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第93話 碧眼の少女 2

「……フォルト様……なのでしょうか」

「っ!?」


 いきなりの核心をついてくる発言に頭が付いていかなかった。

 数秒の間思考が停止してしまい、少女に何を言ったらいいのかわからなくなってしまう。


「ママ?」

「どうしたのー?」

「……! いえ。大丈夫です、はい」

「…………」


 娘たちの声でハッとして、なんとか正常な思考を取り戻す。

 フォルトという名が出てきたことで、後ろに立つレイナさんが警戒しているのが分かった。

 だが、この少女に悪意があるようには見えない。僕はレイナさんにちらりと目を向け、手は出さないようにという意を込めて首を横に振る。

 そして小さく深呼吸をした後、再び少女の方へ意識を向けた。


「ひとまずお店の中に。話はそこでしましょう」



 ◇



 謎の少女を招き入れるために店の扉を開けると、珍しく早起きしているレイルさんが箒を片手に窓の外を眺めていた。


「ん。おはようルティア、イル、ウル。それからレイナも、おつかれさん」

「「おっはー」」

「おはようございます。お掃除してくれていたんですね」

「ああ。なんか目が覚めちまって暇だったんでな。で、そっちの子は……」


 初めて目にする少女を前に、早速話を前に進めようとするレイルさん。

 僕は少女をソファに座らせると、急ぎ早に状況を伝えた。

 一応昨日出会ったアミリーの事も併せて伝え終えると、僕も少女の向かい側に腰かけて話を始める。


「さて、お待たせしました。まずお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「……?」


 少女の名前を聞こうとしたものの、当の本人は「どうしてそんなことを聞くの?」とでも言いたげに首をかしげている。


「あ、何か事情があって名乗れないとかでしたら、そのままでも大丈夫ですよ。では――」

「え?」

「え?」


 いざ先に進めようとすると、これまた疑問の目を向けてくる。

 なんだろう。

 微妙に話がかみ合っていないような気がしないでもない。

 それとも、僕とこの子は会ったことが、名前を聞いたことがあるのだろうか?


 考えられるのはやはり昨日のアミリーという少女だが……フードに隠れてよく顔が見えなかったし、種族も分からなかったが、そもそもあの子は銀髪だった。

 でも他に思い当たる節がない。


 思い切って聞いてみようか。

 そう思い始めたところで、少女が脇の髪に手を添え、視界に入るように持ち上げた。


「あっ!」

「…………」


 何かに気が付いたらしい少女と、それを見て眉を顰めるレイナさん。

 エルフの血を引く身として、何かを察したのだろう。彼女は続いてレイルさんを目を合わせた後、僕に目配せをしながら首を小さく縦に振る。


「あぁ、なるほど……」


 二人の反応から少し遅れて、僕も一つピンとくるものを思い出した。

 エルフの中でも特に潜在能力が高い者は、その力を隠すためにあることをする。

 魔力の受容体である髪の毛を、特殊な魔法によってカモフラージュするのだ。

 これの特徴として最たるものが、髪色が銀色に変貌すること。


 最も、フード等で頭を隠さなければすぐばれてしまうため、普段は集落の長を一目で分かるようにするために使われる。


 思った通り、少女が誰にも聞こえない程小声で術式を口ずさむと、彼女の鮮やかなライムグリーンの髪が、根元からシルバーに染まっていった。


「あの、これでわかりますか……?」

「ええ。まあ、昨日は顔がよく見えなかったので、髪と目の色でしか判断できませんでしたが……アミリーさん」

「呼び捨てで構いません。いえ、本当だったら、こうして面と向かってお話をさせていただくのもおこがましいくらい……」


 面と向かって話すことさえおこがましい。その言葉はきっと、僕がフォルトであるからなのだろう。

 昨日声をかけてきた時とは違い、やたら縮こまっているのもそのせいだと思われる。


「それでその……」

「僕が、かの大賢者フォルトなのですかって話ですね。既に何百年も昔の人ですし、普通はあり得ないと思うのですが……」

「でっ、でも! ……いえ。そう……ですよね……」


 でもの後が聞きたいんだけどなぁ。

 僕の方から踏み込むと、それはそれでYESと言っているようなものだし、できれば彼女の口から切り出してほしい。

 でもこの様子だとそれも難しい。

 あり得ないという僕の言葉に納得してしまった上でとなると、やはり僕の方から切り出すしか……でもなぁ。


 助けてスフィ。


「……ど、どうしましょう」

「どうしましょうって、面倒事は嫌いなんでしょ」

「それはそうなんですけどぉ」

「何故そう言ってきたのか、真意は知っておきたい。って?」

「……はい」

「まったく。無駄に責任感だけは高いわよね、メンドクサイ」

「は、ははは……」


 後々面倒なことにしたくないだけなのだが、言い返すのはやめておく。

 スフィが小さなため息をつきつつ、僕の方から飛び降りて向かいのアミリーへ走り寄る。

 彼女の注目を得るためだろうか。

 わざと肩に飛び乗ってみせると、そのまま踏み台にして背後のキャビネットに飛び移った。


 するとその直後。

 スフィを目で追っていたアミリーの視線は、キャビネットに回る寸前にピタリと止まる。

 キャビネットの左上――口を開き、大きく目を見開いた先にあったのは、ハンガーに架けられた僕のローブコートだ。


「そのローブは……!」


 僕がフォルトである唯一の証拠……ではあるが。

 伝わるだろうか?

 というか、スフィ的には伝えていいのか?

 最初のころ、レイルさんに正体を明かしたときでさえ文句を言っていたというのに。

 まあ、既に当時の身内にはバレバレだし、今更ではある。


 ってちょっと待て。

 なんで正体を明かす前提で話が進んでる!?

 僕が知りたいのはアミリーが口にしたことの真意であって、自己紹介がしたいわけじゃないんだが!?


 だいたい、あのローブコートだって偽物だって思われる可能性もある。

 第一声で僕をフォルトだと言ったことを思えばないのかもしれないが!

 事情だけ聞いてあしらうだけでも良かったのに、得体のしれない少女に身バレするだなんて、面倒くさいに決まってるじゃないか。

 ……ちょっと頭痛くなってきた。


「あー、えっと、そのローブコートはですね――」

「間違いない……わたくし達の神殿(・・・・・・・・)にあった……」

「――え?」

「「!!」」


 アミリーがその言葉を口にした瞬間、場の緊張感が一気に高まるのを感じた。

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