はかなくなりし
整然と、雑然。沈黙と、滑舌。静寂と、腐敗。
美しいとされるものはすべて死の領域にある。そう、私は信じている。
なぜそんな不毛なことを信仰できるのかって? そりゃあ、
この世界が実に美しいからだ。
そして、君。君は、私が作ったこの世界に、初めて来た招かれざる客だ。
ノイズは一つでもあればそれは増殖する。私はこの清潔で美しい世界を守るために、君を始末しなければならない。恨んでくれるなよ——
コンビニで雑誌を立ち読みしていた俺に軽自動車が突っ込んできたことだけは覚えている。足を掬われ、しなるようにして腹から胸にかけて自動車のフロントガラスに叩きつけられた俺は、身体中がカッと熱くなったすぐあとに意識を手放した。
手放して、妙なところに来た。来たと思ったら、謎の声が脳内に響いて、なんだかよくわからないままに「始末」されることになったようだ。
散々な人生を送って、貧乏で食パン一枚を三日かけて食べるような男が、悪いとはわかっていても、唯一の楽しみにしていた雑誌の立ち読み。それすら許されず——というか、それが許されなかったのか。どうせ「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」とかいう、ニュースでよく見るありふれた、そして心底下らない死に方をした俺が、飛ばされた先の世界でまた殺されるのか。
もう、なんだっていい。好きにしろよ。ってか、脳みそも口も舌もないんだっけ。なにを言おうがなにをしようが、殺されることには変わりないんだろう?
死んでからも、こんな惨めな思いをしなきゃいけないなんて。
人生が一枚の絵画っていうんなら、こんなのあんまりだ。
そう思って、かろうじて生前の感覚を保っているらしい全身の力を抜いて、床に大の字になった。
これが、俺の相棒である「蒼」との出会いだった。