双子の弟
《彼》は誠也が助けた女性の跡をつけ、結衣に話しかけた人物です。
俺達は生まれた時から全てが同じだった。
見た目も性格も趣味趣向も全て。
本当の親でさえ俺達を見分けるのは難しいようだった。
それでも長く生きていれば自ずとズレが生じて来る。
俺達の最初の分岐点、それは高校進学の時。
彼は当然俺と同じ道を進むのだと思っていた。
「俺、やりたい事があるんだよね」
彼は、なんでもないようにそう言うと両親を説得し、俺とは別の道を歩み始めた。
そして、彼は両親の自慢の息子になっていった。
一方俺は当初の予定通り自分の偏差値に見合った学校に進学し、大した目的もなく、ただ流れに任せて生きていた。
彼と同じ姿で、彼とは全く違う人生を生きる。
もしかしたら彼は、俺と一緒に生きる事が苦痛だったのかも知れない。それはそうだ。
俺達は生きている限り人から比べ続けられる。
顔も声も仕草も背の高さも全く同じ。
見分けて貰う為には彼とは違う何かを手に入れなければならない。
****
秀一が居なくなって両親は警察ではなく探偵に秀一の行方を探すよう依頼した。そりゃそうだろう。
あんなものが見つかったのだから、万が一調べられて警察に捕まったら大変だ。
"なぁ頼むよ。これが最後だからさぁ?"
俺達はどうして双子で生まれたんだろう?
せめて二卵性なら良かったのにと、何度も思った。
「あの・・・すみません」
「え?何」
全身ピンクと白のレースがユラユラと揺れている。
あの女をコンビニに連れて行った怪しい女性は恐らく両親が依頼した探偵だろう。
店内の様子から、この趣味の悪い格好の女の子も知り合いだと思う。
「・・・突然失礼します。貴女は、先程コンビニに入って行った背の高い女性とはお知り合いですか?」
「え?何それぇ?君誰?」
「俺、松井 芳和って言います。実は訳あって行方が分からない兄を探しているんですが・・・」
こんな事どう説明したらいいのだろう。
そもそも信じて貰えるとは思えない。
「・・・ふぅん?で?その松井君が私になんの用?」
「実は、その背が高い女性が連れて行った女の人が兄の行方を知っているのではと思っているんです。それで、手掛かりを掴みたくて跡をつけていたんですが・・・誤解されてしまったらしくて」
「へぇ?ストーカーの言い分にしてはお粗末だけど?で、何が知りたいの?」
「彼女何か変な事口にしていませんでしたか?なんでもいいんです」
「さぁ、何も言ってなかったよ?そもそも赤の他人の私にベラベラお喋りしないんじゃない?」
そうだろう。
これは想定内だ。
「そうですか。呼び止めてしまって、すみませんでした。忘れて下さい」
「あ!ちょっと待って」
「え?」
いや、これは想定外だった。
「面白そうだから協力してあげようか?LINE交換しよ?もしまたコンビニで会ったら、少し試してみてあげる」
俺は、話しかける相手を間違えたのだと後に後悔する事になる。