ひと夏の経験(5月)
すみません、昨日予約投稿をミスって3話投稿してしまいました……。
話が訳分からなかった方は、3話前から読み返してみてください。
3話前から読み返しても分からなかったら、私が書いているものが訳の分からないものということで、気になさらないでください。
俺は学校の近くの公園で彩を待っていた。
携帯電話のないこの時代、すれ違ったらそれは終了を意味するため、早めに現地に到着している。
少し待つと、彩がやってきた。
チラッとこっちを見たものの、別の所を探しているようだ。
「新田! こっち!」
声を掛けると、彩がこっちにやってくる。
俺を見て、驚いた顔をしている。
ふふ、俺カッコいいから。
「博和……? え、だいぶ学校と雰囲気が違わない?」
「そう? 変かな?」
「うん」
「!?」
!?
!!?
「あ、冗談冗談。オシャレだよ」
「ホントかよ……」
「だって、私制服なのにそんな恰好してくるから……」
「いや、制服は素晴らしいファッションだ」
「……やっぱり博和って変態だよね」
「……話せば長くなるけど、言い訳とか聞く?」
「あ、大丈夫」
確かに、俺が私服で彩が制服だと浮いてしまうだろう。
とは言え、俺は制服が好きだ。
肩の上まで伸びた黒髪のショートカットが良く似合っている。
中学生である以上、周りと同じ髪色、同じ服装なのに、彩だけが輝いて見えるのは何故だろうか。
その大きな目に、心まで吸い込まれそうになる。
「……まるで心のサイクロン掃除機だね」
「は? 掃除機?」
しまった、声に出ていた。
人間洗浄機とでも言っておけば良かったのだろうか。
この時代にサイクロン掃除機は無い。
「とりあえず、どこ行くの?」
「ああ、俺行きたいところがあるんだ」
「へぇ~、どこ?」
「個室で、ゆっくり出来る所」
「だからどこよ」
「周りの音が聞こえない場所」
「……えっ、図書館とか?」
「いや、まさか。俺達の声も周りに聞こえなくなる場所さ。自分達の世界に入れるんだって」
「それって……」
「いくら声出しても大丈夫。まだ同級生で行ってるやつはいないんじゃないかな」
彩は信じられない、といった顔で俺を見ている。
「俺も新田もきっと初体験だよ」
「ひ、博和……!!」
そんなにおかしいか?
さっさと伝えよう。
「カラオケ」
「……」
「……」
「カラオケ?」
「そう」
「そう……」
彩は疲れた顔をしていた。
「あ、なんかまずかった?」
「ううん、大丈夫。確かに私、カラオケとか行ったことないけど」
「俺も初めて」
彩ちゃんの初めてをいただくぜ!
「あ、ちゃんと話すと、カラオケにサニーデイズの新曲入ってるみたいでさ。歌ってみたくて。友達は歌うのが恥ずかしいみたいで」
「……丘ってそんなタイプだっけ?」
「う、うん」
丘は歌う。
平気で歌う。
本当は丘には聞いていない。
あいつは今頃きっと菜箸でドラムもどきを叩いていることだろう。
「それで、周りにサニーデイズ知ってるやつもいないし、どうせなら趣味が合うやつと行きたいし。一人じゃさすがに行きづらいから、一緒に行こうよ」
「そういうこと。うん、分かった、いいよ」
「やったぜ」
「あ、でもご飯どうしようか? 私まだ食べてないんだけど」
「カラオケで注文できるみたいだよ。今回はいきなり誘っちゃったから、俺が払うよ」
「え……。それは悪いよ」
「いいよいいよ! 色々変なことも言っちゃったし、お詫びも兼ねて」
「自覚はあったんだね」
「国の運営に失言は付き物だからな」
「直せはしないんだね……」
こうして、俺と彩は二人でカラオケに向かった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
カラオケとゲーセン以外で中学生が遊ぶところってあるんですかねぇ