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第82話 いい知らせと――

 噂をすればなんとやら。

 後始末がひと段落したのか、ネリスとレイルさんが宿に戻って来たのだった。


「おかえりなさい。早かったですね」

「二人でいる間に粗方事情は説明したよ。そっちはどうだった?」

「ああ。それならいい知らせができそうだぜ」


 自慢げに胸を張るレイルさんだが、そんな彼を放って置いて、近場の椅子に腰かけたネリスが先に話し始めた。


 二人は僕らとは別行動で後始末――避難誘導をしていた兵士への事情の説明や、町長への報告、確認等をしてくれていた。

 戻ってくるのが早かったのは、魔物となった姉妹と戦っている様子や、消えていく様を遠目で見ていた人が多くいたこと、町長さんがえらく飲み込みが良かったことが大きかったらしい。

 このミシティアは世界中の人が集まる町。色々な文化や習慣が入り混じるこの地の長には、柔軟な思考を求められる。そういった町の長であるからこそ、レイルさんたちの話もすんなり受け入れてくれたのかもしれない。


 兵士が駐屯しているのなら早く駆けつけられなかったのかと思いもしたが、魔物出現後にお師匠が真っ先に動きを封じたこと、それから僕らが駆け付けて対処に当たったことによって、混乱した人々の避難誘導を優先しようという動きになったらしい。


 そしてその最中、町を走り回って僕を探していたネリスやレイルさんを目撃した人も多数おり、魔物に立ち向かっていった勇敢な人だと都合よく受け取ってくれたのだとか。

 事実であることに変わりはないが、もとはと言えば僕らが蒔いた種でもあるので心苦しいところもある。


 イルとウルの安全を考えればその方がありがたいのだが、町を救った英雄ともなれば後々面倒な事も起こりかねない。

 この話を聞いた僕は、お礼は必要最低限、それ以上は受け取らないでおこうという話をしておいた。

 最低限というのは、精々ゴートから徴収できなかった分の報酬額程度。全く受け取らないというのも、かえって変なウワサや疑惑が立ちかねないからだ。


「はぁ……でも、はい……結果オーライって感じですかね……」


 ひとまずは何とかなりそうだと分かったことで、肩の力が一気に抜けていく。

 一時は本当にどうなることかと思ったが、町も人も無事でよかった。


「おっと、安心するのもいいが、話はまだ終わってないよ~?」

「え、まだ何か?」

「おいネリス、それくらいオレの口から言ってもいいじゃないか――言ったろう? いい知らせができるって」

「はあ……」


 首をかしげる僕を見ながら、再び胸を張るレイルさん。

 そんなことしてるとまたとられるよ?


「明後日のお祭り最終日は例年通りやるってさ!」

「本当ですか!?」

「ちょっネリスぅぅ!!」


 案の定ネリスに先を越されたレイルさんを放置し、ネリスがもたらしたいい知らせに食いついていく。

 元々祭りを目当てで来たのだ。これを喜ばずしてどうするか!


「幸い町はほとんど無傷だから、これから町の兵士さんが総出で安全確認して間に合わせるって意気込んでたよ~」

「明日も明後日も、普通に行商人は来るからな。真っ先にそのあたりのチェックを済ませて、明日も許可が下りたところから出店を出してもいいってことになってる。流石に今日はもう刺し止めだが」

「ほ、ほえー……すっごいなぁ町長さん。私も手伝おっかなあ……知った顔だし」


 一秒でも早くいつも通りにと行動を始める町長に感心するお師匠。

 知った顔ということは、それなりの頻度でここに来ているのだろう。

 しかしそうなると、お師匠とはもうお別れになるか。町中のチェックともなるとかなりの重労働だろうし……一応明後日は会えるかもしれないけど。


 思わぬところで、実に七百年ぶりの再会。

 ついさっきまではごたごたしていたせいもあって余裕がなかったが、いざ別れの時が近づいてくるとなると、もう少しプライベートの話もしたいという欲が出てきてしまう。


「お師匠、それなら今のうちに……」

「ん、何?」


 僕はベッドから腰を上げると、部屋の隅に置いてある革袋からメモ帳を取り出した。

 それからドレッサーに置いてあったペンを手に取ると、僕の住所をつらつらと書き記し、そのページを千切ってお師匠へと手渡す。


「久しぶりにお会いしたら、もっと話したいと思ってしまいまして……たまに気が向いた時にでも、遊びに来てください。どうせ暇でしょう?」

「ぬっ、暇とは失礼な。暇だけど」


 少し顔をムスッとさせるお師匠だが、メモを受け取った時の表情はどこか嬉しそうで、僕自身も頬が緩んでしまった。

 すると今度はお師匠が立ち上がり、レイルさんの前に立って声をかける。


「な、なんだよ……」

「レイ君。たまには元気な顔を見せてね」

「それは、ああ……もう、大丈夫だから。前を向くって決めたから、この町に来たわけだしな」

「……そっか」


 前を向くために来た……というのは僕は初耳だが、雰囲気からして手を出すべきではないと思い、ただ聞いておくことにした。

 何やら結構傷口が深そうな話のような気がするし、本人の口から聞くまではそっとしておくべきだと判断したのだ。


「それはさておき、一緒にいるからってフォル君に手出しちゃだめだからね! OK!?」

「「ブッ!?」」


 ちょっとしんみりした話をしたかと思ったら、急にぶっこんできた爆弾に僕とレイルさんが合わせて吹きだしてしまう。

 この様子を見てくすくす笑っているスフィは後でモフるとして、ネリスの前でフォル君はやめてほしいかな!?


「お、お師匠! その、ネリスは知りませんから、フォル君は……」


 咄嗟に耳打ちしてこのことを知らせると、お師匠は両手で口を押えてゴメンと言ってきた。

 これに関しては僕も油断をしていたというか、先に言っておくべきだったので、こちらこそと小さく返しておく。


「フォルくん? ってかルティアちゃん、さっきからエルナさんの事お師匠って」

「なんでもないですよ! はい!」

「ホホゥ、何か隠し事ですかなぁ~? あとでみっちりと……」

「本当になんでもないですからあ!!」

「……やっぱりゴメンね?」


 お師匠自身はちょっとしたジョークのつもりだったのだろうが、思わぬところで災難が降り懸かった僕なのであった。




 ◇




 フォルタリア(アリア)から南に約三百キロメートル。

 深く続いている森の中に、野営をしている二人の影があった。


「……どうだった?」


 膝上まではあろうかという長い髪を携えた長耳の少女が、たった今野営地に戻ってきた長身の金髪男性に問いかける。

 男性は小さく首を横に振り、少女への返答を行った。


「やはり無関係だ。あそこの住人は、勝手に崇拝して勝手に間違いを犯していたに過ぎない。ただ……」

「ただ?」


 何かあったのかと顔をあげる少女に、男性は表情を曇らせ、どこか言いたくないような雰囲気を醸し出している。

 しかし少し顔をそらした後、少女の目を見直して口を開いた。


「我の見間違いであればそれに越したことはない。だが、あれは……確かに、あの二人だった」

「な、なによもったいぶって……誰だったの? パパ」

「母さん――エルナと、レイルだった」

「っ!?」


 彼の口から発せられたのは、二人にとって絶対にあり得ないと思うものだった。

 三百年前に失踪したはずのレイルと、母親であるエルナが行動を共にしている。

 それだけでもあり得ないというのに、フォルタリアで目撃したというのは、本当に信じられない出来事だった。


 この二人……男性の名はグレィ、少女の名はレイナという。

 レイナもまたエルナの娘であり、レイルの妹に当たる人物である。そしてエルナの夫であり、レイルとレイナの父親であるのが彼、グレィだ。


 二人の間にはしばしの間沈黙が続き、ただひたすらに、状況を飲み込むことで精いっぱいとなっている。



 フォルタリアが滅ぶ原因となったのは、この二人が訪れたことによるものだった。

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