「時間が止まれば良いのに」、それは終わらない物語
この連載小説は未完結のまま約一年以上更新されていませんでしたが、更新されました。
次話も更新したい気持ちが大きいです。
やればできるなんて噓っぱちだ。
若者が誇れるものは、きっとなけなしのプライドだけだ。
俺は謎のカクテルをチビチビと飲みながら、『十分くらい前に戻らないだろうか』と考えていた。
二十年以上前に舞い戻ってきても、中々どうして、人生というのはままならないものだ。
俺のイメージでは、ここらへんで何かもっと良い雰囲気になって、イチャイチャチュッチュしたかった。
こう、一般的な学生の不純異性交遊というか、密室で密接というか、俺のゴールデンマイクというか、そんな気持ち解かるだろう?
「……博和?」
「……はッ!?」
「大丈夫? 飲み物来てからずっと黙ってたけど……」
「いや、うん、ちょっと考え事してた」
「考え事?」
「そう、えっと……。謎のカクテルの中身は結局なんだったのか、って」
「答えは出たの?」
「謎だ」
「そ、そう……」
そう言うと、彩はまたポテトを食べ始める
ジャンクフードを食べる姿でさえ可愛い。
そんなところを見せつけられると、俺はまた考え始めてしまう。
――そのポテトでポッキーゲームしたら、それは果たしてポッキーゲームなのだろうか。
ポをボに変えた方が名称としては相応しいのではないだろうか。
そうなったらもう、ゲームではない。
ガチンコだ。
〇ッキーがチンコだ。
そんなことを考えていると、彩が「……もうっ」と言った。
「はい!」
「え?」
「さっきから私しか食べてないじゃん! 博和も食べて!」
そう言うと彩は、手に持ったポテトを俺の口まで運んだ。
思わずポテトを加えた俺に、電流が走る。
――このままパクパクと食べ進んで、彩の指をしゃぶるのはどうだろう?
なんて冷静で的確な判断力なんだ。
自分が怖くなる。
善は急げだ、行くぜ。
真顔で口を猛スピードで動かすと、彩がそれを上回る速さでポテトから手を離した。
残像が残る速さ。
……達人か?
一足(この場合は一口か)遅く、彩の指があった場所に到達する。
手を開いた状態で硬直する彩。
表情も固まっている。
真剣な表情で見つめる俺。
それを見つめる彩。
見つめ合うと素直におしゃぶりできない。
ここが冗談で済むか否かの境目だ。
『硬直する彩を見て、俺も硬直しました! これが本当の〇ッキーゲーム』
頭の中の陽気な俺が馬鹿な事を言おうとする。
……駄目だ、ここで立て直さなければ。
このまま続けたら涙もろい過去になる。
ピザでも同じことをやったらデスだ。
「……歌おうか」
「う、うん」
――
一瞬怪しげな空気になってしまったが、歌い始めるとカラオケは盛り上がった。
前世でも経験がある。
学校くらいでしか歌った経験がないと、初めて全力で歌った時に、驚くほど気分が高揚するのだ。
彩も前世の俺と同じ状態なのであろう。
出だしはせつなくてゴメンだったけど、これでチャラだ。
やさしい気持ちってやつだな。
一通り盛り上がって、カラオケを後にする。
夕暮れどき、五月の風はまだ冷たかったが、高揚した身体には心地良い。
「カラオケ、楽しいね!」
「そうだね、超楽しかった! 彩のサニーデイズ良かったよ」
「ありがと、博和も上手だったよ! あ~、もうちょっと歌いたかった」
「そうだね」
満足そうな彩を見て、俺は安心した。
一時はどうなることかと思ったが、これは持ち直せたと言っていいだろう。
「……」
「……」
不意に会話が途切れる。
これは俺が考え事をしているという訳ではない。
むしろ、良い雰囲気というやつではないだろうか。
……えっ、どうしよう。
何か気が利いたことを言えれば良いんだが。
悩んだ挙句、俺は言った。
「……また行こうぜ」
彩が返事をするのを待たずに、「二人で」と言葉を重ねた。
しょうもないことばかり言う俺だが、その何倍も恥ずかしかった。
前世で足りなかった、勇気というものを少しだけ振り絞れたのかもしれない。
彩はこっちを見ずに、小さめな声で「……うん」と言った。
その横顔は、普段よりも赤かった気がした。
きっと俺の顔も赤い。
彩に何か言われたら夕焼けのせいにしよう。
ガラでもないが、そんなクサい考え方も許される気がした、二人きりの帰り道だった。
読んでくださった方、お待たせしてしまい申し訳ございません!!
本当にありがとうございます!!