表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煌めく、想い  作者: りん
1/63

【第一章:Lesson】①

挿絵(By みてみん)


 授業の始まるチャイムと同時に、クラス担任であり数学の教科担当でもある(おき)が、授業のために教室に入って来る。

 教卓にどさっと置いた荷物の一番上は、おそらくは先日の──。


「中間テストの採点終わったから返すぞ! 順番に取りに来なさい。まず有坂(ありさか)

 予想的中。

 出席番号一番の有坂 怜那(れいな)は机に手をついて立ち上がり、教卓まで悠々と歩いて行った。


「……有坂、これ」

 目の前に突き出された答案用紙の、右上の赤い数字は二十七。及第ラインの四十点を明確に下回っている。

 いまどき悪い結果を大勢の前であげつらうような教員はいない。沖も何か言いたげな表情で、今にも口が動きそうではあったが、その場では特段お叱りもなかった。

 怜那は、身長差のある沖の顔に視線だけを向けて、無言で赤点の答案を受け取る。

 自席に戻るためくるりと(きびす)を返すと、反動で背中に垂らした長い黒髪が宙に弧を描いた。


「次、安藤(あんどう)


 沖 一彦(かずひこ)は、怜那がこの高校に入学するのと同時に新任でやって来た。今年二年目の、校内で最も若い教員だ。

 見た目は優しそうな男前で背も高く、実際に親切で面倒見もいい。──多少、暑苦しいのも否めないけれど。

 女子生徒にもそこそこ人気はあった。

 ……何故そこそこ(・・・・)かというと、如何にも四角四面で堅苦しい雰囲気を敬遠する層も少なくはないからだ。


 あくまでも噂だが、ふざけてだか本気でだか彼に抱き着くように腕を組もうとした女子生徒がいたらしい。

 彼女が沖に「年頃の女の子なんだから、教師相手でもそんなはしたないことはしちゃいけない。恥じらいを持ちなさい」と真顔で説教されたという話が、一部女子生徒の間では(まこと)しやかに囁かれていた。

 真偽はともかく、沖はまさしく「あの先生ならあり得る」と皆が即納得してしまうような存在なのだ。


「『はしたない』って! しかも『恥じらい』! 死語じゃん。あんな若いのにさ。彼女いても『結婚するまで清いお付き合いを〜』とか言ってんじゃないのぉ」

「やだー、瀬里奈(せりな)ってばあ」

「ホントだったら気持ち悪いよ〜!」

 きゃらきゃらと笑い合う、派手目な女の子たち。

 髪型は多少違うが、同じようなヘアアクセサリーで全体の雰囲気が近い。完全に膝の出た短いスカートもお揃いのようだ。

 この学校は基本的に校則は緩く、それを目当てに入学する生徒も少なくなかった。

 染髪や化粧、ピアス等の装身具こそ禁止だが、パーマ程度は許されている。セットによる巻き髪も髪飾りも、常識の範囲を超えて華美なものでなければ注意されることもない。

 制服も同じくだ。

 スカート丈にも一応基準はあるが、所謂(いわゆる)服装検査などは皆無だった。式と名の付く正式な場でさえ既定の品を身に着けていれば、普段は男子のネクタイや女子のリボンを任意のものに変えていても黙認状態だ。

 怜那のように、入学時に採寸して購入したそのままの制服の方が少数派かもしれなかった。怜那の場合はルールを守る意識からではなく、単に必要性を感じないからではあったが。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ