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#3話 自分だけシリアスになって相談してると笑われちゃうよね

 1ヶ月後の楽しみでもやもやは晴れるかとも思ったがそんなことはなく、むしろ濃さを増していく一方だった。


 再開を果たし次の約束まで取り付けたものの1ヶ月お預けを食らって待ち遠しさだけが募っていく。


 恋心というものは上手くいっていても落ち着く気配がないのだから何とも厄介なものだ。


 「錦、おはよう。心ここにあらずって感じだな。どうしたんだ?」


 大学に着くと心配そうな面持ちで声を掛けてきたのは今泉榊いまいずみさかきだ。こいつは高校で仲良くなった友達の1人で、今は同じ大学に通っている。


 榊の台詞からすると、どうやら弐式戸のことが顔に出てしまっていたらしい。


 そうまでも分かりやすいってどんだけピュアなんだよ、俺……


 とは思っても心情をコントロール出来る訳もなく、無意識に表情に出てしまうのが難儀な所。何とか出来ないものだろうか……?


 こればかりは恥ずかしいからあまり人には言いたくはないのだが気づかれてしまったのなら仕方ない。聞かせて進ぜよう。


 なんて心の中で恰好をつけようとしても意味ないか。


 ただ単に誰かに相談したかった。そう出来れば少しはスッキリ出来るかもしれないから丁度良かったのだ。


 それに、榊は俺の中学時代のことを知っている数少ない存在だ。こいつにはSNS関連では世話になってるし何か良いアドバイスが貰えるかもしれない。


 相談役としてはこれ以上にいない程に適役だ。


 他に相談できる相手はいない訳でもないが、こと恋愛面においては信用ならない連中だ。今回に関しては当てにならない。


 「ん、ああ榊か。おはよう。実はな……」


 こうしてSNSで約束を取り付けたアオさんが実は初恋相手だったことを話した。それによって封じ込めた想いが再燃してしまっていることや次の約束のことでもやもやが溜まってしまうことまで包み隠さずに全部。


 「なるほど、それでそんな表情をね……」


 榊は女性受けが良い顔にやや呆れたような笑みを浮かべる。


 幾分こいつが爽やかイケメンなだけにそんな表情を見せても憂いているようにしか見えない。女性が見たら本能が刺激され庇護欲が掻き立てられさぞ榊の面倒を見ようとすることだろう。


 イケメンはなんて得なものなのか。それを榊に言うと良いことだけじゃないなんて言ってくるがそれは自分がそうだから言えることだと思う。贅沢者め。


 「それにしても錦って純情だよね。未だに初恋で悩んでさ。そんな風に出来るのが羨ましいよ」


 しかし、何だろう?榊は声に出してはいないが心の中では笑われている気がする。そうでないことを願いたい。


 「羨ましいって……俺の気持ちが分かんないからそんなこと言えんだよ」

 「まあ、僕は錦じゃないからね。でもあまり思いつめないでさ、いつも通りに過ごしてみたら?」


 投げやりに言われた。絶対呆れでめんどくさいとか思ってそうな感じだ。


 「もう少しアドバイスとかないのかよ」

 「ブフッ」


 吹き出された。恐らくはずっと笑いを堪えていたのだろう。これはさっきのも気のせいでも何でもなかった。ただの察知だった。


 「おい」

 「いやぁ、ごめんごめん。あまりにも神妙な雰囲気で恋愛相談なんて乙女チックなことをするからさ」

 「反省する気ないだろ」

 「悪いとも思ってないからね」


 これには何も言えない。黙っておけばいいものを話したくて喋ってしまった俺のミスだ。


 けど、仕方ないじゃないか。だって純情な男の子なんだもん。


 「折角勇気を出して恥ずかしいことをしたんだから錦が欲しがってるアドバイスとやらをしてあげるよ。別に付き合ってる訳じゃないんだからそんなに構えなくても良いと思うよ。だからさ、もっと気楽にしてみたら?いつもみたいにSNSでも使ってさ。そうすれば次の約束もそんなに気にならなくなるんじゃない?」


 今度こそはただの爽やかな笑みを浮かべてくる。


 最後にはこうして何かは言ってくれるのだから憎めない。俺を弄るだけでは何も返せなくなることをこいつは分かってくれているのだ。


 面と向かっては言えないが良い友達を持ったと身に染みるような実感を覚える。


 「榊く~ん」


 少し離れた所から榊を呼ぶ声が上がる。


 そっちの方を見てみれば案の定、榊の彼女である笠原美登かさはらみとが大きく手を振っていた。


 榊と美登は同じ学科で大学に入ってから知り合ったそうだ。


 俺も美登とは学科は違うが榊を通じて交流がある。こいつはクラスの中心に居るような明らかな陽キャ組だが、結構良い奴だと思う。俺に苦手意識はない。


 そんな2人は本当にお似合いのカップルなのだろう。だからか周りからは羨ましがる視線や声があっても妬むようなものは1つもない。もしそんなのがあるなら俺が許さない。俺に何が出来るという訳でもないのだが。


 そんな2人だけの時間を俺が邪魔する訳にはいかない。


 「行ってやれよ。愛しい彼女さんがお呼びだぞ」

 「そうだね。じゃあ、錦も頑張って。それじゃ」


 榊は待っている彼女の元へと歩いていく。去り際までかっこよすぎる。俺が男じゃなかったら惚れてしまいそうだ。


 2人は合流して遅いだとか何とか苦情の声が聞こえてくるが嫌な空気は一切なく、幸せそうでなによりだ。


 俺もあの2人のようになりたいと思う。だから、折角のチャンスである弐式戸の機会を逃さないようにしっかり押さえておきたいと人知れず密かに決心する。


 彼女持ちである榊のアドバイスを素直に受け取って彼女持ちのご利益にあやかってみようか。榊の言うことだし効果がありそうな気がする。


 とはいえまずはこれから始まる講義を受けてからの話だ。榊たちが歩いていった道を俺も辿るように歩いて行き校舎の中に入っていく。


 そうしてまた始まった平日を乗り越えまた週末に入った。


 週末は榊のアドバイス通りにいつもと同じくSNSで約束を取り付けた人と会って遊んでみた。


 だが、そうしても前よりも満たされない感覚が強くなるだけで気が紛れるどころかちょっとしたストレスが溜まってしまった。弐式戸が中学の思い出ではなく目の前に手の届く存在として現れたことで癒えない傷が広がってしまったからだろうか?


 理由はどうあれこの何とも言えない感覚に拍車がかかってしまった。


 週があけてからこのことを榊に話し、相談したみた。


 「難儀な性格だね……それがダメなら僕にはどうしよもないかな。そもそも僕には錦みたいな経験がないからね。もう、錦の心の持ちようしかないんじゃないかな」


 そんなことを言われ見捨てられてしまった。いや、本人にはそんなつもりはないのかもしれないが俺にとってはそう感じるほど惨めな気分になった。


 アドバイスがダメだったのは爽やかイケメンのモテ男と一般人の俺とでは違うということか。


 頼みの綱の榊にどうしようもないというのなら俺には他に頼れる相手がいない。何せ榊が最適だろうと思って相談したのだから。


 そのまま何をする気力も起きず異様に長く感じた3週間を過ごしついに約束の日の前日となった。


 あれ以来虚無感は強まっていく一方だ。元から活動的な方ではなかったが8月の頭に大学の夏休みが始まってからは引き籠りの生活になった。


 バイトをしている訳でもないし自由気ままな大学生なのだから別にそれで悪いということはない。だが、そのせいで少しは克服していた引っ込み思案による性格の暗さが中学生の頃に戻ってしまいそうになっていた。


 それに不安を感じた俺は気晴らしに遊ぼうかと急遽榊に連絡を入れた。


 榊は突然な話でも嫌そうな素振りは一切見せずに承諾してくれた。榊も暇をしているっぽかったからただ遊びたかっただけだとも考えられるが、ひとまず感謝だけはしておこう。

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