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第85話 メイド喫茶の訪問者

漆黒のヴィランズが素晴らしすぎてイラスト間に合いませんでした。(正直)

 ミシティアの神祭から一か月。

 ファルムに帰って来た僕たちは、いつも通りの日常に戻っている。

 ただあれから一つ変わった事があるのだが……あの一件以来、イルとウルの口調が以前より流暢になっている気がする。


 元々覚えのいい双子のことだから、いつかはそうなるんじゃないかとは思っていたが、ミシティアで多くの人々を見て細かいイントネーション等を学んだのだろうか。もしかしたら、暴走したことも何か原因があったりするのか……真相は本人のみぞ知る。

 まあ、それで何かがあるわけでもないし、僕らとしてもコミュニケーションが取りやすくなることは嬉しい限りなので、素直に喜んでいる。


 あと、出る前にほとんどすっからかんだった『幸の盃』は、帰って来た時にはおよそ半分ほどまで溜まっていた。

 ミシティアの一件でそれほどに民衆から感謝されていると言うことなのだろうが、やはりというかなんというか、少々複雑な気持ちであることは否めない。

 なんとかなったとはいえ、今回の件では己の心の弱さというものを嫌というほど思い知らされた。

 そのあたりの反省も含め、今後はより一層気を付けていかねばと、気をあらためて日々の業務に身を投じている次第。


 で、そんな僕らが今何をやっているかと言うと……。


「おかえりなさいませ。ご主人様」

「「おかえりなさいませ」」


 ミシティア出発前、日程調整のため先送りにしていたメイド喫茶である。

 来ているのは僕と娘の三人だけで、スフィとレイルさんに店番を頼んでいる。


 決まり文句で客を迎え、空いている席へ案内していく。

 一連の動作もすっかり体になじんでしまっているのが……なんとも複雑というか、何をやっているんだという気にさせられる。

 オーダーを取りに行くのも、それをシェフでもある店主に伝えるのも、上がって来た料理をテーブルに運ぶのも……っと


「あ、イルは四番、ウルは七番テーブルよろしくね」

「「はーい」」


 ああ、本当に僕は何をしているんだろう。


 もっと優先するべき仕事はあるだろうに。

 以前レイルさんも店主も言っていたから、この喫茶店はもう安泰っぽいし……っといけない。


 考え出すと絶対良くないことが起こる。

 不満や文句の類は特にダメだ。迷信かもしれないが、そういった負の気というものは災いを呼び寄せるという。

 運勢値が低い僕のことだから、その類の話もバカにならないのだ。


 気を取り直し、ブンブンと首を横に振る。

 直後、扉に備えられていたベルの音が次の来客を知らせてきた。


「おかえりなさいませ。ご主人さ――ッ!?」

「ただいま。フォル君……じゃなくて、ルティアちゃん」

「お゛ッ、お師匠!? なんでここに……!」


 にっこり笑顔を浮かべて立っているお師匠。

 怖い。

 特にツッコむわけでもないのが余計に怖い。


「お店に行ったらいなかったからさ、レイ君に聞いたら今日はここだって教えてもらったんだ」

「なるほどレイルさんがですか……はぁ。まあいいです、席にご案内しますね」

「お、じゃーよろしく」


 いきなりの訪問でかなり驚いたが、遊びに来てもいいと言ったのは僕自身。

 この仕事だけは見られたくなかったが、これもまた致し方なし。

 一度店に戻って待ってもらおうかとも考えたが、それはそれで申し訳ない気がしなくもないので、普通に案内することにした。


 丁度空いたカウンター席に案内すると、紅茶を注文して隣に座っている人と世間話に打ち込んでいる様子だった。

 それから僕らの勤務時間が終わるまでのおおよそ三時間、お師匠は隣の人が入れ替わると、また新しく来た人と談笑していた。

 時折慌てふためいている様子を見せていたのだが、きっと告白でもされていたのだろう。

 なにせお師匠は、見た目は十代後半のスタイル抜群美少女エルフなのだから。


 そういえば、僕もこの仕事(『Lutia』)を始めたばかりの頃はそういったこともよくあった。

 冷やかしの半分くらいはそんな感じだった気がする……あれ、なんか気分が悪くなってきたぞ。


 やはりだめだ。

 気にしてはいけない。

 勤務を終え、店主から報酬金を受け取りながらそんなことを思っていた。

 そのせいで店主の話はあんまり聞いていなかったのだが、まあ問題は――


「じゃあ、また一月後によろしく!」

「ふぇっ!?」

「ん? だってさっきOKって」

「えっ! い、いえそれは…………はい……」


 ダメじゃないか!!

 ああもう!!


「お。終わった?」

「……お師匠。ええ、まぁ」

「「おばあちゃんだー!」」


 僕らが上がったのを見計らってか、お師匠がまたぬぬぬっとこちらへ駆け寄って来た。

 イルとウルは一週間半ぶりのおばあちゃんに大はしゃぎであるが、店の入り口に立っているため邪魔になると判断した僕は、店主に挨拶を済ませて娘たちやお師匠と共に早々に外へ出てくことにした。


「よーし、じゃあ聖女様のお店に帰ろうか!」

「ちょっと待ってくださいそれ何処で聞いたんですかお師匠あのちょっと?」

「隣の席に座った人みんな言ってたよ!」

「くそう!!!」


 今ものすごく後悔した。

 退屈しないようにと思って、お師匠をカウンター席に座らせたこと。それ以上に、僕の住所を教えてしまったことにに対して、ものすごく。

 ああもう、前世を知っている身内に知られたくないことが次々と暴露されていく……。


 この後も自分の店に帰るまで、僕は隣の席に座っていたどこの誰とも知れない人からのうわさ話を聞かされ続けたのだった。

 そして――――。



「はぁ……ただいま戻りました」

「ただいまー!――あれ?」

「だれー?」


 疲れた(主に帰りの噂話で)体で店の扉を開くと、そこにはスフィとレイルさんの他に、僕にとっては懐かしい顔が二人ソファに腰かけていた。


「おかえり。でいいのかな」

「待ちくたびれたわよーもぉ!」


 お師匠の旦那さんで、竜族のグラドーラン(通称グレィ)と、娘さんでレイルさんの妹にあたるレイナさんだ。


「お待たせしてすみません。えーっと……」

「え? え!? もしかしてアンタがあの……」

「フォルト……なのか」


 説明するより早かった。

 グレィさんとレイナさんは、僕の姿を見るや否や、僕のことをフォルトであると認識して口を開く。

 まあ、お師匠に正体がバレてしまった時点で、家族にはバレてしまう事は想定していたから、これはそこまでダメージにはならない。

 むしろその……二人の、特にレイナさんの、口をあんぐりとさせて「信じられない」とでも言いたげな表情の方がキツイ。


「ごめんねフォル君。ちょっと事情があって、二人にはフォル君の事話しちゃったんだ……って、そういえば驚かないね?」

「え? 何がです?」

「だって、いきなりのグレィとなっちゃんだよ?」

「いやまぁ、住所をお教えしてしまった時点で、お師匠だけが来るとは思っていませんから。その点は平気です。――それより、ご用件を伺いましょうか」

「ん……話が早いな。助かるが」


 真面目なトーンで話を持ち掛けた僕に、グレィさんは少し驚いたような顔を見せた。

 もう少しゆっくり話をしたかったのもあるだろうが、特別な要件があって来たのだとは知らない前提だったのだろう。


 僕は町に帰ってくる道すがら、グレィさんとレイナさんが何か行動を起こしているであろうことをレイルさんから聞いていた。

 といっても、レイルさんから聞いたのは、実家に転移したときに一か月空けると言って出て行ったらしいということだけだなのだが。


 一か月も、それも身内二人だけで秘密裏に起こすようなこととなると、何かがあると思ってしまうのも無理はないだろう?

 で、その二人がお師匠を引き連れてここに来た。

 ここまで考えてみれば、起こしていた行動の矛先が僕の元へ向かっているのだろうという想像もつく。

 嫌な予感と面倒事に傾くことを想定した想像なら、今の僕は的中させられる自信があるのだ。


 全ッ然自慢にならないし嬉しくも無い。


 グレィさんが立ち上がり、入口に立ったままの僕の元へ歩いてくる。

 すると彼は僕の手を取り、かなり真剣に目を見て言った。


「フォルト。お前が〝復活〟した件について、話したいことがある」

今章は大よそ週1~3回更新となりますのでご了承くださいませ。

更新告知はツイッター(@kannmuri0227n)にて行っておりますのでよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ

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