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煌めく、想い  作者: りん
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【第一章:Lesson】③

「可愛いからっていい気になってさ!」 

 小学校や中学校では飽きるほどぶつけられた理不尽な負の感情も、高校に入学してからはすっかり鳴りを潜めた。

 面と向かっては慎んでいるだけで、どこかで中傷されているのかもしれないが、知らないところでなら好きにすればいい。

 クラスの男子や男性教師に笑顔を向けただけで、「()びている」と陰口を叩かれた日々。

 幼い頃から小柄な方だった怜那は、男女問わず背の高い相手に対すると目だけで見上げる癖があった。その上目遣いが、余計に媚の上乗せのように取られるのだ。

 単に、顔ごとだと首が痛いからという理由でしかなかったのだが。だからこそ、この癖だけは今も直っていない。

 ……男性相手のみ取り上げて騒ぐ、明らかに恣意(しい)的な状況からして言い掛かりにも等しい。怜那にとって、それ自体は傷つくことでも何でもなかった。

 ただひたすらに(わずら)わしく、すっかり無表情が板についてしまったのだ。

 もともと感情を表に出すタイプではなく、特に無理しているわけでもないので継続しているだけの話だった。


 ──先生なんて一番若くたって七歳も上だよ!? おじさんじゃん。まあ、私は年関係なくそんなのはどうでもいいんだけどさぁ。


 口にした通り、怜那は沖には何ら興味も抱いていなかった。とりあえず名前と顔は覚えていて、他の教師と見分けはつくという程度でしかない。

 文系クラスで女子が多いということもあり、先生が、先輩が、あるいは何組の誰それくんが、と事あるごとに盛り上がるクラスメイト。

 いつも男の話ばかりで、何が楽しいのだろう。

 怜那には正直、まったく理解も共感できない。だからと言ってわざわざ突っかかる気も無論ないのだが。

 たまに巻き込んで来ることはあれど、基本的には構わないでいてくれるのはありがたく思っている。

 すべてにおいて『|低温低湿《COOL&DRY》』な印象も含め、怜那は周りには一匹狼的な個性として認識されているらしかった。

 クラスメイトともつかず離れずの距離を取り、深い付き合いはなくてもそれなりに平和な日々を送っていたのだ。



    ◇  ◇  ◇

「怜那、テストどうだった?」

 帰り道、偶然一緒になった野上(のがみ) 大翔(ひろと)が気軽に問い掛けて来る。

 彼と怜那は家が隣同士で、所謂幼馴染みになるのだ。

 校区のない私立で、二人の家は学校からの近さでは校内でも上から数えられる。

 そのため、わざわざ約束するようなことはないが、会えば一緒に帰るのがお決まりだった。


「全部は返って来てないけど。英語と数学以外はフツーかな、いつも通り」

 隣を歩く大翔は百八十超で、せいぜい平均程度の怜那より二十センチ以上背が高い。首を反らすようにして彼の顔を一瞬見上げ、怜那が淡々と答えた。


「……いつも通り、英語は良くて数学は、ってこと、だよな?」

 さすがにずっと同じ学校で、共に過ごした時間も長い大翔は話が早い。


「まー、英語は得意だし大丈夫だろうけど。数学は? 悪いにもレベルがあるだろ」

「|二十七点《twenty-seven》」

 端的に数字を口にした怜那に、聞かされた彼の方が開いた口が塞がらない様子だ。


「……お前、なんでそんな平気で、──文系の数Ⅱって平均そんな低くないんじゃないのか? まさか五十点満点ってオチじゃない、よな?」

「中間テストで五十点満点とかあんの? 平均は、──七十六点だった、かな?」

「怜那。俺と一緒に勉強しよっか? 数学なら教えてやるよ」

「え~、パス。私、数学なんてどーでもいいもん」

「……」

 あっさり返した怜那に、大翔はまるで毒気を抜かれたかのように黙り込んだ。

 ……もうすぐ家に着く。


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