死神との出会い
「みなさーん!こんにちわ!歌ってみた活動をしている漣 麗でーす!皆さん今日も見てくださり、ありがとうございます!」
彼女、麗は今グンスタライブをしている。
しかし、見てくれている人は30人程度、それもほとんどが常連さんばかりだ。
「…じゃあ、今日はこれくらいで!ありがとうございましたー!バイバイ!」
今日も特に代わり映えのしない退屈なグンスタライブが終わった。
みんな楽しんでくれてるのかな…
考え事をしながら照明を消す。
その時、ドサッと鈍い音とともに麗の部屋のベランダに何かが落ちてきた。
突然の出来事に悲鳴を上げながら、とっさに取ったスマホとともに恐る恐る近づく。
「いった…あんげな所から落ちるとか、運が悪ぃね。」
何もなかったかのように立ち上がろうとする黒ずくめの少年(?)にあわてて声をかける。
「ちょ、ちょっと大丈夫?救急車…救急車呼ぶから!」
スマホに119の番号を打ち込む。
すると、パチンという音と共にスマホが消えた。それをしたのは少年だということに頭が追いつかなかった。
「おいは死神。あんたのこつ殺しに来たとよ。」
シニガミ。コロシニキタ。日常生活ではあまり聞かない単語の連続に麗の頭はパニックになっていた。
「は?そんなわけないでしょ?死神は空想の存在なのよ。それにね、死神ってのは、すらっとしてて、醤油顔イケメンで、標準語で喋るもんなのよ!」
目の前の死神(仮)は真面目な表情ですぅっと息を吸い込み叫んだ。
「全部偏見じゃろがー!!」
まだ信じられないという麗の表情を見て、死神(仮)はまた指を鳴らした。
気が付くと、人通りの多い知らない道に立っていた。
死神(仮)が一人の男性を指さして言った。
「あん人、これから死ぬかい、見ちょきない。」
信じられない。信じたくない。という感情とは裏腹に、麗の正義感が麗の足を動かした。
「5」死神(仮)がカウントダウンを始めると同時に、麗は走り出した。
「4」夏のコンクリートは麗を止めるかのように熱く、痛かった。
「3」間に合う。そう思い、麗は手を目一杯伸ばす。
「2」男性が持っていた鞄が音を立てて落ちる。
「1」男性の頭が麗の手のひらに落ちる。
「0」男性の頭は麗の手のひらを
すり抜けた。助けられなかったのだ。
「あんたじゃ助けれんよ。今は魂だけやっちゃから。」
周りの甲高い悲鳴と救急車を呼べと叫ぶ声すらもすり抜けていく気がした。
夕日が優しく包む部屋でうつむく麗とため息をつく死神。
「信じてくれるけ?」
「う…ん」
正直まだ信じられなかった。
でも、信じない根拠もなかった。これが麗と死神の出会いだった。