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第36話 足がかり

「…………あれ」


 見覚えのある天井。

 ギルド兼酒場の二階にある、僕の部屋の天井だ。


 未だ覚醒しきらない頭を押さえつつ、窓の外を見ようと上半身を起こす。

 視線を下へ向けてみると、崩壊した家屋や道端に転がる瓦礫が目に入り、昨日の襲撃が夢でなかったことを証明していた。

 同時に、自分が犯した間違いをも痛感させられる。


「……前を」

「んっふ……おはよぉ」

「あ、おはようござ――――うぇ!? 痛っ」


 びっくりしてからだが跳ね上がり、そのまま壁に激突する。

 すぐ右隣でおはようとか聞こえたから、つい返事をしてしまった。


 これは一体どういう訳なのか、ネリスが僕の隣で寝ていたのだ。

 ていうかレイルさんもいる。しかも床に大の字になって寝ている。

 寝起きの頭には大分情報過多な状況をつきつけられ、僕の頭には複数の疑問符が浮かび上がってしまった。


「ルティアちゃんおはよぉ」

「お、おはようございます……えっと、これは?」

「んー?」


 目をこすり、大きなあくびをするネリス。

 うーん、可愛いが答えられるか心配だ。


「あー……ほらー、三階壊れちゃったからさぁ、ルティアちゃん外でねちゃったしぃ、もう運ぶついでに一緒に寝ちゃえーって~」

「……なんか、すみません。ありがとうございます」

「安らかな寝顔が可愛かったデス」

「うん、その情報は要らないです」


 いいもの見せてもらったてきなダブルピースをやめなさい。

 寝ぼけた顔でするのはアホっぽく見えるし、ギルドマスター感ゼロだ。

 なんというか、とてもだらしがない。


「ふあぁ~……はぁ。よかった」

「?」

「いつものルティアちゃんだ~って、安心した」

「それは……はい。ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です」

「ほんとだよ~! これからは、ちゃーんと相談してね」

「はい」


 先ほどのアホっぽさが抜けきらないのがイマイチ威厳に欠けるが、こういう時は本音が出てきやすい。きっと、本当に心配してくれていたんだろう。

 僕はネリスの心からの言葉にしっかりと頷き、返事を返した。


「それで何ですが、ネリス……三階が壊れてしまったと言うことは、執務室も……ですよね」

「ん……そうだ…………ね――――」

「あ……」

「………………………………」


 うーん、言わない方が良かっただろうか。

 執務室という単語を聞いた途端にネリスの顔がドンドン青ざめていく。

 完全に意識が覚醒するとともに現実に帰り、向き合わなければならない現実に直面した顔だ。

 これはうん……大事な書類とか諸々あったんだろう。

 大事なあれやこれやが、昨日のアレで……心中お察しします。


「ルティアちゃん……わたしは用事があるからこれで……じゃぁね……はぁぁ……」

「は、はい……」


 目の焦点が合っていない。まさに魂此処に在らずといった状態のネリスは、とぼとぼと僕の部屋を後にした。


「これは、なんか……本当にごめんなさい」

「――んっ。朝か?」


 本当に申し訳ないと思いつつネリスを見送った直後だった。

 今度は床に寝ていたレイルさんがむくりと起き上がる。

 僕やネリスと違い、起床時の動作がキレッキレである。彼には寝起きという現象がないのではないだろうかと思うほどに。


「おはようございます。昨日はありがとうございました」

「おう。……と、あれ。スフィは」

「え? そういえばいないですね」


 ベッドの上に座ったまま首を動かし、部屋全体を確認してみるが、あの白いもふもふの姿がどこにもない。

 ネリスが僕の隣にいたから、もしかしたらどこかに隠れているのかもしれない。

 そう思い立ち、ベッドから降りようとした直後。


「ここよ」


 ベッドの下からひょっこりと顔を出す神獣さんが一匹。

 まあ、ベッドの上にはネリスがいたし、床はレイルさんが占領していた。確かに二人を避けようとしたら場所は限られてくるのかもしれないが……そこまでするか。


「……いい加減慣れません?」

「噛むわよ」

「ごめんなさい」


 割と痛いので勘弁してほしい。

 鋭い目つきで睨みつけてくるスフィに心からの謝罪を手短に済ませると、スフィはベッドの上に座る僕の膝の上に登ってくる。


「まったく。そんなことより、アンタたちは知りたいことがあるはずでしょ」

「知りたいこと? ……っ! そうだった! フォルト神がどうとかって言ってたよな!?」


 スフィの言葉を聞き、レイルさんがベッドを掴みにかかるほど飛びついてきた。

 少し言い方が悪いかもしれないが、ネリスがいなくなったことでようやくその話に踏み込むことができるというわけだ。


「がっつかないでちょうだい。わたしだって全部わかったわけじゃないんだから」

「……すまん」

「更に言っておくけど、これも憶測の域を出ない話よ。あまり鵜呑みにはしないでよね」

「ああ、わかった」

「おねがいします」


 あくまでも憶測。そうであるかもしれないという仮定の話。

 この注意を聞き入れ、言葉と共に頷いて返すと、スフィはかなり真剣な表情で口を開く。


「あいつらが言うには、この町を襲ったのは今世界で一番栄えているから。それから最後、これが一番大事よ。町を出て行く前にあのエセ紳士『全てはフォルト神復活のため』って言ったの」

「ッ!?」

「おいおいおい、そりゃ一体……いや、そうか……それで……」

「レイルさん?」


 昨日スフィが言っていたことと、いま始めて聞くことになった『フォルト神復活』。この二つを手掛かりに、レイルさんが何かを理解したようだった。

 僕が視線をスフィからレイルさんに映すと、スフィも「言ってみなさい」と続く。


「ああ。神としてのフォルトは、生前に成した事柄に基づいて恵みの神とされてるんだ。それを復活させるってんだから、ゴートのヤロウはフォルトが死んだと思ってるってことだろう? 恵みの神を復活させるんだから、それにはより多くの恵みの力が必要になる。栄えている町を滅ぼして、町に宿る力を回収している……とか、そんな感じじゃないのか」

「……ツッコミどころはあるけれど、そんなところね。及第点をあげる」

「…………」


 レイルさんが言っていた話を想像するだけで、体中を悪寒が走り抜けていくようだった。

 おそらくスフィが言うツッコミどころとは、レイルさんが神としての僕を知らないことに対してだろう。スフィも僕が本当に神であることは隠し通すつもりのようなので、これくらいの差異は仕方がない。むしろスフィが認めたということは、それを差し引けば限りなく満点に近い内容だったのだろう。


 となると……僕ももう一押し、出せる情報を出してしまったほうがよさそうだ。

 ややこしくなりそうだからと今まで伏せていたが、これは重要な手掛かりになる。


「逃げ出したとき……森でゴートに会ったんです」

「何!? 本当か!?」

「はい。彼は言っていました。世界中の人を幸福にするために、その一環としてファルムを滅ぼすんだと。矛盾している発言だと思いましたが、なるほど確かに……そう考えれば、結果的にはそうなるのでしょうね……」

「……狂ってやがるな」

「そうよ、狂ってるの。ここまでいけば、もう敵が何なのか見えて来たんじゃないかしら。……正直、一番敵に回したくない人種のようだけれど」


 そんな狂気的で狂信的な集団はそうそうあるものではない。

 どうやら、今僕が考えていることと、スフィやレイルさんが思っていることは合致しているようだった。


「ヤツ――いえ、奴らの目的はフォルト神を復活させ、世界を幸福で満たすこと。その過程で人を不幸にすることをなんとも思わない旨の発言。その道を正しいと疑わない狂信的ともいえる思考。こんなの、考えられる団体はひとつしかないでしょ」


「……宗教。ですね」


「そういうこと。あなたを讃え、崇める信者達。それが敵の正体と考えられるわ」

次回で今章は終わりです。

やっと序章が終わる……!

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