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第57話 調整日

 大樹前での話を切り上げた後、僕は自分の部屋で依頼内容と経緯をまとめていた。


 ゴートの所属する組織――仮にフォルト教団としよう。

 フォルト教団は五カ月前、ドラゴンを触媒にしたゴーレムを用いてファルムを襲撃。しかし宣言通り滅ぼすことはできず、作戦は失敗に終わった。

 その後、次の襲撃地点が定まらないまま五カ月が経過。ようやく表れた候補は、彼らがあがめる神に深く関わりのある土地だった。

 その地を襲う事は、本来ならば神に対する冒涜にも等しい行為となる。しかし余裕がなくなっていた教団は、目先の結果のみを求めて襲撃を計画。

 これを阻止するため、ゴートは数少ない冷静な者たちを集めて僕に依頼をした。

 依頼内容は、ミシティアの神祭最終日に行われる襲撃から町を守ることだ。


「できれば事前に策を講じておきたいところですが……そうなると、予定をもう少し前倒しする必要が……」


 祭りの最終日まではあと二週間半。

 アルベント王国までは一週間弱の旅路になるため、当初の出発日もそれに合わせていた。

 準備の時間も用意してあるものの、それだけでは時間が足りないだろう。

 それに襲撃を防ぐということは、ミシティア周囲の地形を把握しておく必要もある。

 湖の畔であることは変わらないだろうが、僕の知識は七百年前で止まっている。レイルさんやネリスなら僕より新しい情報を持っているかもしれないものの、百聞は一見に如かず。一度自分の目で確かめておきたいのだ。

 そうなると、遅くても一週間半前には動きださなければ間に合わない。


「……難しいですね」

「んー……ママ?」

「むずかしぃ? だいじょうぶ?」


 先に寝てもらっていたはずのイルとウルが、僕の難しいという言葉に反応してきた。

 二人は心配そうな目で僕を見つめてくる。……そういえば、ここ数日は二人と一緒に就寝していなかった。

 もしかしたら、また根詰めて死にかけるようなことをしているのではないかと、そう思わせてしまっているのかもしれない。

 僕はベッドに座り込む二人の元へ行くと、視線を合わせるためにしゃがんでみせる。


「心配はいりませんよ。僕ももうすぐ寝ますから、待っていてくれますか?」

「ん。わかった」

「いっしょにねる!」

「はい。一緒です」


 一緒に寝る約束をして、二人の頭を撫でてあげる。

 すると二人ともとても無邪気で可愛らしい笑顔を見せてくれるもので、僕も思わず頬がにやけてしまった。

 元気を分けてもらった僕は、再び卓上に向き会いスケジュール表に目を向ける。


「この際です。頭を下げることは前提でいくしかないですね」


 心苦しい選択ではあるものの、今回ばかりは緊急事態だ。

 本当はもう何日かは依頼を受け付ける予定でいたが、明日の午前中で締め切り。また今受けている物でも、いくつか優先度の低い依頼は後に回させてもらうか、遅い時間でも平気かを聞いて回る。


「目下は、あの喫茶店ですかね……よし」


 三十分ほどかけて整理をした後、待たせていた二人と共に眠りについた。



 ◇



 翌日は朝からレイルさんに休業告知を更新に出てもらい、僕は午前中の間に報酬として支払ってもらう金額を算出。

 往復、五人分の旅費で三十万、プラスして依頼費を二十万の計五十万。

 前金として支払ってもらうのは、まず依頼費の方だ。


 本来……というかギルドで依頼したらこの何倍かはくだらないだろうが、元々頼まれなくても止めていたであろうことや、依頼者側の経済環境を鑑みての格安価格だ。

 まあ、危険依頼をこの額で請け負ってしまうというのは、これでできてしまうという前例を作ってしまうことにもなるため、あまり褒められたことではない。がしかし、本当ならこういった依頼は国や町がらみで巨額の支出があってこそ。特例中の特例ということで許してほしい。


 その後は午後の依頼先に向かう前に喫茶店へ赴き、依頼延期の相談だ。

 メイド喫茶で有名になってしまった件の喫茶店……果たして素直に頷いてくれるだろうか。


「ああ、いいっすよ」

「……あれ? いいんですか?」


 片目を髪で隠しているのが特徴的な若い店主から返って来たのは、思いもよらぬ即答だった。いやまあ、こちらとしてはありがたいんだけど……てっきり絶対嫌だとか言ってくるものかと思っていた。

 この喫茶店は店内の他に、テラスで青空を仰ぎながらティータイムを楽しむことができるのだが、ここに赴いている僕ら――イルとウル、そしてスフィの三人と一匹の他には一人しか客がいない。

 一刻も早くメイド喫茶を開きたいのではないかと思っていたのが……意外だ。


「大丈夫っす。今はこんながらんどうっすけど、もうちっとしたら満員っすから!」

「えっ」

「冗談でしょ?」


 信じられない。

 そんな疑いの目を向けずにはいられなかった。


「いやぁ~、ルティアさんのおかげで知名度も右肩上がりでっして! ほら、この辺りは被害も大きかったじゃないっすか。元々居住区じゃないのもあって人は少ないんすけど、メイド喫茶で儲けた分を飯の方に当ててみたら、工事連中がランチタイムにこぞって来てくれるようになったんっすよ」

「へー……そうだったんですか」

「ですかー」

「かー」


 ならもうメイド喫茶やらなくていいじゃん。

 そう言いたくなるのを我慢しつつも、僕たち三人の口からはそっけない言葉が漏れ出ていた。

 いいことではあるのだが、なんとなく微妙な気分である。


「そんなワケなんで! 皆さん帰ってきてからで大丈夫っす! アルベント王国でも聖女ルティアの名を広めてきて下せえっす! 応援してるっす!」

「い、いやそういう訳では……はぁ。まあいいです、応じてくださってありがとうございます」

「ありがと」

「ありがとーございます」


 ぺこりと頭を下げる姉妹が可愛い。

 肩に乗っているスフィからため息のような何かが聞こえてきた気がするが、僕も気を取り直して一礼を挟み、その場を後にする。

 続いて午後の依頼へと向かおうとしたところで、汗だくの男集団と何回かすれ違ったのだが……極力目を合わせないようにしておいた。

 僕は何も見ていない。


 午後の依頼は、魔道具と呼ばれる魔術を内包した便利道具の開発支援。

 僕が魔術をそれなりに使えることも知れているため、たまにこういった本当に重要な依頼も舞い込んでくるのだ。

 といっても、僕がするのは試運転とそれに対する意見程度なのだが。

 この仕事も滞りなく終わらせると、別行動していたレイルさんと合流して町中の掲示板チェックだ。

 休業の告知をちゃんと更新できているか確認して回り、帰った時にはもう午後も六時半を回っていた。


 そして何故か店内でお茶を淹れて待ってくれていたネリスに迎えられ、一息ついたころ――コン。コン。コン。コン。と、規則正しいノック音が店内に響いた。


「来ましたか……どうぞ」

「ウム。失礼するよ」


 七時ピッタリ。

 約束通りの時間に、ゴートが店にやってきた。


「お掛け下さい。昨日の続き……前金の話からいきましょうか」

「ああ。それもなのだが、件の依頼に際して、一つ質問をさせてはくれないかね」

「?」

「なんでしょう?」


「〝フォルタリア〟……という町を、君たちはご存知かな」

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