散々な夜明け
私、馬鹿なのかしら。
何故関係ない私がこんな目に・・・。
「あ、お疲れ様〜事情聴取一番時間かかったね?」
そりゃね。
なんせ思いっきり犯人の頭に華麗なキックをお見舞いしてやったからね?
一瞬殺したかと冷や冷やしたわよ。
「はぁー!やっと帰れるぜ疲れたぁ」
「先に帰ればよかったのに・・・貴方達は終わってたんでしょ?」
「いやぁ、流石に悪いかと思って。あ、あと、あの子が」
警察署の出入り口を降りながら下でこちらを見上げている青年に目を向ける。
相変わらず感情の読み取れない表情のまま、コンビニ店員の青年は頭を下げた。
「あの、すみませんでした。あと、助けて頂いて有り難うございました」
「別に?襲って来たから抵抗した。正当防衛よ」
とは言ってもあらゆる格闘技の資格を所持している身なので下手すると訴えられる可能性もあるから、今後気を付けなければいけないわね。はぁ〜っ。
今回は免れそうで良かったわよ。
「あー、もうすっかり夜明けだね。諸星君、家族に連絡した?」
「はい。ここに来る前に詳しい事は店長が連絡してくれました。帰りが遅くなる事は知っています」
「じゃあ近くまで送って行くか?未成年」
「え?結構です。一度コンビニに帰って自転車を取りに行かないと」
女の子も和装男も、何故コンビニ店員の名前と歳を把握しているの?いや、私も実は知っているけれど。
「そう?じゃあ気を付けて・・・あ、ちょっと待って」
「ん?何そのノート」
「なんだなんだ?」
ちょっと強引だけど、まぁいいわよね。
散々だったけど、丁度よかったわ。
「書くものがコレしか無かったから。ここに、私の名前と連絡先を書いておく。もし、また警察から連絡があったらここにかけて来て。貴方荷物仕事場に置いてあるんでしょ?」
「あ!じゃあ私も!」
「しょうがないな、俺も一応書いておくか」
ノートの見開きに私達の名前と連絡先が書かれていく。
【川神 誠也】
【長谷川 結衣】
【華井 隆平】
彼は私の名前を見て首を少し傾げた。
「かわかみ、なんて読むんです?」
「"せいや"よ。その通りに読めばいい」
ああ。分かってるわよ。
不思議なんでしょう?どう見ても私、女性だしね?
「父親が、男が生まれる事を望んでいて性別が解る前から名前を決めてしまっていたらしいわ」
面倒だからそう答えておくわ。
間違ってはいないしね?
「へぇ。カッコイイね、せいちゃんって呼んでいい?」
「は?止めて気持ち悪い」
「結衣ちゃんが呼ぶと可愛らしく聞こえるなぁ、で?君の名前は?」
そう言えば一年近くあのコンビニに通っていたけれど彼の本名を聞いた事がなかったわ。
彼は少し考えてからペンを取って一番下に自分の名前を記入した。
【諸星 夏樹】
「へぇ?最近の子にしては・・・普通」
「そだね?誠也の方がよっぽどキラキラネームだね?」
なんだそのキラキラネームって。止めなさいよ、このガキ。
「夏樹、かぁ・・・って事は夏生まれ?」
「はい。七月生まれです」
「ヘェ〜・・あっ」
陽が登って来たわね。
急いで帰らないと。
「ほら!コンビニに戻るわよ!諸星走る!」
「え?あ、はい」
「え〜!私、運動苦手ぇ!華ちゃんおぶってぇ」
「断る!っていうか俺も走れねぇよ」
なに情けない事言ってるのかしらね?
ほら、サッサとしないと貴重な睡眠時間がどんどん無くなるわよ?
・・・・・・本当に私、何やってるのかしらね