⑨ロクな話しねーな、もっとまともな会話しろよ
――その後は、一日中丘と話した。
彩よりも丘と話す時間のほうが長くなってしまったほどだ。
正直前世と変わらない一日だったが、それでも悪くない一日だった。
結局その日は丘と一緒に帰ることになったので、慎二も誘う。
ちなみに慎二と丘は小学校の頃から仲が良い。
――
「へぇ~、博和、クラスでそんなことばかり話してるのか」
「そうなんだよ、どうにかしてくれよ」
丘が慎二にクラスでの俺の様子を話している。
「『抜く』とか言っても、まだクラスの大半は言葉の意味分かってないけどな」
「あの優等生の博和がなぁ……」
ここで俺が口を開く。
「お前達、分かってねーな! 言霊と言って、口に出した言葉には力が宿って真実になるんだ。俺が彩ちゃんで抜いていれば、必ず願いは叶う!」
そう、頭の中で思っても、何もしなければ何もなかったのと同じ。
口に出し、改めて言葉の意味を噛み締め、現実に変えていくのだ。
「いや、抜いてる話しかしてねーから」
「真実になってもセンズリこいてるだけじゃねーか」
「うっ」
二人から同時に突っ込まれる。
確かにその通りだ。
別に彩で抜き続けたい訳ではなく、お付き合いしたい(お突き合いしたい)。
「大体、布団に出してたら匂いヤバイだろ」
「そうそう、絶対お母さんにバレてるよ」
「おいやめろ。それが言霊となり真実となったら俺は困る」
俺は自宅では優等生のままだ。多分。
「まぁいい。俺は彩ちゃんと付き合う。お前達モテないブラザーズは指を咥えて見ていろ」
そう、俺は未来を変えるために行動するのだ。
こいつらが指を咥えて見ている頃、俺は彩ちゃんに別の何かを咥えてもらっているはずだ。なんちゃって。
「うん、まぁ、応援しているよ」
そう言って二人は生暖かい笑顔を俺に向けるのであった。
――
そんな日々を数回繰り返した後、部活の仮入部期間が近付いてきた。
放課後はそれぞれが興味のある部活に仮入部し、実際に活動してみた上で、最終的に本入部する部活を決定するのだ。
「なぁ丘、お前はもう部活決めたか?」
「ああ、俺は柔道部に入ろうと思っている」
やっぱり前世と同じか。前世での丘は、柔道部に入部し、最終的には部長を務めていた。
高校時代からは『柔道なんかやってられっか』と言い放ち、全く別の部活に入っていたが。
「おお、いいじゃん! 特にモテなそうなところがお前にピッタリ」
「絞め落とすぞ」
柔道部に入っておいて「モテない」と嘆く前世の丘は非常に滑稽だったが、同じ轍を踏まないよう、ここは敢えて柔道のネガキャンを行い、考え直すきっかけを与えてやろう。
「じゃあ真面目な話をしよう。いいか、柔道部に入ったらみんな坊主頭だ。カ○オ君って呼ばれるぞ」
「野球部も坊主だろ」
「あいつらはモテるから可愛いカ○オ君だ。お前はイタリア語のカ○オ君だ」
「どういう意味だよ……」
「辞書を引け」
不勉強なやつだ。まだこの頃は純粋だったとも言えるか。
何にせよ、俺の言葉で考え直す気配はなさそうだ。
「博和はどうすんだよ? どうせまた新田と一緒の部活とか言い出すんじゃないのか?」
「いや、まだちょっと悩んでる」
前世で俺は、彩と同じソフトテニス部だった。まだ出来たばかりの部活で先輩もおらず、上下関係が嫌いな同級生達が大量入部していた。
また、顧問が新任で管理も緩かったため、俺自身も週一程度の練習参加ペースで緩くやっていた。
彩に惚れた直後は、毎日彩と会うべく練習に精を出し、その結果、県大会でも結構いいところまで勝ち進んだ。しかし、彩との距離が離れてからは一切練習に顔を出さなくなった。
今の俺でも、周りが初心者だらけの状況で入部すればエース級だろう。なんだかんだ、周りから期待されてしまう。そうすると、手を抜けなくなってしまう性格だ。生活の大半を部活に捧げてしまうことになる。
「まぁ、色々やってみてだな」
「そうか、決まらなかったら柔道部に来いよ」
「女子はいるのか?」
「先輩にすげぇいいデブがいる」
「良かったな、寝技教えてもらえ」
柔道部だけはないな。
――
休み時間中に慎二と会ったので、同じく部活について聞いてみる。
「パソコン部にしようかと思ってる。運動部はちょっとな……」
慎二も前世と一緒か。丘と同じくモテる気はないらしい。
「先輩に聞いたんだけど、ひとり一台パソコンが割り当てられて、インターネットやゲームが出来るらしいから、面白そうかな、と思って」
「Welcome to Underground」
「え?」
「いや、何でもない。ヤホーで楽しく検索してくれ」
「? あぁ」
『モテない部活』と言いつつも、実はパソコン部はかなり良い。
まず、この時代にインターネットが使い放題というのは中々ない。
法整備も甘い上に、学校の教員レベルでは履歴さえ調べられないため、前世では俺もパソコン部にお邪魔しては、慎二と好き勝手やっていた。
先輩もおかしな連中が多く、『貝類の研究』と称しては女性の秘部画像をダウンロードし、『チンポジウム』と言いながら人を集めて意見を述べ合っていた。
『赤貝』から『クロアワビ』への変化を発表した『進化論』は、夢にまで出てくるほど衝撃だった。
想い出はいっぱいあるが、あの日確かに俺は大人の階段を一歩上ってしまった。
なお、件の顧問のレベルだが、『生徒のために』とパソコン雑誌を一年分買い付けてくれたものの、中身は全てエロゲーの紹介と攻略だった。
良く似たタイトルの雑誌に技術的な内容のものがあったが、本気で間違えたのか、そう見せかけて実は思春期の生徒に配慮したのか、未だに分からない。
ただ、学び舎の本棚にエロゲー雑誌が陳列されている様は、中々にシュールだった。
この時代のOSにはあまり馴染みがないものの、俺もそこそこにパソコンは操作出来るため、選択肢としてはありかもしれない。
「そうだな、俺も仮入部は行くかもしれないから、そしたら一緒に行こう」
「ああ、分かった」
――
二人は当然と言うか、前世と同じ部活を選びそうな気配だ。まぁ、そうなるだろう。
もう一人、俺は彩にも話を聞いてみることにした。
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次回更新は未定でございますが、引き続きお付き合いいただけますと幸いです!!