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第96話 星降りの前準備

「――ル――ん!」

「ん……」


 眠りに落ちたしばらく後に、何か聞こえた気がした。


「フォ―――さ―!」

「……んん」


 うーん、ちょっとうるさい。

 明日は星降りの日、いろいろと厄介ごとが待ち構えているかもしれないのだから、ゆっくり眠らせてほしい。


「起き―――さい!」


 あれか、明日が楽しみだからと言って、酒場にたむろしている連中が今から騒いだりしているのだろうか。

 それにしてはやけに声が近いような……。


「起きろやああ!!」

「ゴハアッ!?」


 直後、頭蓋が真っ二つに切れるかと思うような衝撃が脳天に響いた。

 あまりの痛さに体が跳ね上がり、目尻には涙が浮かび上がってくる。


 額を両手で抑えつつ、一体何が起こったのかと思って首を回してみると、ここが僕の部屋ではないことに気が付いた。

 この真っ白な背景に、眼前には見覚えのある黒髪メガネの女性。

 うん、どうやら転生ルームらしい。


「なんなんですか! 普段の寝起きは良いとスフィから聞いてますけど! なんでここではそんなにお寝坊さんなんですか!! もしかして、私嫌われてるんですか!?」

「んー……嫌いかどうかと聞かれれば好きではありませんが……この体の事とかありますし」

「っ……! 私、ちょっと身投げしてきてもいいですか」

「あー、どうぞ?」

「ひどい! そこは止めてくださいよ!!」


 止めるもなにも、本気じゃなさそうだったし。

 本気ならそれはそれで、天界から落ちる体験をしてもらうのも悪くないかなあと。


 心の中でそう思いながらも、口に出したら面倒な絡み方をされる気がしたのでそっとしまっておく。

 代わりに頬を少しばかり緩ませて、文句ではなく挨拶の言葉を送ることにした。


「お久しぶりです、イアナさん。元気にしてましたか」

「……お久しぶりってほど経ってましたっけ」

「いいんですよ。こっちは色々ありましたから。それよりもなんでまた?」

「いやいや、前回言いましたよね? 次は星の降る日にって」

「……?」


 言ってたっけ?

 覚えてない。

 前の時はイルの事とか、記憶が飛んだこととかで頭がいっぱいだったからなぁ。

 そういわれてみれば言ってたようなきがしないでもない。


「ん。でもそれを言うならまだ次の夜では……? 星降りの夜ってそうですよね?」

「うぐっ……こ、細かいことは気にしないでください。それどころじゃないんです!」

「?」


 それどころじゃない、とは?

 僕が軽く首をかしげると、イアナさんはコホンを咳払いを挟んだ後に僕の目を見る。


「フォルトさん。これから私の言うことをしっかり聞いていてください」

「はぁ……はい」

「あなたの信者を裏から操り、あなたを貶めようとしている者がいます」

「あ、はい。知ってます」

「えっ」

「え?」


 僕がそのことを知らないとでも思っていたのだろうか。

 イアナさんは目をぱちくりとさせ、しばらくの間固まってしまった。

 そこまで驚くようなことでもないと思うのだが……スフィから逐一報告を受けているの出ればなおさらだ。

 この様子だと、五日前にアミリーと接触したことはまだ知らないのだろうか。


 報告を受けているのだとすれば、彼女の裏に誰かがいるということは容易に想像できるはず。

 忙しくて報告を聞くどころじゃなかったのか、何か裏があるのか。

 少し聞いてみようか。


「イアナさん、僕がフォルト教団のシャーマンと接触したことは知ってますか?」

「え? あー。そういえばスフィがそんなことを言っていたような……ごめんなさい、私もバタバタしてて聞き流してしまっていたかも……シャーマンと話して、裏に誰かいるってわかったってことですか?」

「ええ、まぁそんな感じですね。正確には、確信を得たというところですが」

「……なるほど」


 僕の言葉を聞いた後。

 イアナさんはそっと目を逸らし、何かを考えるような仕草を見せる。


「フォルトさん。その子……シャーマンの子とは、うまく和解できたのですよね」

「ええ。そうですが」

「だとしたら、場合によってはうまい事出し抜けるかも……」

「出し抜く? その裏にいる誰かをってことですか?」

「ええ、その通りです。でもまずは準備を整えないことには何も始まらない。そこで提案――フォルトさん。今から最高神様に謁見をしていただけませんか?」

「――――なっ!?」


 今、イアナさんはなんて!?

 最高神様に……僕が、謁見を!?


 いきなりの申し出、それもかなり無理がある相談だった。

 最高神様とはその名の通り、この天界の頂点に君臨する神だ。

 その下に位置するのが、僕を含めた高神九人。

 イアナさんはさらにそのワンランク下となっている。


 最高神様への謁見は基本的に高神九人にのみ認められており、下の神が最高神様への進言がある場合は高神へ言伝を頼むのが通例となっている。

 今回もそれに則ったのだろうが、現状の僕は元神であって神ではない。

 前世の記憶と能力を保持しているだけの人間だ。


 ただの人間が最高神様に謁見など、本来認められるわけがないのだ。


「ご安心を。フォルトさんの状況は最高神様もご理解いただけていますし、謁見の許可も既に」

「……はぁ」

「……今面倒くさいって思いませんでしたか?」

「いいえ、仕方がないと」

「そんなに変わらないですよね? 不敬ですよ?」


 いいや全然違うぞ。

 面倒くさいと吐き捨てるのと、仕方がないと受け入れるのとでは雲泥の差だ!


 などと心の中で思ったが、確かにイアナさんの言っている通り不敬な気がするので声には出さないでおく。


「断る理由も権利もありませんし、それ自体は構いませんが……今からとはまた急ですね」

「そうでもないですよ? 星降りの日の伝説がある以上、この日に託宣があるのは確実でしたから。ここに向けて準備を進めていたんです」


 星降りの日に向けて……か。

 そういえばイアナさんもその陰にいる誰かも、星降りの日を知ってるんだな。

 もしかして知らないのは僕だけなんだろうか。

 まあ今はそんなことはどうでもいい。


 僕の下界での仕事を完遂するため、そして平穏な暮らしを守るためだ。

 やらなければならないのなら、やるしかない。

 やるならやるで、事は早く進めた方がいい。


「手早くいきましょう。僕は何を言えばいいですか?」

「フォルトを名乗る者がいることと、特定を急いでほしい事。……その者は確実に、高神以下の神の中にいるということ。それから……申し訳ありませんが、私はまだ十分な証拠を用意することができていません。フォルトさんご本人の体験をもとにお話しいただくしか」

「っ……わかりました」


 準備を進めてきたと言っておきながら、私は何も用意できていません。か。

 頼りないことこの上ないが、イアナさんの権限内でできることを思えば致し方ないのかもしれない。

 何はともあれ、朝になるまでには一段落付けなければならないのだから、考えている暇もない。


 ため息に少しの覚悟を載せて、僕は久方ぶりの謁見に乗り出すことにした。

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