死神の危機
あれから私は死神から言われた通りテレビやネットでよく聞く曲を歌った。
私が「サビしか知らない」というと、「毎日10回聞け」と言われ、おかげで歌詞も音程もバッチリになった。龍チューブにあげてみると最初こそ伸びなかったものの、少しずつ少しずつ再生回数が伸びていき、私の動画では初の1000回再生を記録した。
「わっ!やった!やったよ!死神!」
私はテンションが上がり、部屋にいない死神に話しかけていた。
「ったく。こんな記念すべき時にどこ行ってんのよ。あいつは。」
暗闇に地面が揺れるほどの低い声と死神の声が響く。
「おい。あの小娘、やれるんだろぅ?お前なら。」
「はい。すぐ終わらせますよ。気高き死王様。」
暗闇に女の声が響く。
「ヒヒヒヒヒ!あら、余裕そうね!なら、もっと仕事を難しくしてもいいのでは?死王様。」
暗闇に男の声が響く。
「ヒヒヒヒヒ!いい考えですね〜。では、人間が一番幸せを感じるとき。その時に殺してしまうのはいかがでしょう。」
死神の顔が曇る。
「ヴァリード、ヴァラッチェ。それは次の仕事んときでいいっちゃない?」
暗闇に恐ろしく低い笑い声が響く。
「フハハハハ!面白い!では、名もなき死神よ。小娘が一番幸せを感じているとき、そして…そうだなぁ、大勢の人間に囲まれているとき、殺してみせよ。」
「ヒヒヒヒヒ!そうだ!ライブのときがピッタリじゃない!」
「ヒヒヒヒヒ!楽しみだなぁ!」
死王は指を鳴らし、言った。
「せいぜい頑張るんだな!名を貰えるように…フハハハハ!」
ドサッ!死神は麗の部屋に落ちた。
「ぎゃーーー!!びっくりした!…もう、こっちに来るときは、もっと静かに来なさいよ!」
「……」
死神は俯いたまま黙っていた。
「ちょ、ちょっと。どうしたのよ?」
私は心配になり、聞いた。すると死神は向こうの世界で決められたこと。つまり、ライブの際、私を殺すことを教えてくれた。
部屋は耳鳴りが聞こえるほど、静まりかっていた。
「……なんでよ。なんで無理だって言ってくれなかったの?私は、私はあんたの名前のためだけに、ライブで死ななきゃなんないの?ねぇ、なんで、なんでよ。」
私は、改めて、殺されるんだという恐怖、悲しさ、怒り。それだけでは言い表せない感情で叫んだ。薄いマンションの壁の向こうでは誰かが聞いてるかもしれないのに。
「……おいじゃって、おいじゃって!こん仕事が出来んかったら…消えるとよ。」
「え……。」
絞り出したような声で告げられたその言葉に私は困惑した。
死神の顔を見ると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。きっと私も同じような顔なのだろう。
死神はよろよろと腕を上げて、指を鳴らした。
あの動画は天才の歌姫が現れたと10万回再生されていた。