明るい日曜日
「他のギターも試してみなくて良いのか?」
一度ギターを弾いただけで購入を決めた慎二。
俺が聴いてみた感じでも、確かに良い音はしていた。
しかしながら、一音鳴らしただけで決めてしまっても良いものか。
勢いも大事だが、一応確認してみる。
「ああ。何と言って良いか分からないが、『これだ』って思ったんだ」
「そうか……」
興奮しているのか、目を輝かせながら語る慎二。
その表情、その言葉に懐かしいものを感じる。
……そうだ、前世でエロ本を初めて買った時と同じ顔、同じ台詞だ。
そのギター一本で、エロ本を二十冊は買えてしまう。
うん、余計なことを言って水を差すのは止そう。
「そうだね、正直予算があれば良いギターはあるし、逆に何もこだわりが無ければ安いギターもあるけど、値段とのバランスは相当良いと思うよ。予算内の中ではまず間違いなく一番良い音だろうしね」
その店主の言葉に、慎二は何度も頷いていた。
「じゃあ、買います!お願いします」
「毎度。支払いは……」
「あ、今日出来ます。もう持って帰れますか?」
「大丈夫。と言いたいところだけど、折角だから調整して弦も張り替えておこうか」
「あ、ありがとうございます!」
「今日はもう遅いから、明日来てくれれば渡せるようにしておくよ。荷物多くなっちゃうから、セットだけ先に持ち帰る?」
「お願いします!」
そう言うと店主はセットを選び始めた。
『適当に弾いて待っててよ』と言われたが、慎二はもう弾く気配が無い。
「何か弾かないのか?」
「いや、俺はもういいや。ってか、このギターがどんな音してるか聴いてみたいから、博和弾いてみてよ」
「え、俺が弾くのかよ……」
ギターを渡される。
アコースティックギターは自宅で弾いているが、エレキギターは久しぶりだな。
「そうだな……」
一瞬悩んだが、有名な洋楽のリフを弾く。
難易度の割にはフレーズが派手なので、ハッタリが利くのだ。
「……やっぱ凄ぇな、博和は」
「いや、大したことしてないよ」
本当に大したことではない。
ギター歴20年だと思うと泣けてくるぜ。
「中学生だとしたら、良く弾けてる。上手だよ」
「ありがとうございます!」
近くで聴いていた店主が言う。前置きの言葉通り、中学生にしては上手い。
仮に高校生だとしても上手い方だろうが、大学生や社会人なら普通のレベル。プロの手前の手前の手前程度か。複雑な気分だが、ちょっとだけ嬉しい。
「まぁ俺のテクニックはどうでもいいんだけど、これは良いギターだな。聴いてみてどうよ?」
「いや、凄いよ。博和、プロになれるんじゃない? ギターの音も、凄い」
……こいつ、さっきから『凄い』しか言っていないな。
でもまぁ、嬉しそうで良かった。
連れてきて正解だったかな。
――
「じゃあまた明日以降に取りに来てね」
「はい! よろしくお願いします!」
楽器屋を後にする頃には、もう二十時を回っていた。
「結構遅くなっちまったな」
「ああ、とりあえず急いで帰ろう。あと、色々ありがとな」
「いや、別に」
「髪型もそうだし、服もそうだし、ギターも。一日で生まれ変わった気分だ」
「邪神の呪いから解放されたしな」
「おい! もうやめてくれ!」
「試しにもう一回同じ服着てみたらどうだ?」
前世ではずっと着ていた。
無論、モテることはなかった。
「勘弁してくれ! もう着なくなりそうな服は、丘にでもあげようかな」
「あいつ、意外とセンス良いからな……。受け取らないんじゃないか」
「マジか……。俺のファッションは、柔道着よりダサかったのか」
「丘は柔道着を私服にしてないぞ……」
慎二はショックを受けている。
今日まで自分のファッションセンスが丘よりはマシだと信じてたんだろうな。
俺もそうだった。
とは言え、今隣にいる慎二はイメチェンのおかげでイケメン風だ。
明日丘が見たら驚くのではないだろうか。
「そう言えば博和、俺の服なら裸の方がマシって言ってたよな? 柔道着と裸なら……」
「柔道着の方がマシかな」
「マジかー! 俺の服が最低じゃん! ……いや、でも博和」
「どうした?」
「可愛い女の子が、柔道着着てるのと、裸だったら……」
「……!」
「裸の方が、良くない? 少なくとも俺はそう思うぞ!」
「……確かに」
「だろ!?」
「……いや、良く考えたらそれは見る方の話であって、着る立場を考えていないな」
「そうか〜」
「人によっては裸より柔道着の方が良いって言う場合もあるかもしれないしな。見る方の立場でも」
特殊な性癖だが。
まぁ正直俺も可愛い女の子に寝技されてみたい。
いや、どうせ寝技されるなら柔道着着てなくてもいいな。
裸でいいわ、裸で。
「俺は裸のが見たいが」
「人によるさ。あとは流行とかもあるしな」
自分で言ってて何だが、裸が流行って原始時代かよ。
「じゃあ、英字の時代も……」
「来ない」
「畜生!!」
そんな話を帰り道ずっとしながら、俺達の日曜日は終わっていくのであった。




