ミルクティーと缶コーヒー
"華井は、将来何になりたいんだ?"
あー将来ねぇ?雑誌の編集者とかどうだ?
"・・・え〜?何言ってるの?華井君は小説家になるんでしょ?沢山賞だってとってるし、色んな出版社からも声がかかってるんでしょ?"
それはそうだけど、アレは趣味みたいなもんで実際それで食べて行くのは、難しいと思うぞ?現実問題な。
"なんだよ。またそれかよ"
何怒ってんの?もしかして、俺なら出来るとか思ってくれてるの?
"絶対才能あると思うよ華井君!!"
お前も、そう思う?
"・・・あんじゃねぇの?・・・才能・・・"
そうか。お前は俺が小説家になったら嬉しいか?
少しは俺の事認めてくれる?お前の事見返す事が出来るか?
なぁ、どうなんだよ・・・真昼?
「触るな。気持ち悪い」
ピッ
「いらっしゃいませ」
「やだ〜!ヒロ君のエッチぃ」
「そんな事言って本当は嬉しいんだろ?」
こんな夜中にお客さんとは珍しいな?
いや、コンビニだから別におかしくはないけどな?
しっかし最近の若者にしては珍しい。
最近の若者はガツガツしていないと聞いていたんだけどな?
いくら夜中のコンビニとはいえ、人の目は気にした方がいいぞ?結構目立っている。
「うお!おい見ろよあの女。スゲェ格好してるぜ?コスプレってやつ?きもっ!」
「ちょっとヒロ君声が大きい!聞こえちゃうって」
止めに入ってる君の声も十分に大きいからね?
う〜ん。どう思う?店員さん?
「あの、お支払いをお願いします」
「ああ、そうだった。あの二人よく来るのか?」
俺は初めて見るけどな?他の常連もそう思ってるぞ。
「そう言われてみれば。この時間は初めてですけど」
なんだよ。
他の時間帯の常連客か。・・・・あれ?
「諸星君。あの二人の事、覚えてるのか?」
「はい。よく来るので」
・・・そうか。諸星君が覚えてる、ねぇ?
「気になるんですか?あの二人の事」
「ん?いやぁ?俺は別に・・・」
そうだな。普段だったら気にも留めず、ただのバカップルだと流しただろう。
「マミはミルクティーでいいだろ?俺コーヒー」
「え?ヒロ君買ってくれるの?」
「おお。これくらい買ってやるよ」
・・・気のせいだろうか。なんだか妙に店内が静かに感じられるんだけどな?いつも騒がしい結衣ちゃんは大人しいね?もしかしてご機嫌斜めですか?
「292円です」
「ほら。持てよマミ」
「ありがとー!ヒロ君!」
やれやれ。
やっと帰ったな。
結衣ちゃんとは、また一味違う騒がしさだった。
「若いわねぇ。こんな夜中にあのテンションはないわ。見てて疲れる」
「川神さんも十分若いでしょ?俺みたいなおじさんが言うならともかく」
「え?華井さんおじさんなんですか?」
「君ね?・・・まぁ君達よりは年上なのは確かだろうね」
「長谷川さん大丈夫ですか?凄い顔してますけど?」
おっと結衣ちゃん?
何故眉間に皺を寄せているのかな?
コスプレお化けだと言われて堪に触ったのかな?
今更じゃないかな?
「・・・気持ち悪い・・・トイレ・・・」
「あ。どうぞ奥です」
具合が悪かっただけか。
不健康そうだもんなぁ結衣ちゃん。
俺も人の事は言えないが。
「何よあの子具合悪いの?」
「多分。来た時から顔色が悪かったので」
「・・・しょうがないわねぇ」
川神が後を追って行ったけど、いいのかね?
放っておいた方がいい気がするんだけどな。
深入りするのは良くないと思うぞ。
「・・・初めて見ました」
「ん?何が?」
「さっきのお客さん。いつも女の人に買わせるんです。何もないといいんですけど・・・」
いや。だからさ・・・
君達なんで、そんなどうでもいい事ばかり気がつくのかね?
俺は別に気にしない。
他人の事なんて、どうでもいいんだからさ?
"お前には一生理解出来ない"
もう他人に関わって煩わされるのは二度とごめんなんだ。
誰かに執着するのも、されるのも理解したいと願う事も。
俺は死ぬまで、一人で生きていく。
でも、そこに辿り着くまで、まだ先は長いんだ。
だから精々その為のネタを少しばかり提供して欲しい。
・・・その為に、俺は毎夜このコンビニにわざわざ足を運んでいるんだからな。