第86話 ティー ★
「僕が〝復活〟した……ですか?」
「ああ」
復活などと、ゴートたちと似たようなことを口にしだすグレィさんに、僕は無意識のうちに顔をしかめていた。
しかし彼らとグレィさんとでは言っている意味がまるで違う。
ゴートたちが僕を『復活させるため』に動いているのに対し、グレィさんは『復活した』と言っているのだ。
言い方からして転生のことまでは知られていないように思えるが、多少なりとも気になりはする。
詳しく話をする必要がありそうだ。
が……その前に、一つだけ言っておかなければならないことがあるだろう。
「先に言っておきますが、僕はアリアにあったという教団とは無関係ですよ。むしろ迷惑しているくらいで」
「そうなのか」
「……よかった」
真顔で納得したようなそぶりを見せるグレィに対し、ホッと胸をなでおろすレイナさん。
まあ僕が本物の神であった以上、信者である彼らが本当に無関係かというとそういう訳でもないのだが……それはそれだ。
「ていうか、お師匠はその辺説明してなかったんですか?」
「あーゴメン、ママを責めないであげて。私とパパが帰った後、一方的に問い詰めてここまで転移させてもらっちゃったから」
「……せっかちかよ」
「三百年も音沙汰無しだった兄さん、何か言った?」
「いえっ! なんでもありません」
「まぁまぁ。それよりも、フォル君にもちゃんと説明してあげて。どうしてここに来たのか、まだ言ってないでしょ?」
レイルさんを睨みつけるレイナさん。
そこにお師匠が割って入ると、そのままグレィさんに向けて目配せをする。
グレィさんはこれに小さく首を縦にふり、僕の目を見て話し始めた。
「今より半年ほど前だ。アリアで不穏な動きがあると耳にした我は、夫婦旅行と称して現地調査に乗り出した」
「ちょっとグレィ? それは初耳なんだけど……まあいいや。続けて」
「あっ!? す、すまない。気が付いているとばかり――ごほん。失礼した、続けよう」
「…………」
……ダメでしょ、それは。
僕らの視線が一気に呆れにも似た物に変わる。
しかし脱線ばかりしてもいられないと、グレィさんの咳払いに合わせて意識を切り替える努力をした。
「でだ、調査をしている中……我は神殿に祀られているローブコートを見て、フォルトの復活を知ったんだ」
「え?」
「それはどういう――!」
どういう事なのかと聞こうとした矢先、グレィさんはある場所を指さした。
僕らが座っているソファの真後ろ――ハンガーにかけられたローブコートの、ある一点。
左胸部分に取り付けられた、赤く光る宝石だ。
「――――!」
一瞬の間が開いた後、それが何を意味するのかを、僕を含めこの場にいる全員が理解することができた。
「そうか! あれは〝命の石〟か!」
「そうだ。命の石は持ち主の生命力を元に造られ、主の死後は真っ白な石ころに変わる。フォルトの石も同じく白く変わっていたはずなんだ。ところが半年前、どういう訳か輝きを取り戻した。教団が動きを見せ始めたのも、それとほぼ同時のようだった。〝我らが神が復活する。一刻も早くその時を迎えるために、恵の力を集めるのだ〟と」
「……なるほど」
間違いなく、僕が下界に転生したことが原因だ。
僕が僕という人格を維持したまま生まれ変わったが故……一度光を失った命の石が再び色を取り戻すなど、本来あり得ない。
あり得ないことに信仰という厄介な物が合わさってしまった結果、命の石の意味する所を教団の連中は勘違いしたのだろう。
僕がこの世に復活したのではなく、復活する兆しが現れたのだと。
ゴートたちが何故僕の復活を掲げるのかは疑問だったのだが、そう考えると納得がいった。
「それからしばらく調査を続けていって、先日のミシティアがきっかけで僕にたどり着いたと」
「少し違うが……まあそんなところだ。お前に非が無いのであれば問題は無い。押しかけてすまなかった」
「いえいえ! 僕としても、彼らの情報はひとつでも多くほしいですしありがたいですよ! 先ほども言いましたが、僕らは被害に……目を付けられていますから」
「何?」
教団に目を付けられている。
それを知ったグレィさんが、血相を変えるように僕を睨みつけた。
「奴ら、既にお前がフォルトだと特定しているのか!?」
「え? いや、そうではないと思うんですが! 僕にもよくわからなくて……」
「……そうか」
そうだ。
ゴートが何故僕にこだわるのかは未だ不明瞭なままだ。
ミシティアに行ったとき、祭壇の地下で何か言っていたような気はするが……あの時の事は正直よく覚えていない。
娘たちのことで頭がいっぱいいっぱいになっていて、それどころではなかったから。
ハッキリわかるのは、ゴートたちは未だ僕がフォルト本人だということには気が付いていないことだけだ。
グレィさんは少し考えるそぶりを見せた後、レイナさんと顔を合わせて何かの確認をする。
そして再び僕に目を向けると、一層真剣な様子で話を続けた。
「お前が無関係ならば我らで始末をつけようかと思っていたが、そうもいかないようなのでな……もう少し詳細な話をしよう。ここからは、我とレイナがこの一か月で得た情報だ」
「もう、パパったらそうやって……まあいいわ。えっとね、フォルト神を信仰する組織が過激化し始めた半年前。アリアに一人の少女が現れたの」
「……その少女の名はティー。今組織のトップに立っているという、エルフ族のシャーマンだ」




