかわからず、怜那は単刀直入に切り出した。
「これは私の想像でなんとなく、ってだけなんだけどさ。でも」
あゆ美や高橋を特定できるようなことには触れないように、それでもなるべく詳しく、と訥々と説明する怜那の声を、沖は黙って聞いている。
「で、もし、なんだけど。その先生が友達の気持ちに気づいてたとしたら、どうすればいいと思う?」
『……どうって、どういう?』
「それが私にもわかんないんだよ。その子にも直接言ったんだけどさ、私みたいに──」
沖の戸惑いを隠せない声に、怜那も困ってしまうが。
「あ、そうだ。私と沖先生のこと、気づかれちゃったんだ。ゴメン」
唐突な爆弾発言に、沖は焦ったらしい。
『え、え! 気づかれた?』
「そう。先生にはまだ報告してなかったよね。私も言われたときは吃驚したよ」
沖との温度差も感じない様子で、怜那はあっさりと答えた。
「あのさ、好きな先生のこと見てるうちに、他にも仲間がいないかなっていろいろ見てたら、私と沖先生がなんかヘンだって気づいちゃったんだって。でもその友達は絶対言い触らしたりしないから! それだけは大丈夫だよ」
『……その子は大丈夫だとしても、わかってしまうってのはちょっと見過ごせないだろ。十分注意してたつもりだったんだけど。どっかに抜けがあったってことなんだろうなぁ。──どうすりゃいいんだよ』
沖の気弱な声に、怜那も事態の深刻さがようやく理解できて来た。
確かにその通りだ。
沖の気持ちを言葉ではなく告げられたあのとき以外、彼と怜那の間には身体的な接触はまったくなかった。
手を繋いだことなどもちろんないし、腕や肩に触れられたことさえなかった、筈だ。
そもそもそこまで密着したことがない。そうならないように気をつけていた。