【第一章:Lesson】⑪
◇ ◇ ◇
──大翔、ホントにありがとう。
心優しく頼りになる、同じ年なのに兄のような友人に、怜那は何度目かの感謝を捧げる。
沖と二人きりでなくなったのは、少し、ほんの僅かに惜しい気持ちはある。けれど、大翔が教えてもらっている間、「先生」の顔を遠慮なく見ていられるのだから、それはかえって幸運かもしれない。
沖にとっては補習など、ただ手間が増えただけの筈だ。
それくらいは怜那にもわかっている。それでも。
沖と他の誰よりも近い距離でいられるのは間違いなく怜那なのだから。大翔は、とりあえず置いておくとして。
──だから私はほんの少し、その時だけは先生の特別になれた気がして、凄く嬉しかった。
怜那はこの気持ちを沖に気づかれないように、どんなに嬉しくてもあまり表に出さないようにしないと、と気合を入れ直した。
もし知られたとしても、沖は怜那を邪険に扱ったりはしない筈だ。
たとえ内心は違っていたとしても、今まで通りにごく普通に接してくれるだろう。
そう、沖は。
しかし、万が一それ以外の他人に知られた場合、誰よりも沖に迷惑が掛かってしまう危険がある。
怜那本人ではなく、想いを寄せられただけの沖の責任が問われることになるかもしれない。
……自分たちはそういう関係で、年齢なのだ。
怜那は、ただでさえ忙しい沖に余計な気遣いをさせるようなことはしたくなかった。
何よりも、沖はみんなの『先生』で、怜那のためだけの存在ではないのだから。
怜那にとっての沖は唯一無二だが、沖から見た怜那は所詮クラスの四十人の中の一人でしかない。
それだけは忘れないように。
そして、だからこそ。
補習のときに目に焼き付けた沖は、怜那だけのものだ。
心の中の、沖を想う気持ちの横にそっと置いておく。