勇者の剣より強いもの
「勇者」と呼ばれる男は剣を握り、世界と戦っていた。
国王は驚愕した。
目の前にいる勇者の横には魔王とその側近の魔物が並んで立っていたからである。
「ゆ、勇者アルトよ。これはどうしたことだ……?なぜ魔王と共におるのだ……?」
「国王、今日は話があって来ました。国王から魔王征伐の依頼を受けてこれまで旅をしてきたが、そもそも人間と魔物はなぜ敵対しているのだろうか?」
国王の横にいた大臣が会話に割って入った。
「勇者よ、いまさら何を申しておるか!魔物は人間を襲う。魔物から皆を守り、世界に平和をもたらすことが勇者の使命ではないか!」
魔王は語気を強めて反論した。
「それは違う!我々は自身の生活が脅かされることがない限り、わざわざ人間を襲ったりなどはしない!」
「そう。魔物は人間を襲い、人間は魔物を退治する、という間違ったイメージを広め、人知れず利益を得ようとしていた人物がいる!」
「な、なんと!」
勇者の言葉に国王は衝撃を受けた。
ただ、国王はいまだに魔王が眼前にいる状況に戸惑いを隠せない様子でもあった。
勇者は一人の人物を指さした。
「大臣。お前はこの魔王の部下と結託し、数十年かけて人間と魔物が敵対するように仕向けたんだ!俺に魔王を殺させて、魔王亡き後はこの部下が新たな魔王となる手筈だったそうだな。」
「既に我が配下が全ての計画を吐いているぞ。言い逃れできるとは思わないことだ。配下の腹中も見抜けぬとは、我ながらとんだ愚か者だがな。」
「そして、その後国王を暗殺し、全ての罪を俺に被せ厄介払いをして自らが国王になるつもりだったんだろう!」
大臣は動揺した様子など見せず、勇者たちを睨みつけている。
「先ほどから聞いていれば、よくぞここまで妄想を並び立てることができたものだ!ありもしないことをペラペラと……。私はそのような魔物などと手を組んだ覚えはない!」
「き、貴様、裏切るのか!?」
「黙れ、魔物よ!国王様、勇者は残念ながら魔物どもに洗脳されてしまったようです。近衛兵!国王様をお守りするのだ!」
近衛兵たちが国王の周りに集まり、勇者たちに向けて槍を向けた。
近衛兵たちは勇者の言葉が真実なのか悩んではいるが、差し当たって大臣の命に背く訳にもいかず、それぞれ葛藤の表情を浮かべていた。
「一体これはどういうことなのだ……?勇者が洗脳……?だ、大臣、どうすればよいのだ……?」
国王は現在の状況が理解できず、目を丸くしながらおろおろとするばかりだった。
魔王は勇者に話しかけた。
「アルト。人間の王はどうやら自らで考えることが難しいようだ。このままではおそらく大臣とやらに言いくるめられてしまうだろう。とはいえ、武力で解決できる問題でもない。どうするつもりだ?」
「……確かに、国王がここまで耄碌しているとは思わなかったな。どうするか……?」
唐突にアルトに一つの考えが浮かんだ。突拍子もない閃きであり、上手くいくかも分からない。だが、他に良い案は特に思いつかない。
「上手くいくかは分からないが……一つ試してみたいことがある。力を貸してくれないか?」
「ほう。話を聞こうではないか。」
数年後。
喫茶店にて、一組の男女がテーブルを挟んで座っていた。
「大陸新聞のエマといいます。今回、取材を受けて頂きありがとうございます。」
「いやいや、とんでもない。」
「アルトさんが脚本を作成した音楽演劇『世界の真実』は老若男女皆が楽しめる作りになっていて、大流行しました。」
「ここまで流行るとは俺自身驚いてるよ。」
「何より衝撃的だったのは、人間と魔物が対立するよう仕向けた陰謀と黒幕の物語が実話である、ということでした。この音楽演劇がきっかけとなり、昨年には人間と魔物の融和に至りました。この『世界の真実』は、魔物たちの間でも流行したそうですね?」
「魔物向けの脚本を魔王と共に協力して作ったんだ。魔物は人間より言語が多く分かれているから、なかなか苦労したよ。」
「当時は勇者から一転して反逆者扱いとなり、その後『世界の真実』の流行によって当時の国王と大臣は失脚しましたが、その間は結構大変だったのではないですか?」
「別にそうでもないさ。まあ、ただ声を上げるだけじゃ意味がないと思ったからな。」
「今後の活動について、何かお考えですか?」
「今、次の脚本を作っている最中だ。娯楽は世界を変える力があるって分かったからな。人間同士、魔物同士の争いは未だになくならない。少しでも武力による争いを減らせればと思って作っているんだ。」
「もう次回作を作成中なのですね!題名は何て言うんですか?」
「次の題名は…『勇者の剣より強いもの』だ。」
「勇者」と呼ばれた男はペンを握り、今もなお世界と戦っている。