実習室に行こう
「悪い、つまらない話を聞かせたな。それで、女皇座ということはアレだな」
どの守護星座とも相性が良く星座は違えどだいたい同じ。
「四つの種の魔術能力と才能をやや上昇させ、一つの魔術能力と才能をやや下げる」
と、こんな補正であり。星座が違っても対象になる魔術の種が違うだけ。逆に女皇座の人間が他の星座の人間から受ける補正もこれとほぼ同じだ。
「そうっすね。行き詰ってるとは言えもう少しで何か掴めそうな気もしてるんで、先輩の補正でこう、何とかなるんじゃないかって気はしてるっす」
「そうか」
つまるところ協力してくれるなら誰でも良く、だが誰もいなければどうしようもなくて。恐らくは諦めてカギを返しに来たところで実習室を借りられなかった俺と出くわしたのだろう。
「なら、俺は実習室をを使えてそちらは俺の補正で状況を打破できる、まさにWIN-WINだな」
「そうなるっすね。いやー、友達みんな休日だからって遊びに出かけちゃって実は微妙に参ってたとこだったから助かったっすよ、ほんと」
「なるほどな」
やはり休日も必死になって勉強する学生というのは少数派なのだろう。
「では、申し出はありがたく受けさせてもらう」
「どーもっす。じゃ、道すがらこまごまとしたところも確認させてもらうっすね」
「ああ」
事務員を放置して話もまとまったところでプレスが廊下の奥を指させば、俺は頷いて歩き出し。
「じゃ、まず……剣聖座ってことは先輩が得意なのは肉体強化とエンチャントに無属性、苦手なのは風を除くほぼすべての属性系魔術っすよね?」
「ああ、そうなるな。苦手魔術に関しては正直諦めてるし、切り捨ててもいる」
人間だれしも向き不向きがあるものだ。だというのに魔女座の補正で唯一上昇するのが切り捨ててる属性系魔術の一つだからタチが悪かった。
「まぁ、もともと魔術に向いていない守護星座っすし、仕方ないっすよねそこは。それはそれとして、一応っすけど実習室に着いたらステータス確認するっすよ。補正で変化してる筈っすし」
「異存はない。まぁ、適性を鑑みるとこちらはあまり期待できないけどな」
それでも魔女座の呪いがなくなったのだ、些少はマシになってると思う。
「C適性が二つあれば俺は満足だ」
「え゛『C』って、最高評価の『S』は滅多に出ないっすけどその下に『A』と『B』があって、その次っすよ?」
「あぁ、そうではあるんだが俺のステータスはほとんど『D』と『E』だったからな」
ちなみに、評価は六段階で最低がEだ。
「……よく進級できたっすね、先輩」
「座学の成績はそこそこよかったからな」
というか、落第を免れるには死に物狂いでそっちの勉強をするしかなかったとも言う。
「おかげでコツが呑み込めて座学の方はそれなりに余裕がある」
それでも実技の穴を埋めるなら勉強しておいた方がいいということで実技実習室が使えなければ座学の実習室で勉強しようと思っていたわけだが。
「なるほど、頭いいんすね、先輩。だったら、座学のテストの前、勉強を教えていただいたりしても?」
「俺の手が空いてる時ならいいぞ。実習室を使わせてもらった恩もあるしな」
補正効果でWIN-WINだとは言いはしたが、あれでは俺の恩恵の方が多い気がする。それで埋め合わせにちょうどいいだろう。
「本当にいいんすか? 何か悪いような」
「気にするな。それに今日の俺は気分がいいんだ」
あの不愉快な生き物の鳴き声で精神をゴリゴリ削られずに済む、それのどんなに素晴らしいことか。
「それに」
この後輩はちゃんと感謝をしてくれる。謝ることもなければ礼も言ったためしのないどこかのナニカとは大違いだ。
「今ならC適性が結局なかったとしても、寛大な心で許せそうな気がする」
「ちょ、先輩気を確かに?! ダメっすよ、自分の補正が加わればきっと三つ四つは『C』並んでる筈っすから!」
思わず口元を緩ませたら後輩にぺちぺちされたが、そうは言っても幸せなのだから仕方ない。
◆◇◆
「なんだ、これ」
夢見心地のまま廊下を進んで、実習室の入り口をくぐり、ステータスを確認するための器具に手を伸ばした俺は思わず呟いた。欄のどこにもCがない。それはまだいい。
「え、『S』三つに『A』一つ?!」
横からのぞき込んで顔を引きつらせてるプレスの言がすべてであった。
プチ人物紹介はネタ切れ。次の登場人物を待て。