金曜日
「お疲れ様です」
「お疲れ様、諸星君」
僕は制服をリュクの中にしまうとそれを背負って外に出た。
お店の裏の自転車置き場に向かう途中、お店の横にある公園に何処かで見た覚えのある人物を発見した。
多分見間違いでは無いと思う。
僕は自転車に跨ると、そのままそちらを振り返る事なく公園とは反対方向の自分の家に帰る道へ走らせた。
ピッ
ピッ
「・・・今日は、いないんですね?」
夜中の3時今日も僕はコンビニでレジを打っている。
こんな夜中にお客さんなんて殆ど来ない。
「お客さんですか?そうですね。こんな遅くにお客さんはそれ程来ません」
「・・・いつも、来るわけじゃないんだ・・・」
僕は商品から目の前にいるお客さんに視線をうつす。
彼女は目が虚で目の下にクマが出来ている。
川神さんもよくこんな感じになる事があるけれど、彼女の雰囲気は川神さんの放つ物とは違う気がする。
僕は、川神さんが怖いと思った事が何度もある。
それは、彼女の背が僕より高く、革パンにライダースそして黒のサングラスという一件ガラの悪そうな格好をしているからじゃないだろうか?濃い化粧が更に拍車をかけて川神さんの印象を悪くしている。
あと、恐らく川神さんは格闘技か何かを身に付けていると思うんだ。そんなの知ったら怖いに決まってる。
じゃなきゃ、咄嗟に綺麗なトーキック強盗に決められない。
「私、あの日からずっと怖くて・・・あの道を通る度また、見つかるんじゃないかって・・・」
「・・・あの。僕は・・・」
「次あの人が来たら伝えて欲しいんです。私が話をしたがってたって・・・」
あれ?でも、この人確か昨日もここに来て話してなかったかな?どうして、昨日話さなかったんだろう?
「お願い、出来ますか?」
「・・・僕が、覚えてたらで、よければ・・・」
僕は川神さんを怖いと思った事がある。でも、今は怖くない。
何故か分からないけど、あの人は怖くない。
・・・だけど。
「かまいません。ありがとうございます」
背は僕よりも小さめで顔は小顔。
どちらかと言えば美人系。
セミロングの髪を縦に巻いて綺麗にセットされた髪。
着ているワンピースは紺と白で決して派手ではないけれど首や指に付けている指輪やネックレスがさり気なく主張してバランスが取れている。
僕は手元の商品を袋に詰めて会計の金額を口にした。
彼女は控えめに笑って千円札を財布から出した。
その時、あの匂いがした。
「・・・あの」
気になって顔を上げてお客さんの顔を見る。
でも、なんだか顔がぼやけて見える。
なんでだろう。
「はい?なんです?」
僕は最近ずっと違和感を感じ続けている。
僕が初出勤した日からずっと。
「それで、僕は・・・誰に貴方の事伝えればいいんでしょうか?」
ひとつハッキリしているのは、僕は川神さんが怖くない。
だけど今、目の前にいる一件普通そうなこの女性の事は。
コワイ。