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第95話 そなえ

「好きな……食べ物???」

「はい! あっ、食べ物でなくとも、欲しい物がありましたらそちらでも!」

「いやー、あのぉ……なぜ???」


 妙に活き活きとしだしたアミリーに対し、この場の誰もが困惑していた。

 僕を信じると口にしたが、その実どうしたらいいのかわからなくなっておかしく成ってしまったんじゃないか?

 そう思うくらいの豹変っぷりだ。だってもう、目がキラッキラ輝いてるもの。

 最初に面と向かって話すのもおこがましいとか言っていたのは何だったのか。


 僕らの反応にアミリーが首をかしげる。

 しかしそれからすぐに自分の過ちに気が付いたのか、ペコリと頭を下げながら口を開いた。


「あ! 申し訳ございません。急に言われても困りますよね! お供え物です!」

「「おっ!?」」

「……ぷっ」


 皆が再び困惑と驚愕を声に出し、僕の肩に戻ってきたスフィが吹き出した。

 僕?

 僕はうん……反応に困る。


「書物だけの知識ではフォルト様のお好きな物が何かまではわかりませんでしたし、今まで託宣を授かっていた時はその……とても気難しかったので、お聞きできなかったんです!!」

「そ、そういう問題……ですか?」

「です!!」


 いやぁそんな元気よく答えられましても!


 心の中で声にならない叫びをあげる。

 絶対そういう問題じゃないと思う。

 そもそもその気難しい人物は僕じゃないし。


 まあでも、それくらいなら答えてあげても構わないか。

 しかし……そんな急に言われてもなぁ。


「そうですねぇ。好き……とはまたちょっと違いますが、寒い時期ですから温かいスープやお鍋なんかはうれしいですね」

「!! ありがとうございます! では次の託宣に備えて準備を――」

「だからそれ僕じゃないですってばぁ!!」

「!!!!」


 僕の声にびっくりしたのか、はたまた言ったことにハッとしたのか。

 アミリーは目を大きく見開き、口をあんぐりとさせている。


 さっきまでの礼儀正しい子はどこへ行ってしまったのか。

 その姿はもう……ポンコツと言われても仕方がない程にしまりがない。

 本当にこの子が僕らを散々悩ませている教団のトップだと?

 ちょっと信じられなくなってくるな……。


 そして僕がそんなことを思い始めたところに、容赦のない人が一人。


「あまり調子に乗るなよ。お前がルティアを信じようが勝手だが、オレらはお前を信用していない。それを忘れるな」


 レイルさんが鋭い眼光でアミリーの事をにらみつけ、半ば怒りにも似た感情を乗せて口にした。

 これを耳にしたアミリーがレイルさんと目を合わせる。

 その姿がかなり恐ろしかったのか、大きく体をビクつかせていた。

 しかし同時に先の平静さを取り戻したらしく、胸元に手を当てて大きく深呼吸をすると、元の礼儀正しく真面目そうな少女に戻った。


「……申し訳ございません。恥ずかしいところをお見せしてしまいました。そちらのお方――恐らくはレイル様でしょうか。おっしゃる通りですね」

「…………」


 アミリーが名前を当てたことに、レイルさんは静かに眉を顰める。

 アミリーが教団の長であるということは、僕らと共にいて認知されているレイルさんの事は知っていてもおかしくはない。

 ゴートから話を聞いたのだろう。


 ……そういえば、ゴートは今何をしている?

 教団の重要人物であるアミリー――ティーを一人でここまで出向かせるとは考えにくい。

 ゴートでなくとも、護衛の一人くらいは連れていると考えた方が自然だ。


 でも彼女は昨日も今日も、単独で僕に接触してきた。

 周囲に誰かがいるような気配もない。

 本当に一人で来たのか?

 それとも……。


「アミリー、一ついいですか」

「はい。何なりとお申し付けください」

「教団の拠点はフォルタリア――アリアであると聞いています。ここまでは一人で来たんですか?」

「……ああ、そうでした。ルティア様はご存知ないのでしたね。こちらへ赴くようにとの託宣を受けていたのです。居合わせていた信徒を一人、護衛に付けて参りました。彼は今町の外に待機しているはずですよ」


 一瞬、危機感を覚えた足が逃げの体制を取ろうとした。

 護衛云々以前に、もっと面倒な問題に直面してしまったではないか。


 アミリーの言っていることがすべて事実だとしたら、彼女に託宣を与えているという誰かは、明らかに僕をフォルトだと断定したうえで彼女を送り込んできたとしか思えない。


 アミリーはアミリーで、僕を信用すると言いながらも、今まで託宣を与えていたであろう人物に対しても信頼を寄せているように見える。

 そうでなければ今の発言は無いだろう。

 今までの襲撃も託宣を受けての物……であるならば、疑念くらい抱いてもいいと思うのだが……。


 また危ない橋を渡るようで非常に嫌だが……一度信用すると聞いてしまった手前、僕から一言付けておかなければならないか。


「アミリー。もう一つ……これは確認と警告です」

「! は、はい」

「僕がフォルトであるということは、完全に信じていただけたということでいいのですよね」

「もちろんです! わたくしの命に懸けても、間違いありません!!」

「……では、今まで託宣を受けていたという人物。その何者かが僕ではないことも、ご理解いただけていますよね」

「っ……! は、はい……」


 アミリーの目がかすかに泳いだ。

 やはり口では僕を信じると言っても、そう簡単にこれまで信仰してきた誰かを捨てることはできないだろう。

 僕はそれに対して何を咎めることもなく、淡々と喉を鳴らした。


「縁を切れとは言いません。ただ、気を付けてください。あなた方が付き従ってきた人物が託宣を利用し、二度も罪なき町を襲わせたことは確かでしょう。今回僕と接触するようにと言われたことも、何か必ず意味があるはずです。僕が本物のフォルトであると貴女が気が付くことも見通していたかもしれません。何が目的かはわかりませんが、嫌な予感がするんです」

「……はい」


 元気のない返事が返ってきた。

 本当はもっと踏み込んだことが言いたいが、下手なことを言っても僕が本当に神であることを皆に悟られてしまう。

 今はとにかく、託宣を与えているという誰かに注意するようにだけ伝えられればそれでいい。

 先の口ぶりからして、次の託宣はそう遠くなさそうだし、これからの行動についても、その時に話を受けると思っていいだろう。


「まったく、ますます星降りの日が怪しくなってきましたね」

「! 次の託宣の日……です!」

「……やっぱりですか」

「………ム」

「スフィ?」

「なんでもないわよ」


 なぜか不機嫌そうにそっぽを向くスフィを置いといて、僕はちらりと時計に目を向けてから、再びアミリーに向かう。

 なんだかんだで、話し始めてから既に二時間以上が経過していた。


「アミリー。ひとまず今日はここまでにして、五日後――星降りの日の夜に、また来ていただけますか。おそらくそれまでは、目立った動きもないでしょう」

「それは……はい。わかりました」


 アミリーは何か決意を固めたかのように、両手でガッツポーズをしながら頭を頷かせた。

 そんな彼女にレイルさんとレイナさんがピクリと反応を示すが、今はおとなしく帰してあげようと僕が二人に告げ、なんとか事なきを得た。


 それからはまた意識を切り替えて、いつも通りお店の業務に移行していく。

 何はともあれ、次に動きがあるのは星降りの日。

 それまではできるだけ平常通りに、何事もなかったかのようにふるまうように心がけようと決めた。


 どうせ何もしようがないのだから、変に意識してしまうよりは、何が起こっても対処ができるように最低限の心構えをしておこうと。


 そして、僕の言いつけ通りにアミリーが姿を見せることもなく……あっという間に、五日後(その日)を迎えた。

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