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第一話 妖狐の幻惑◇③◇

 怪祖に連れられて妖屋を出ると、路地を抜けた先には問題の雑木林があった。入るときは絶対なかったし、今愛美が振り返ってみても、路地の入口は見当たらない。あたかも初めから雑木林を歩いていたかのように、怪祖は細道を歩いていく。

 置いていかれないように、愛美は慌てて怪祖の後を追った。こうして後ろから見ると、かなりの高身長だ。一八十センチメートルはゆうに超えているだろう。そして、暑いのになぜか黒いコートを着込んでいる。それでいて、汗をかく気配がない。体温管理がどうなっているのか、気になるところだ。しばらく歩くと、目の前に一人の女性が見えてきた。女性は怪祖に気付くと、振り返って笑いかけた。

「あら、祀瑠さんじゃない。久しぶりぃ」

 顔見知りのようだ。女性は派手な着物を着ていた。妖屋にいた女性のものとは大きな差だ。怪祖はそんなに派手な着物の女性に笑い返した。

「君だな、最近この辺りに出てきているのは?」

「そうよぉ、ちょっといい男を探して……あら、その子、あなたのお客?」

「ああ、多分君絡みでね」

 女性と思った相手は実は妖狐だったということだろうか。なるほど、と納得する美貌の持ち主だ。妖屋にいた女性といい勝負である。比べるのであれば、妖屋の女性は清楚で可愛らしさのある印象だったのに対し、この妖狐の女性は、派手で妖艶(ようえん)という違いだろうか。男が惑わされるわけだ。今度妖屋に行くことができたら、あの女性に謝らなければならない。

などと思考する愛美の前では、怪祖と妖狐の会話が続いている。

「今回は、捕まえられたのか?」

「そうねぇ、何人か捕まえたわよ? 四人くらいか知らねえ、一人子どももいたから、すぐ放したけど」

「その残りの三人の中で、魂を掴みきれなかったものは?」

 いきなり物騒な話が出てきた。

 妖狐はぽんと手を打った。心当たりがあるらしい。

 愛美はスマートフォンを取り出し、一枚の写真を見せた。

「それって、この人ですか!?」

「そうそう、この男よ。どうも上手く掴みきれないと思ったけれど、もしかして、あなたの彼?」

 愛美は三度首を縦に振った。それを見た妖狐が吹き出す。

「納得だわ、あなた、愛されているのねえ」

「他に心を決めた相手がいる場合、魂を掴みきれず、結果、一時的に感情をなくしたかのように振る舞うようになる現象があるんです。もしやと思いましたが、どうやら正しかったようですね」

 後で解放しておくわ、と言って、妖狐は狐の姿になって雑木林に消えていった。


 後で聞くと、妖狐には、気に入った人間の魂を掴み、自分のものにしようとする者がいるという。

「心を奪う、という言葉通りです。稀に話の通じない妖狐もいますが、この辺りではほとんど見かけません。いずれにせよ、命に関わるものでもありませんよ」

 いつの間にか怪祖と別れ、愛美がアパートに帰ると、大介は何事もなかったかのように元通りになっていた。いつものように「おかえり」と優しく微笑む彼に、愛美は勢いよく飛びついた。

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