事の始まり〜コンビニ店員諸星☆
夜中の3時。
僕は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
今日はアルバイト初出勤日だ。
しかし、夜中の3時ともなるとお客さんなんて殆ど来店しない。当たり前ではあるが、暇だ。
ーーー掃除でもしようかな。
そう思い立って顔を上げると店の自動ドアが開く音がした。
僕は慌てて挨拶を口にする。
「いらっしゃいませ」
そして、思わず入ってきた客を注視した。
来店したのは男性一人に女性が二人の三人だった。
思わず目を疑ったのは彼等の出立に理由がある。
一番先頭を得意げに歩いていたのは全身ピンクと白のレースがあしらわれた可愛らしいドレス、頭にはそれに合わせたハーフボンネット、そして栗色のツインテールの髪を揺らした可愛らしい女の子。
僕の記憶では、こういう格好をする人達の事を"ゴスロリ"とか、"甘ロリ"などと言う筈だ。でも、そちらの世界に詳しくないので僕には違いが分からない。
そして、その隣に並んで入って来た女性は逆にとても背が高い。ドレスを着た女の子が小さいから大きく見えるとかではなく、実際に背が高い。何故なら170近い僕よりも背があるのだから、相当大きい。モデルさんだろうか?
そちらの女性は少し癖のあるアッシュの短めの髪に黒の革パンに黒のライダースを合わせて着ている。手には黒い手袋、肌は健康的に焼けてはいたけれど、顔色は余り良くない。化粧は濃い目で口元の赤がとても印象的だ。あと、なんか怖い。彼女から放たれている圧が凄い。
そして最後にその二人の背後から入って来た男性は前の二人とはコレまた真逆、和装の着物姿である。
人の良さそうな男性は入って直ぐに雑誌コーナーに直行した。立ち読みされるのは、困るんだけどなぁ。
三人はお店に入ると別行動を取り出した。
もしかして、知り合いではないのだろうか?
男性は雑誌コーナー、背の高い女性はレジ付近の冷蔵ケース、全身ピンクの女の子は奥のデザートコーナーを覗いている。
初出勤で接客する相手としては中々濃い。
僕は一人で大丈夫だろうか。
一抹の不安を覚えながらも、言われた通りにやればきっと大丈夫な筈だと自分に言い聞かせる。
それしかない。この時間帯もう一人のアルバイトは休憩をとりに外に出ている。なんて運がないんだろう。
僕が鬱々とそんな事を考えていると、また店のドアが開く音がした。僕は顔を上げて挨拶をしようと試みて、失敗した。
「騒ぐな。黙ってレジの金を出せ」
僕は次の瞬間自分の頭の中に詰め込んだマニュアルを引っ張り出そうと頑張ってみたが、中々頁が開かなかった。
自分に突きつけられたナイフをボンヤリと見ながら僕が次に考えたのは、まだこの事に気付いていない三人の変わったお客さんをどう逃すかと言う事だった。