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第56話 紳士的依頼主

 レイルさんは約束通りお昼ごろに戻ってきて、僕らに答えを聞かせてくれた。

 その結果、手紙に書いてある通りゴートに会う。

 ただし、怪しげな様子を見せれば交渉の余地はない。ミシティアのことは気になるが、その時は僕たちだけで何とかするという方針で固まった。


 その後は予定通りに請け負っていた依頼をこなし、帰ってきてから再度スケジュールの調整を行う。

 昨日はイルとウルから目を離した結果大変な事になりかけたので、今日は一緒に部屋に戻ってからの作業だった。


 そうしてあっという間に三日は過ぎ去って行き――――約束の夜。

 ファルム北東部・大樹前。

 付いてくると言って聞かなかったネリスを加え、僕ら五人と一匹が到着した時、ゴートは一人でそこに立っていた。


「まずは感謝を。諸君、来てくれてありがとう。そしてすまなかった。手紙を届けた際の誘拐未遂――彼をけしかけたのは、カモフラージュのためだったのだ」

「カモフラージュ?」

「然り。ワタシの仲間を欺くためのね。幸運値の高い二人を攫うという行為は、それにもってこいだったのだ」


 僕の疑問にそう答えると、ゴートは僕の隣に立つイルとウルの元へ歩み寄り、頭を深く下げて謝罪の意を示した。


「怖い思いをさせてしまったね。本当に申し訳ない……作戦成功の暁には、依頼料に加えて、彼女たちの願いを聞かせていただきたい」


 あまりにも紳士的な、筋の通っている言葉だった。

 そういうキャラなのだと思えばその通りではあるのだが、ゴートがこれをしていると思うと不気味さがぬぐえない。

 容赦なく不意打ち紛いの夜襲を仕掛けてきた男が、本当の不意打ちとなるとこうも素直に頭を下げるのか。

 先日の引き際も相まって、僕たちの間に緊張感が高まっていく。


「……それはまた全部終わった後だ。それで、詳しい話を聞かせてもらおうじゃねえか」

「ああ。そうだね、ことは一刻を争う。お言葉に甘えて、本題に入らせていただこう」


 ゴートが頭を上げると、少し後退してからあらためて大樹の前に立ちなおす。

 次に僕らの顔ぶれに目を向けると、一番右端に立っていたネリスのところで眉を顰めた。


「フム。一人多いようだが……ミス・ネリス。貴女も、彼の店のスタッフであるのかな」

「心配しなくても、外に漏らしたりしないよ。ルティアちゃんに出店を促したのも、ルティアちゃんを引き抜いたのもわたしなんだ。監督役みたいなものだから、無関係じゃないだろう?」

「フム……まあいい。夜分に女性を一人で返すわけにもいかない。話を進めよう」


 ゴートはネリスが残ることに合意すると、少し間をおいてから再度口を開いた。


「手紙でも記した通り、我々の組織は三週間後……もう二週間半になるかな。このファルムより遥か東方の地、アルベント王国の都ミシティアを襲撃する。諸君には、これを阻止することに協力していただきたい」

「それだ。なんでお前がミシティア襲撃に反対するんだよ」


 レイルさんが一歩足を踏み出し、真っ先に疑問を投げつけた。


「落ち着きたまえ――と、言うのは無理な話か。ワタシがこの作戦に反対するのはね、この襲撃は神に反すると、そう考えているからなのだよ」

「何……?」

「その地は我らの信仰する神にゆかりのある土地。それはつまり、神のご加護が深く根付いている土地でもあると考えられる。復活なされた時にその土地が荒れ果てていては、神に対する冒涜、裏切りだ。例え我々の標的となりうる場所であっても、ワタシはこれを許容できない」


 正直な話、聞いていてかなり複雑な気分だ。

 だってゴートの言う神は僕なわけで、そんな傍迷惑な狂信者が冒涜だの裏切りだの……僕はこれにどう反応したらいいんだろう。

 いや、反応しない方がいいんだろうけど。

 というか、そもそもミシティアで崇められてる神は僕じゃないので、実際のところは検討違いだ。


 ……しかしまあ、言い分は理解できなくもない。

 確かにアルベント王国、そしてミシティアは僕にゆかりのある土地。特に幼少期~魔術を身につけるまでの間、それなりの時をこの国で暮らしていたこともある。

 出身は違うのだが、第二の故郷と呼べる地でもあるのだ。

 そこを滅ぼそうと言うのだから、罰当たりというのも頷ける話。


 だが……


「でも、それなら何故他の方々は襲撃を決行しようとするんですか。ありのままを話せば止められるんじゃないですか。……そもそも、計画が立つ段階で気が付きますよね」


 彼らが僕を信仰しているなら、まず気付かない方がおかしい。

 僕の生前のフルネーム、フォルト・L・『ミシティア』だよ?

 まあ、僕がミシティアを名乗っていたのにはちょっとした訳があるんだけど。


「そこだよルティア君。彼らは彼の地が神に関わっていることを承知で計画を立て、決行しようとしているのだ」

「何その罰当たりな信者! それもう信者じゃないよね!」


 ツッコミを入れるネリスは腕を組み、頬を膨らませてご立腹のようだった。

 本当に怒っているという訳ではなさそうだが……や、半分は本気だろうか?

 微かに殺気が漏れ出ているような気がしなくもない。


「言う通りだよ。しかしこれにもワケがある……我々はファルム襲撃の失敗を受け、次の標的の出現を待っていた。しかし我々の目的を達しうる町が現れぬまま時は過ぎ、早五カ月――――ついに現れたのが、あのミシティアであったのだ」

「それは信仰する神にまつわる土地で、本来ならば犯してはならない場所だった。でもこれを逃せば次がいつになるかもわからない。既に一度失敗している以上、ここで結果を残さなければ組織の存続さえも危うくなる――と、言ったところかな。資金の調達にも限界があるしね」


 ネリスの補足に対して、ゴートは深刻な表情を向けながら頷いた。


「恥ずかしながらその通りだ。自業自得と笑うかね」

「いいや、呆れるな」

「そうだね。正直拍子抜けって感じ」

「ふぁ~ぁ……私帰っていいかしら」


 容赦のない反応だが、僕も同意見だ。

 少し違うところは、呆れているのにプラスして、自分の信者たちなだけに情けないという気持ちがあるところだろうか。

 穴があったら入りたい。そうもいかないのは分かってるけども。

 ああ、なんというか……この尻拭いをさせられる感、すごく面倒臭い。


「ちなみにですが、反対派というのはゴートさん一人なんですか?」

「ああ、そうだった。組織の大半は切羽詰まっていてね、ワタシの側はそう多くはない。精々十人いるかいないかと言ったところだ。全体の一割弱と言えばわかりやすいかな」


 つまり百人の組織で十人が反対ということか。

 それなら確かに、外部への協力を仰ぎたくもなる。

 もう少し拮抗していれば共倒れも期待ができたのだろうが、これではそうもいかない。間違いなくミシティア襲撃は決行されてしまうだろう。

 まあ、腐っても自分の信者たちだから、共倒れされてもそれはそれで困るんだけど。


「……やるしかない、という感じですね」

「ルティアちゃん、本気?」

「どの道ミシティアは守らなければいけません。情報源が多いに越したことは無いですし……」

「受けていただけると取っていいのかな」


 若干引き気味のゴートの言葉に、僕は小さく首を縦にふった。


「ただし、条件はあります」

「……聞こう」

「ゴートさん、あなたは以前僕たちに敵だと宣言しました。それが覆らない――敵である以上、僕たちは貴方たちを百パーセント信用することはできません。ミシティア襲撃を止めるという共通の目的があってもです。依頼を受理するにあたって、ひとまずの信頼の証として、前金の支払いを要求します」


 僕個人としては、あまりこういった手を使うのは好きではない。

 しかしこうでもしなければ、敵と手を組むのは難しい。

 己の保身のためにも、こうせざるを得なかった。まあ、それでも向こうが裏切ってこない可能性はゼロじゃないのだが。

 何もしないよりは、確たる姿勢を示しておいた方がいい。


 ゴートは片手を顎まで持って行き、少々悩む様子をみせる。それから数秒ほど後、僕の提案に対する返答をする。


「了解した。どうにかしよう。報酬は言い値でいいと記していたが、どうするかな」

「旅費などの計算もありますから、そこはまた追々。まだ多少は時間もあるでしょう。明日の夜、同じ時間に僕の店へ来てください」

「……了解した。感謝するよ、ルティア君」


 

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