火曜日の朝
その日も私は怠い体を起こして上着を羽織りサングラスをポケットに入れ家を出た。
最近は前に比べて大分眠れる様になった。
通っていた病院の勧めで他の病院に変えてから調子がいい。
それでも深くは眠れやしないが、病院に閉じ込められる程ではなかったようだ。
先日、仕事場の社長にこの事がバレた。
「無理をする奴だとは知っていたが、俺にも隠すか?お前、隠し通せると思ってたのか?」
「・・・言えば仕事を減らされる可能性がある。それは困るのよ」
「数少ないうちの従業員を手放すと思うか?それに、お前は強いから、多少危険な仕事も任せられるからな」
社長はそういうと、私に数枚の写真を渡した。
「人探しを頼みたい、依頼主はそいつの両親。良いとこの坊ちゃんらしいぞ?」
「・・・内容は?」
「・・・二日前から姿を消したらしい」
私は呆れた顔で社長を見た。
成人した大の大人が二日居なくなったぐらいで大袈裟だと思った。けれど、どうやら話はそれだけでは終わらないようだ。
「最初にコレを発見したのは彼の弟さん。実は彼は双子でな?会う約束をしていた日、現れなかった事を不審に思って兄貴の部屋を訪ねた時、見つけたんだと」
そのデータには、一人の女性が複数人に暴行される様子が映っていた。社長は溜息を吐くと渋い顔で私を見た。
「両親も、弟も・・・コレに彼が関わっている事はあり得ないと言っている。彼の身辺を調べたが、確かに普段の生活の様子からは彼が犯罪に手を染めている形跡は見つけられなかった」
「・・・それなのに、USBが出て来た。弟が見つけられたって事はパソコンにはめられた状態だったって事?」
確かに、警察に駆け込むには憚れる内容ね。
それでうち?
「あとこの人物。弟が、もしかしたら兄が居なくなった原因じゃないかと疑って調べているらしいぞ」
もう一枚の写真を手渡されて社長に説明を求める。
「行方不明の松井 秀一の後輩で、彼に付き纏っていたらしい」
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「はぁ。困ったわね」
それで彼女の後を付けていたら、まさかその弟まで彼女を尾行していたとはね?
素人がやめてもらいたいわ。
お陰で勘づかれちゃったじゃない。
私とした事がこの歳になって落とし穴で落とされるとは。
よく、こんな古い井戸残ってたわね。
私じゃなきゃ頭から落ちて死んでたわよ?
あと、死んではないけど、足は確実に捻ったわね?
さて、どうしようかしら?
しばらく地べたに座って考える。
全く使われていないこの井戸は、すっかり干上がっていて、足元は乾いている。
しばらく考えていると、がさりがさりと何かがこちらに近付いて来る音がした。
「・・・あの・・・誰か、そこにいます?」
「・・・・え!?諸星?」
予想外の人物の登場にドッと嫌な汗が出る。
まさか、近くにあの女がいるのでは?
「あ、やっぱり川神さんですか?実はさっきレジで聞き忘れた事があって・・・」
貴方まさか、そんな事の為に追いかけて来たとか言わないわよね?私達が帰る時、丁度貴方も仕事を終えて帰るとか、言ってなかったかしら?それなのに?
「今更ですが。・・・ストロー付けますか?」
「ごめん、ちょっと・・・意味わかんないわ」
あと悪いけど丁度いいから誰かに連絡とってもらえる?
私のスマホ落ちた時、見事に割れちゃったのよ。
早急にお願い。
出来れば太陽が昇る前にね?