理由と経緯
「いい、エレン? 守護星座はかつてこの世界を救った十二の英雄から来ているのだけど、この中でも魔術に秀でた英雄の守護星座を持つ人は魔術師として大成するの」
幼いころ、得意げに話していたあの不愉快な生き物のことを思い出す。あの幼馴染は魔女座。魔術師に向く星座の一つであり。剣聖座の人間からすると疫病神としか言いようのない星座でもあった。
「魔女座は剣聖座を持つ人間へ『四つの種の魔術能力と才能を大幅に減退させ、一つの魔術能力と才能をやや上げる』補正を齎し、剣聖座は魔女座を持つ人間へ『二つの種の魔術能力と才能をやや減退させ、五つの魔術能力と才能をかなり上げる』」
お分かりだろうか、この不平等すぎる補正が。この為本来なら剣聖座の人間はパートナーや仲間に魔女座の人間がいた場合、人員の変更を求めるとほとんどの場合でその主張は受け入れられる。剣聖座の人間を大幅に弱体化させてしまうからだ。
「知ってるよ。だけど俺は剣聖座だから魔術師は向かない。いずれ剣で身を立てるって決めてるんだ」
一緒に魔術師になれと言ってきたあの生き物に俺はそう言った。剣聖座だと何度も言った。
「何言ってるのよエレン、あんたは英雄座でしょ?」
だが、あの生き物はそう言って取り合わなかった。あいつは人の話を聞かないというのもあるが、俺が誕生日で英雄座と剣聖座とを分ける剣聖座側よりのタイミングで生まれたからだ。ちなみに英雄座と魔女座は相性がいい。魔女座側が受ける恩恵は剣聖座とほぼ同じだが、英雄座側も魔女座側が受けるのと同じくらいの恩恵が受けられるのだ。
「英雄座で私の補正を受けてるはずなのに何でこんなゴミみたいな成績なのよ!」
そう罵倒されたことが何度あったことか。もちろん俺だって黙ってなかった。だが、あの生き物の中では俺は嘘をついて自分の成績が酷いのをこちらのせいだと言い張ってるととったのだ。
「会話すら無駄だと思って無視してみたら『何すねてんのよ』だもんな」
無視することでこっちの気を引こうとかそう言う魂胆だとアレは見たらしい。どこまでも自分に都合よく考え、本当にこちらを顧みない奴だった。だからだろう、胸に歓喜が満ちているのは。
「あぁ、まるで夢のようだ」
あの不愉快な生き物から解放されるなんて。アレは星座の相性が良いが故に学校の成績も良い。それでも主席ではないが、五指には入るし、だから教師の覚えも良く、これまでは俺が何度授業での小班であの生き物と別の班にして欲しいと言っても聞き入れられなかった。たぶんそこには成績の良いあの生き物を同じ班にすることで成績の悪い俺をフォローしようという意図もあったのだとは思う。だが、あの生き物と同じ班でなければあそこまで酷い成績ではなかったはずだ。
◆◇◆
「あのー、もしもし?」
俺が我に返ったのは、そう言っておっぱい、じゃなかったプレスがかける声に気付いたからだと思う。
「す、すまん。ちょっと昔を思い出していた」
「あー、まぁ剣聖座で魔術師を志すとなると色々あるっすよね」
何やら気づかわし気にプレスはこちらを見ていたが、残念ながらそんな色々はない。
「いや、それは幼馴染に勝手にここの入学届を出されたからなんだが」
「へ?」
プレスはこちらを見てぽかんと口を開けているが、それが事実である。
「で、抗議したら魔術剣士科の教師に親戚がいて便宜を図るからと丸め込まれてな」
魔術剣士とは魔術も使える剣士であり、エリート中のエリートだ。魔術と剣術両方の研鑽を積む必要のある為に希望者は少なく、だからこそこの科を卒業しただけで以後の人生は約束されたようなもの。
「俺としては剣を振れるならとそこで折れてこの学校に入ったのだが」
あの生き物は、その約束も反故にした。とはいえ反故にした時点で俺はもうこの学校で三年を過ごしていて、今更学校をやめることもできなかったのだ。その結果、今、ここに居る。
プチ人物紹介そのさんっ。
・ヨアニス・ヨラントーコ
まさかの本編より早く名前が登場。主人公の言うところの不愉快な生き物。つまり絶縁してきた幼馴染である。仲間内でのニックネームは頭の二文字を取ってヨヨ。才能に恵まれている上幼馴染との相性ブーストもあって成績は良かった。名前の由来はない。頭二文字がヨヨになればそれでよかった。