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第97話 最高神と星降りの異変

 イアナさんが指を鳴らすと、転生ルーム内に楕円形の穴が出現した。

 僕らはそこから外へ踏み出し、久方ぶりの天界へ足を踏み入れる。

 いやまあ、僕が久しぶりなだけであってイアナさんはそんなことないんだけども。


 下を見ればそこには雲が漂い、前には雲を模している白い建物が並んでいる。

 要は空中に丸ごと城下町が浮いているような感じなのだが、何度見てもこの場所を歩くのは慣れない。

 なにせ透明ガラスよりもさらに透明なのだ。一歩踏み出すたびに玉がヒュンとしてしまう。玉無いけど。


「ほら、急がないといけないんでしょう。早くしてくださいよ!」

「いやそうは言っても、僕外歩くの苦手なんですよ……」

「へたれなんですね」

「失礼ですね。久しぶりな上に慣れてないんですよ。引きこもりのサボり魔だった僕を舐めないでくれますか?」

「……フォルトさん。自分で何言ってるかわかってます?」


 わかってますとも。

 それでも上手くいっていたのだから文句はあるまい。


 ……とはいえ、それを口に出していたらまた関係のない話が始まりそうな気がしたので、僕は極力前だけを見て足を動かした。

 下さえ見なければただの地面なのだ。

 怖くない、怖くない。

 怖くないぞ。


 そう言い聞かせているうちに、最高神様がいる宮殿が近づいてくる。

 例のごとく白く巨大な建物の前には、これまた真っ白な門番が二人。

 この門番は人ではなく、二十四時間動き続ける便利な魔法人形だ。


「では私はここでお待ちしていますね」

「え? ああ、ここからもう入れないんでしたっけ。わかりました、いってきます」


 イアナさんに見送られ、僕は宮殿内部へと足を踏み入れる。

 透明な道から一歩、宮殿らしい真っ赤な絨毯を踏みしめると、心の底から安堵のため息が出た。


 宮殿内部には部屋らしい部屋は少なく、かなりすっきりした内装になっている。

 食堂や厨房すらもない。もはや寂しいとすら思えてくるほどに、ただただ真っ赤な絨毯だけが主張してくる。


 はっきり言って外の方がよっぽど豪華だし、もっと言えば下界の方が充実している。

 これは人間上がりの神と、元々神として生まれた者の違いでもある。

 神には基本的に生理現象というものがない。それゆえに食べる必要もなければ寝る必要もない。


 感情はあるが、娯楽を必要としない。

 しかし僕やイアナさんのように、人間から神になった者は当たり前のように食べるし寝る。

 必要はないのだが、長年体に染みついた習慣がそうさせるのだ。

 最高神様は前者であるため、こんな寂しい宮殿でも平気なのだろう。


「本当、よくこんなところにずっと居られますね……っと、いけない」


 緩みかけていた気を張り直し、玉座へと続く大扉の前に立つ。

 すると、扉脇に構えている人形が僕の前に入に割り、若干ノイズがかった機械音声を扉に向けて発した。


「最高神様。フォルト様の御魂を宿す者、ルティア様がお見えになりました」


 僕の来訪を告げると人形はまた脇に戻り、同時に目の前の扉が地鳴りのような音をたてながらゆっくり開かれていく。

 僕は一礼の後、玉座まで足を進め、そっと膝をつく。

 そして、何者もいない空っぽの玉座(・・・・・・)にむけて口を開いた。


「ご無沙汰しております。最高神様」


 淡々と、当たり前のように口を動かした。

 人間である僕には見えないだけで、そこには確かに居る(・・・・・)のだ。


「ふーん。ユーがルティアちゃんか~。直接見るのは初めてだケド、美神にも負けず劣らずのビューティフォーな子だね」

「あぁ……ははは。その口調、まだ続けていらしたのですね」


 とても天界のトップに君臨するとは思えない、少年のような無邪気で高い声が頭の中に響いてきた。


「続けてるっていうかもう癖になっちゃったっていうか……まーま! ミーの話はいいのさあ! ルティアちゃ……あ、フォルト君のほうがいい? ユーの話を聞かせておくれ。ま、大体知ってるけどね!」

「……調子狂うなぁ――っ」


 つい口に出してしまった言葉にハッとして、片手を口元に運んでいた。

 まあ、この程度のことを気にするお方でもないのだが……失礼は失礼である。

 一度「申し訳ありません」と謝っておき、本題にはいることにした。


 ファルム襲撃から始まり、イルとウルとの出会いや教団のこと。

 ミシティアでのゴートの企み、師匠とグレィさんから聞いた現教団の成り立ち。

 ティー……アミリーのことと、フォルトを名乗り教団を操る者の事。


 転生してから今まであったことを、思い出せる限りのすべてを確認しつつ説明した。


「で、君とイアナちゃんは、神の中にフォルトを名乗り貶めようとしている者がいるから、特定を急いでほしい。と」

「はい」


 一通りの確認が済むと、しばらく静寂の時が続いた。

 僕から言えることはもう残っていないため、最高神様の結論を待つ時間だ。


 玉座と青空だけが見える白部屋でじっと耐えているというのは、中々につらいものがある。

 ていうか日差しが暖かくて眠くなる。

 この部屋、人間にはよろしくない、


 そして陽気にやられてウトウトし始めたころ、ようやく最高神様の声が聞こえてきた。


「う~ん。ちょっとハードな案件かもねぇ。実はミーも前に探ってみたことはあるんだ。でもこの天界にそれらしき子がいるとは思えないんだよねぇ。いるとすれば人間上がりの子だと思うんだけど……っと、ワッツ?」

「? どうかなさいました?」


 ふざけているような口調でも、何かがあったのだということは理解できた。

 僕がどうしたのかと聞くと、明らかに先ほどとは違う真剣な声が耳に響いてくる。


「フォルト君、もうあと少しで夜が明ける。目が覚めたらすぐに言ってほしい場所があるんだ」

「で、でもまだ」

「近いうちにまた謁見の時間を作る。イアナちゃんにも言っておくから、今は急いで! いいかい、その場所は――」



  ◇



「――――っ!!!」

「にゃっ」

「にゅっ ママ?」


 飛び起きた勢いで、イルとウルをびっくりさせてしまったようだった。

 しかし今はそれどころではないと、ベッドから降りて急いでパジャマを脱ぎ始める。


「ママ、どうしたの?」

「ちょっと顔がこわい」

「ごめんなさい。すぐに戻りますから、二人はここで待っていてください!」


 とにかく急いで着替えを済ませ、足を走らせた。

 一階に降りても挨拶をせず、そのまま外へ飛び出して走っていく。

 行く先は町の外、ギルドからも近い北門を抜けた先。


 門兵に声をかけられても何も言わず、外壁を左に曲がる。

 それから壁に沿って200メートルくらいだろうか。


 息を乱したどり着いた場所には、血まみれになって倒れている紳士の姿があった。

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