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第61話 それぞれの旅路

「あの姉妹を狙った理由か。手紙を送った夜のこと……で、よろしいのかな」

「そうよ」

「ワタシが反対派だと見抜かれぬためには、あの二人に一度手を出す必要があった。これは本当のことだ。ではなぜあの二人だったのか、あの姉妹である必要があったのか。ということだね」


 初めこそ驚いてはいたものの、ゴートはすぐに平常心を取り戻し、どの時期の、どんな理由であるかを特定する。

 これはゴートが姉妹を追わせていたことについて、ネリスがどこまで知っているのかを把握するために必要な事だった。

 もしあの夜以前のことを知っていたのだとしたら、ここで素直に肯定はせず、もっと前のことからだと言うだろう。

 しかし素直に、特に含みがある様子もなく首を縦にふった。

 これによって、ゴートは返答に際する言葉を選択できた。


「あの姉妹は我々にとって有用な個体なんだ。だから狙わせてもらった。どうだい? シンプルな理由だろう」

「有用って、一体どういう――」

「おっと。そこに関しては伏せさせてくれたまえ。我々はあくまで一時的な共闘関係であることを忘れてはいけない」

「っ……」


 一時的共闘関係、利害の一致でのみ手を組んでいる両者は、あくまで表面上はフェアな状態であることが望まれる。

 踏み込みすぎることは、一方的にどちらかを害する行為となり、公平な取引という名目が成り立たなくなってしまうのだ。


 実際、ゴートは譲歩した方だろう。

 イルとウルが彼らにとって有用であるという情報だけでも、ネリスやルティアたちからしてみれば重要なものだ。仮に再び攫おうとしたとしても、その情報一つで難易度は雲泥の差となる。これはゴートからしてみれば損害でしかないのだ。

 そのさらに先を見込んで来ようとするのは行き過ぎだと言われても仕方がない。


 もっとも、肝心な有用部分の中身をはぐらかされてしまったネリスとしては、してやられたという気の方が大きいだろう。

 有用であると言っても、一体それが何を意味するのかが解らなければ、付け入られる隙は出てきてしまうもの。

 探り合いで有利に出たはずが、言葉選びで一歩及ばなかったのだ。

 ゴートの言葉の意味する所を理解したネリスは、苦い顔をしながらも大人しく槍を収めざるを得なかった。


「あ~あ、わたしやっぱ貴方のこと嫌いだ」

「フフフ。いつ何時も、ワタシのような人間は嫌われるものさ。レディにそのような顔をさせてしまうのは、紳士として心苦しいところではあるがね」

「むぅ。エセ紳士のくせに」


 つい先ほどまでの憤りはどこへ行ってしまったのかと言いたいほどに、可愛らしくぷっくりと頬を膨らませるネリス。

 ゴートも彼女に合わせて会話を成立させることで、場の雰囲気は嘘のように……ネリスが手を上げる前の空間に元通りとなっていた。



 ◇



 一方その頃――レラの町から南におよそ五十キロメートル。

 レイルは一つ山を越えた先にある港町を訪れていた。


「ちょっとあんた、こんなところまで来て何するつもり?」

「相変わらず名前では読んでくれねえのな……ちょっくらショートカットってやつだ。船に乗るぞ」


 スフィの質問に対して、レイルは港に停泊している帆船を指さしてそう答える。


「イヤよ。潮風は毛がべたつくもの」

「まあまあそう言うなって。ルティアに頼まれ事されてんだろ? つきあってくれよ」

「……チッ」


 大きく顔を歪ませ、その表情に影を落とし、本気の舌打ちをしてみせるスフィ。

 しかしながら逃げようとはせず、おとなしくレイルの傍らを歩いていく。

 あくまでもルティアのサポートとしての役目は果たそうとする彼女の姿を目にして、レイルは気持ち頬が緩んでいるようだった。


「ここから三日かけて南東の岸へ渡る。そこから一日くらい歩いたところにちょっとした知り合いがいてな。オレのお袋の師匠にあたる人なんだが――」

「あーはいはいそういうのいいから」


 年寄りの話は長い上につまらない。

 それをわかっているスフィは、レイルの話そうとしていたあれやこれやをすっぱりと切り捨てると、彼女自身が気にしていることへ話題を切り替える。


「それよりも、そんなにちんたらしてて間に合うワケ? それ、移動で半分持ってからてるじゃないの」


 ルティアたちよりも三日早く出たものの、その三日は既に使い切ってしまった。

 彼女らがミシティアにたどり着くまでの一週間、そして襲撃作戦が決行されるまで更に半週間。

 それまでにやるべきことを終えなければならない二人にとって、四日間を移動にとられることの意味は大きかった。


「心配するなって、つーかその話をしようとしてたんだが……まあいいや」

「何よそれ! 私のせいってワケ!?」

「そうは言ってないだろう……言うなれば、ひとっ飛びってやつだな」

「転移ってことかしら」

「……あんまり人前で言うんじゃねえよ」

「は? 知らないわよ、下界の常識なんて」


 転移――テレポートと名付けられた魔法に区分する術は、約一千年前に世界的に広まったことがある。

 かなり難易度の高い術であったため使える人は少なかったものの、それを商売に利用しようとした結果、運送関係に従事する多くの人々が損害を被る結果となった。

 その後は彼らによる大規模な暴動が起こり、転移(テレポート)という魔法は禁術へと区分され、使用者は重く罰せられることとなったのだ。


 もはや魔法という異能自体が絶滅同然ではあるが、禁術は禁術。人々が往来するような場所で発していい言葉ではない。


「ま、そういうことなら話が早いわ。さっさとその知り合いとやらのところへ向かいましょ」

「……ああ。そうだな、そうしよう」


 目指すべき場所が分かった途端に前を進んでいくスフィに、レイルはやれやれと肩をすくめる。

 それから一拍の呼吸を挟んだ後、力強く足を踏み出した。



 ◇


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