玩具箱
私は可愛いお人形。
美しく着飾ってあの人の心を癒す、あの人のとっておき。
「どこに行っていたの?とても心配したのよ?私の側を離れないで。ずっと私の側にいて頂戴」
あの人の玩具箱はあんなに沢山の玩具で溢れていたのに、何故私だったのだろう?
どんなに願っても私は本当のお人形じゃない。
私の身体は、生身の人間なのに・・・。
「貴女はこのまま・・・変わらない姿でずっと私の側にいて・・・私の可愛い女の子。私の愛しい・・・」
馬鹿な女。
大事に大事に育てられ甘やかされて。
アンタの親父は気狂いで娘のアンタも狂ってる。
でも、一番腹が立つのは、そんなアンタを信じ続けた自分自身なのだと思う。
「愛しい、私の娘」
アンタの愛した可愛い娘はもういない。
10歳になったアンタの娘は拐われて、二度と戻らない。
アンタがこの世から消えてだいぶ経つのに、何故いつまでも私の前に現れるの・・・。
「お前はその姿のまま、あの子の言う通りにしていればいい。お前は外には出さない。我が家の恥さらしめ」
あの女がこの世から消えた時、私の存在意義も無くなったらしい。へぇ?面白いね?でも、世の中そんな甘くないんだよ。
どうせ消されるなら、アンタらが私にして来た事たっぷり後悔させてやろうじゃない?お望み通り私は可愛いお人形のまま、存在し続けてやるわ。
精々苦しめ!!老いぼれじじぃ!
「・・・ぇう?」
「あら。起きた」
あれ?
ここどこだっけ?私確かコンビニのトイレに・・・。
「ちょっと?覚えてないの?コンビニのトイレで動けなくなってたから取り敢えず家に連れて来たんだけど?救急車は頑なに嫌がるし・・・」
「・・・あーーーごめん」
そうだ。
最近まともに食事出来てないから貧血でも起こしたかな?
「あの。レトルトのお粥ですけど食べれます?」
「・・・え?諸星?なんで?」
「いや、それがコンビニの店長さんが様子を見て、この子に私達を送るようにって・・・別によかったんだけど。ほら、前色々迷惑かけてる手前断れなくて・・・」
ああ。
コンビニ強盗返り討ち事件の事?
あれは寧ろ感謝されてもいいんじゃないかな?
あ、されてるから気にかけてくれてるのかな?・・違うか。
「長谷川さん?」
「いや。吐いたばかりだし、今は・・・」
「そうですか?じゃあこれ、置いておきます。僕はこれで」
「あ、じゃあ私も・・・誠也君お邪魔しちゃってごめんねぇ」
「は?アンタは朝までここで休んで行きなさい。仕事は何時からなの?」
「・・・いや、でもぉ」
ベッド一つしかないし、人の家に泊まるのはなぁ。
落ち着かない。
「後でちゃんと送ってあげるわよ。私、仕事休みなの。道端で倒れられても迷惑よ」
誠也君って、お節介だよね。
よく言えば面倒見がいいのかもしれないけど。やだなぁ。
「諸星、帰り道はわかる?」
「はい。この道は何度も通った事ありますから」
「そう。でも、分からなくなったら直ぐ連絡して。気にしなくていいから」
「?はい」
あ、そうか。
もう朝日がさしてるね。大丈夫なの?
「誠也君。私は大丈夫だから、諸星送ってあげてよ」
「・・・あの、本当に大丈夫です。僕、この辺りの道、迷った事ないですよ?」
「・・・近くまで、送って行くわ。長谷川は大人しく休んでなさい。トイレは玄関右側だから」
うん。お願いします。
この子、心配。
サラリと迷子になりそうだもん。
「え?なんで・・・」
「諸星。細かい事は気にしなくていいの」
「そうだよ諸星。最強のボディガードじゃん!」
あれ?微妙な顔だね?
何か間違ったかな?
「二人を送りに来た僕が何故送られる側に?僕、子供じゃありませんが」
そうだよね。
でもごめん・・・その子供より信用できない。
私の所為なんだろうけど、何故か解せない!
なんでコンビニの店長さん、わざわざ諸星に?
ん?誠也君?
「子供よ未成年。さっさと帰るわよ。親が心配する」
ははっ!親が心配するね?
久しぶりに聞いたそのセリフ。
昔あのじじぃから腐るほど聞いたっけ?
駄目だ、また吐きそう。