成功
あの日から死神はよく褒めてくれるようになった。歌がうまいとか、表現力があるとか。
「ねぇ、最近なんでそんなに褒めてくれるの?」
私はおもいきって聞いてみた。すると死神はニヤリとして答えた。
「そりゃあ、あんたが褒めて伸びるタイプじゃかいよ!伸びてもらわんと、ライブできんかいね!」
あぁ、やっぱり下心があったんだ。聞かなきゃよかった。と思った。しかし、実際そうだ。今50万回再生させているあの動画でも褒めてくれるコメントが多く、天狗になった私は次の動画ではもっと評価される動画を出すことができた。このままうまく行けば、本当にライブができるかもしれない。
ライブがしたい。でも、まだ死にたくない。そんな事を考えていると、私のスマホがなった。
通知画面には「楽曲提供をさせていただけませんか。」という文面があった。
「え、えーーーー!!楽曲提供!?」
しかも、相手は今話題になっているトラPという有名ボカロPだった。
「ん?なんね。楽曲提供?おぉ、それは好都合!オリジナルの曲は持っちょったほうがいいかいね!その話、乗るしかないじゃろ!」
「うん!」
それから、実際にトラPと連絡を取り続け、打ち合わせをし、歌を録り、MVが完成するまであっという間だった。
「と、投稿できた!」
その曲はみるみるうちに話題になった。ニュースでも、ネットでもよく聞く曲になっていた。
「嘘…でしょ?」
「まじか…」
あまりのトントン拍子ぶりに2人は唖然としていた。
死神が来てから、まだ1年しか経っていない。新たな依頼があったり、歌番組に出たりと、それから、2年はいそがしかった。
「ふ〜!この調子だと、ライブも夢じゃないわね〜!私も過労死できそ!」
流石に3年も死神といると、いつの間にか死に対して抵抗がなくなっていた。
「うんうん。順調順調!安心しない!あんたんこつはしっかりライブで殺しちゃるから。」
結構やばい会話だが、私は笑っていた。
その日の夕方。私は夕ご飯を買いに外へ出た。最近は死神のお陰でうまく行ってるとこもあるので、死神も連れて行くことにした。
「今日は好きなものバンバン言いなさい!私が奢ったげる!」
機嫌がいい私はスキップをしながら、夕ご飯のことを考えていた。
前が見えていなかった。
横断歩道を渡り切るとき。
男とすれ違うとき。
5時の鐘が鳴るとき。
死神が目を見開いたとき。
グチャッ
刺された。あの男に。男は笑いながら走って行った。
「麗!大丈夫ね!?しっかりせんね!麗!!」
意識が遠くなって行くのを感じた。お腹が痛い。熱い。
「なんで…私…。死ぬの…?」
訳が分からなかった。ただ、死神の叫び声が聞こえる。しかし、その叫び声すら段々と聞こえなくなっていく。
「なんでね!おい!!どういうことね!こいつはおいが殺すはずやったろ!おい!ヴァラッチェ!出てこんね!」
木の陰が形を変え、ヴァラッチェが出てくる。
「ヒヒヒヒヒ!ハロ〜!名無しくん!だめじゃない!ちゃ〜んと見ておかないとぉ」
死神が怒鳴る。
「なんでね!なんでこげなことしたとね!なんでね!」
「だって〜貴方。仕事が遅いんだも〜ん。それに、成功してもらっちゃ困るし?だって、私が貴方の世話をしなきゃいけなくなっちゃうでしょ〜そんなの、面倒くさ〜い!」
死神は膝の上にある麗の顔を見て、黙り込んだ。
「あら?納得してくれたのね!じゃ!そういうことだから〜!じゃ〜ね〜」
影は木の形に戻った。死神は麗の死体を抱え、家に帰った。向こうの世界に戻れば、死神は消えるだろう。しかし、戻らなければ、向こうの世界に帰れなくなり、死神の居場所はなくなり、いずれ消えるだろう。
暗い部屋で死神は麗の死体を見ていた。頭の中は空っぽだった。
パチンッ パチンッ パチンッ
指を鳴らす音が続けて3回聞こえた。
死神ははっとして、あたりを見回した。そこは暗くて寒い死世界だった。
「やぁ。残念だが、君はクビだ。あんな仕事すらできない、使えない道具など持っていても仕方ないだろう。…フッ、フハハハハ!」
「ヒヒヒヒヒ!」
「ヒヒヒヒヒ!」
死王、ヴァリード、ヴァラッチェの笑い声が響く。死神はこれまでに感じたことないほどの絶望に包まれた。
パチンッ
死王が指を鳴らす。死神は段々黒い球体に飲まれていく。
あぁ…もう駄目なんだ…消えちゃうんだ…ボク…
その目には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。死神の体が全て球体に飲み込まれる。その時。
死神を包んでいた黒い球体が弾け飛んだ。そして、死王の低く、恐ろしい声とは反対の優しく、落ち着いた声が響いた。
「お待ちなさい。」
死王、ヴァリード、ヴァラッチェ、死神も声のする方を向いた。そこには大天使様がいた。ヴァリード、ヴァラッチェはすぐにひざまずいた。
「あん?なぜ、貴方がこんな場所にいるのです?」
「死王よ。貴方には分かっているはずです。…貴方が、息絶えるはずのなかった人間を手に掛けたからでしょう。」
長い沈黙が訪れた。
「はぁ?そんな事は1度たりともしていませんよ。俺が殺せと命じた者は全て、予定通りだったはずだ。」
死神は困惑しながらも口を開いた。
「ちょ、ちょっと待ってください!どういうことですか?死ぬ予定がない人間を殺すなんて…ってことは麗は…漣麗は死ななくて良かったんですか?!」
死神の質問に大天使様は優しい声で答えた。
「えぇ。漣麗だけではありません。貴方が今まで命令されてきた人間のほとんどが予定のないものでした。気づくのが遅れて、本当にごめんなさい。」
死ぬ予定のないものを殺すのは死神のような力があまりない死神には至難の業であり、力があるヴァリードなどでも難しいとされている。
「正直に答えなさい。」
優しくも厳しい声色で死王に問いかける。しかし、死王は何も答えない。
「ヴァリード、ヴァラッチェ。なにか知っているのなら答えなさい。」
急に名前を呼ばれた2人も体を震わせるだけで何も答えない。
「私の命令次第で貴方方にどんな罰も受けさせられるのですよ。」
その声には、怒りも感じられた。ヴァリードの息遣いが荒くなり、ついに口を開いた。
「し、死王様はあいつが気に入らなくて、は、早く存在を消したくて、わ、私は何も関与していない!本当です!」
ヴァラッチェも続けて口を開いた。
「わ!私も!何もしてない!全て命令で動いていただけで!」
怒りに満ちた声で大天使様は死王に言った。
「その立場を利用し、次々と人間を殺していた貴方には、死王の座は似合わないようです!この世界から消えなさい!」
死王は目を見開いた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!悪かった!もうしない!約束するから!消さないでくれ!お願いだ!」
死王は見る見る死神を包んでいた黒い球体に飲み込まれていった。叫び声が小さくなっていき、いつしか聞こえなくなっていた。ヴァリードとヴァラッチェも天使に連れられていき、その場に残ったのは死神と大天使様、そして、数人だけとなった。
「死神よ。貴方は今までひどい扱いを受けてきたのですね。今までよく堪えました。そのお詫びとして足りるかはわかりませんが、貴方の願いをいくつか叶えましょう。貴方は何を望みますか?」
1度にいろいろなことが起き、混乱していた死神は泣き出してしまった。それでも大天使様は静かに見守ってくれた。時間が経ち、落ち着いた頃、死神は決心したように頭を上げ、言った。
「まず、今までボクが殺してしまった死ぬ予定のなかった人間達を生き返らせてください。」
大天使は申し訳無さそうに言った。
「生き返らせるということは人間界の時間を戻すということになりますが、よろしいですか?」
死神は少し寂しそうな顔をして頷いた。
「あともう一つ、いいですか?」
大天使は笑顔で「もちろん」と答えた。
「僕を……
人間にしてください」
大天使は頷き、天使とともに歌った。死神としての記憶が薄れていき、体が温かい光の球体に包まれた。
「みなさーん!こんにちわ!歌ってみた活動をしている漣 麗でーす!皆さん今日も見てくださり、ありがとうございます!」
彼女、麗は今グンスタライブをしている。
しかし、見てくれている人は30人程度、それもほとんどが常連さんばかりだ。
「…じゃあ、今日はこれくらいで!ありがとうございましたー!バイバイ!」
今日も特に代わり映えのしない退屈なグンスタライブが終わった。
みんな楽しんでくれてるのかな…
考え事をしながら照明を消す。
その時、スマホの着信音がなった。
「あっ。DMだ。山崎晴音?誰だろう?」
はじめまして!最近歌ってみた活動を始めた者です!麗さんの歌声が大好きでよくきいてます!是非コンビを組ませていただけませんか?
「コンビ?急すぎない?…うーんでも、歌声褒めてくれてるしなぁ。…やってみるか!」
今では私と晴音は「Page」として大人気歌姫コンビとなった。
2人はワンマンライブもたくさん開催し、10年後も20年後も語り継がれるコンビとなった。
「ほれ!どうじゃ!こん曲歌ったらバズったじゃろが!」
「はいはい。今日はこれからリハーサルなんだから、早く準備してー!」
完
読んでいただきありがとうございました!私が中学生の時に考えていたストーリーをもう一度書いてみました!語彙力がないのと表現力も乏しいので、何かご指摘があればドシドシ送ってください!
麗と晴音(死神)のお話これにて、めでたしめでたし。