⑮一緒に帰って友達とかに噂されたい
「あれ、博和?」
「おぅ……」
彩は俺を見つけると、普通に声をかけてきた。
正直怒られると思っていただけに、肩透かしを食らう。
「何やってるの?」
「あ、新田のこと待ってたんだ」
「私を? え、何か用事?」
……しまった、偶然を装えていない。
これでは待ち伏せだ。いや、事実なのだが。
それにしてもこのリアクション。
朝のセクハラはもう怒っていないのか、それとも忘れたのか。
「いや、朝のこと。ちゃんと謝ろうと思って」
「あ! そうだよ! 変態!」
「ゴメンナサイ……」
「私のことエッチな女扱いして!」
「スミマセン……」
「あれ、丘も相当だったけど、やっぱり博和が原因だよね!」
……忘れていただけだったようだ。
朝の出来事と同時に怒りも思い出したようだ。
「もぉ~! おかげで今日一日恥ずかしい気持ちで過ごしてたんだからね!」
「モウシワケナイ……」
いや、さっきまで忘れてた気がするが。
だが、俺には分かる。それを口に出してはいけないと。
口は災いの元だ。
「じゃあ、『エッチなことを考えていたのは僕と丘で、新田さんはエッチじゃありません』って言って」
「エッチなことを考えていたのは僕と丘で、新田さんはエッチじゃありません!」
「うんうん、次は『朝ごはんの話と見せかけて僕はセクハラをしました』」
「朝ごはんの話と見せかけて僕はセクハラをしました!」
「最後は『僕は女の子にセクハラして喜ぶ変態です』」
「僕は女の子にセクハラして喜ぶ変態です!」
うん、なんだろう。
ご褒美かな?
言わされて喜んでいる俺がいるぞ!
あと、彩はエッチじゃないとしてもSなんじゃないかな。
「……うん! いいよ、もう」
「え、ホントに?(もっと欲しかった)」
「うん、丘は許してないけど」
「そっか、あいつは許さなくていいよ」
「あとさ、元気出た?」
「え?」
「ほら、朝何か元気なかったじゃん? ホントは朝ごはんのことだけじゃないでしょ」
「……」
くっ。いい子だ。
「ありがとう。元気出たよ、大丈夫」
「そう」
優しくされると好きになっちゃうぜ。
いや、そもそも好きだから、もっと好きになっちまったぜ。
「じゃあ私、そろそろ帰るから」
ここで『一緒に帰ろう!』と誘う勇気は俺にはなかった。
『一緒に帰って、噂になると恥ずかしい』なんて言われた日には、立ち直れる気がしないからな!
だがしかし!
それは前世までの気弱な俺!
さっき貰った元気で俺は誘う!
朝一のマイナスを、プラスに変えるのだ!
「あ、一緒に帰らない?」
「え? 博和の家、逆方向でしょ?」
「あ、あっちの道通れば途中まで一緒だからさ」
「ああ、じゃあ途中まで行こっか」
やったぜ!
――こうして俺は、彩と一緒に下校することとなった。