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第一話 妖狐の幻惑◇①◇

第一話すら投稿せずに半年も失踪してたのか、私は。

 金井愛美は、最近気にしていることがあった。同棲中の恋人の様子が、どうにもおかしいのである。以前は、部屋で一緒に居る時は隣に座って話したり、愛美が甘える素振りを見せれば抱き締めてくれていた。

 しかし、ここ一週間ほどは、どこか意識がふわふわとしていて、呼んでも返ってくるのはぼんやりとした声のみ。浮気だろうか、とも思ったが、スマホをずっと見ている訳ではない。疲れているのか、とも思ったが、食欲が落ちたとか痩せたとかいう様子もない。原因は思い当たるものがなく、それだけに、愛美はいっそう、彼の様子を奇妙に思わざるを得ないのだった。

 ある日、愛美は思い切って、本人に聞いてみることにした。

「ねえ、大介。あなた、私に何か隠してない?」

 近藤大介は、やはりぼんやりした声で応じた。

「なにも、隠してはいない」

「本当に?」

 愛美の方は真剣である。

「本当に、私に隠してることはない?」

 畳み掛けるように言うと、アパートの借部屋はしんと静かになった。外から、パトカーやバイクの音が聞こえてくる。その音すら聞こえなくなると、愛美は大介の頬を両手で抑え、目を合わせた。

「ねえ、大介、最近やっぱり変だよ。呼びかけてもぼーっとした声してるし、私ともあんまり話してくれないし、抱きしめても全く反応しないし。お願い、何かあるなら話して」

「何もない」

 即答。拒絶するような冷たい声。今まで、こんな声を聞いたことがあっただろうか。

 大介は愛美の手からすり抜け、玄関に向かって歩いていった。


 三日後、愛美の悩みの種は更に大きくなっていた。種、とは、無論大介の件である。話を拒絶されて以降、彼とは会話らしい会話をしていない。原因がどこにあるのかも分からなければ対処のしようもなく、この三日間は、ただ同じ屋根の下で寝起きするだけの相手と化していた。

 結果、もやもやとした心境のまま、今日も大学の講堂に入ることになるのだ。午前の講義が終わり、学食に向かっていると、途中で会った一人の青年が愛美に声をかけた。大介と同じ学科の学生、高木純だ。大介とは高校からの仲だという。

「近藤のやつ、最近やけにぼーっとしてるけど、何かあったのか? 喧嘩?」

 そんなことはこっちが聞きたい、と言うのを堪えて、愛美は肩を竦めた。

「さあ、私も原因が分からなくて困ってるところ。ここ三日間は一言も話してないし」

「はあ!? 同棲中の彼女と口きかないとか、何やってんだあいつ」

「ちょっと、声が大きい」

「ああ、悪い……」

 愛美に言われ、高木は頬をかいて苦笑した。

「しかし、金井が知らないとなると原因はなんだ? 女房にも言えない秘密……浮気?」

 勝手に結婚させておいて、高木は爆弾を投じた。愛美も考えなかった訳ではないが、その線はないように思える。浮気ならもう少し、別のやり方で隠そうとするはずだ。恋人と話さないなど、不審すぎる悪手と言えるだろう。

「高木君の方こそ、なにか心当たりはないの? 同じ学科でしょう?」

「俺に聞かれても困るんだが……」

 高木はそう言うが、仮に大学で何事か生じているのなら、同じ講義を取っている高木の方が、大介との同時行動は多いはずなのだ。高木の方が、何か知っている可能性はある。

「ああ、そういえば、最近妙な話を聞いたな。関係あるかは分からないが……」

「どんな話?」

「大学の近所にある雑木林を通った男が、超美人な女に会うって噂だよ。一度見ると忘れられなくなるんだとさ」

 詳細は分からないが、雑木林というのが問題だ。これは、大介や愛美が、時々アパートと大学の近道として利用する道があるのである。噂が本当なら、大介がその美人とやらに出会った可能性はある。

高木はその後も、一度会ってみたいだなんだと一人で喋っていたが、愛美はその半分も、話を聞いていなかった。

妖屋は小分けして投稿します。

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