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その頃の不愉快生物

「さてと、どうしようかしら?」

 これじゃない本だと最初に力の差を見せつけるパターンもあったけれどと言いながら、ヨアニス・ヨラントーコは手にしていた本を開く。街中、しかも通りで歩きながら本を見始める、危険な上に場合によっては迷惑行為であるがヨアニスは気にしなかった。ふざけて誤魔化すか分の悪いときは黙ったりこそすれ、注意されようと怒られようと反省せず学ばない、学習しないのがこのヨアニスなのだ。

「注意しても無駄だ」

 と、幾度も接した人物は見限って窘めたりすることをやめ、それを許されたもしくは肯定されたと捉えるのだからタチが悪い。

「力の差を見せつけるってのはさっき本屋で無様に転ばせたから達成でしょ? 私という幼馴染の恩恵を失ってズタボロになったエレンを見てざまぁってのはこの小説でも結構先だし……あ、その前に」

 新しいパートナーよね、と本を閉じて歩き出す間に実は数回、通行人と接触しかけていたが、それにもヨアニスは気づいていなかった。新しいパートナーよね、と唐突に声を上げたことで周囲の視線が集まったことにも。

「成績優秀な私なら引く手あまたの筈よね? エレンみたいなのは最初から必要なかったのよ、些少は補正があったでしょうけど、成績も才能も酷い足手まといだったし」

 共に学校で学ぶパートナーなんてすぐ見つかると、ヨアニスはたかをくくっていた。最近の試験結果は総合で学年四位なのだ。

「成績が下の人なら、今いるパートナーを捨ててだって私に乗り換えるわよね、普通。それだけじゃないわ!」

 ヨアニスには、エレンのような足手まといのゴミに慈悲深く五年も付き合ってやっていたと言う認識があった。

「『あんな奴にだって我慢して世話を焼いていた私』をみんな見ていたんだから『成績はこいつの方が上だけど、面倒見のいいヨアニスさんなら』って上位成績のパートナーがなびくことだってあるわよね。ああ、どうしましょう」

 よりどりみどりでだれを選べばいいかわからなくなったら、などと仮定して悶える姿をもしエレンが見ていたら、おそらく汚物でも見るような目を向けたか、鼻で笑っていただろう。


◆◇◆


「他所を当たってください」

 それからしばし、休日の王都を歩いていた同級生を見つけたヨアニスが声をかけ、貰った返事がそれであった。

「は? 何それ?」

「何それも何も、僕らは五年生ですよ? 既に数年付き合ってお互いの良いところも悪いところも知ってるパートナーがいるのに今更他人と組む気なんてありませんし」

 声をかけられた方からすれば、ただ事実を告げただけなのであろう。実際、五年生ということは入学から五年目であり、そこまでで作り上げてきた人間関係やしがらみがある。自分に都合よく考え、しかもフィクションである小説の通りに事が運ぶと考えていたヨアニスの方が浅はかというか愚かなのだが。

「ぐっ、もういいわ! 所詮私より成績が下位の奴に声をかけたのが間違いだった……行くわよ、エレ、あ」

 不愉快気に顔をしかめ踵を返しつつその名を口にしかけて、ヨアニスの動きが一瞬止まった。

「ふん! なんで私があいつのことなんか……調子狂うわね」

 王都の石畳を八つ当たりするように強く踏みつけながら、ヨアニスは再び歩き出し。

「パートナーになれって? 寝言なら寝てどうぞ」

 次に見つけた同級生の答えがそれ。

「間に合ってるんで」

 二人目はこれ。

「ノーサンキュー」

 虫でも追い払うように何もない場所を手で払いのけつつ三人目もそう言った。

「俺、巨乳派なんだわ」

「ゲインパワーッ!」

「おべばっ」

 四人目は胸を見て真顔で言ったので、魔術で腕力を強化してヨアニスの拳が相手の頬を抉った。この時だけは周囲からまばらな拍手があがったが、気付ける余裕がヨアニスにはない。

「すみません、魔女座はちょっと」

 ならば後輩でもいいわと妥協して声をかけた五人目はヨアニスから目をそらした。

「何で魔女座はダメなのよ?」

「あ、ちょっと約束があるので」

 さらに追及しようとするも、その後輩は理由をつけてヨアニスから逃げ出し、更に数人に声をかけるも首を縦に振る者は一人もいなかった。

「何よこれ、何でなのよ! これってざまぁされる側がされてた対応じゃないの!」

 日頃のエレンの扱いを鑑みれば当然の結果なのだが、ヨアニスは気づかない。

「ありえない、ありえないわ! きっと優秀な私の成績に嫉妬してるか、エレンが何か卑怯な手であの人たちを脅してるか……」

 覚えていなさいよと呻くように漏らした声は誰に向けてのモノか。

「こうなったら、勉強よ! 実習室を借りて更に実力を上げて私の誘いを断ったこと後悔させてあげるんだから!」

 気炎を上げるヨアニスは知らない。絶縁にやる気を出したエレンが後輩の借りた実技実習室で勉強中であることを。

普通にざまぁ回その1でした。


備忘録を兼ねてこの作品の守護星座について、以後列挙してみる。()内は星座に該当する作中人物など。黒星が一番魔術師適性が低く、白星が一番高い。


★剣聖(エレン、つまり主人公)

・隠者(トゥ、トゥ、ヘアーッ!)

☆大魔道(ノーサンキュ―の人、巨乳派の人、まだ出てきてない学校の校長)

・女皇 (プレス)

・皇帝(本屋の店員)

・魔女(幼馴染、他一名)

・海蛇匠(事務員のおば、お姉さん)

・聖者(間に合ってた人)

・竜匠(今話で拍手した通行人C)

・召喚士(寝言は寝てどうぞの人)

・聖騎士

・英雄


 余計なものが混ざった気もするけど、謝らない。


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