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第28話 紳士的挨拶

 内装をどのようにするのかが決まった。

 そこで僕とレイルさんは、一枚の紙とペンを用意して、家具の選択や配置を一緒に考えることとなった。


 紙を床に置き、その中に部屋の形と家具の配置を書き込んでいく。

 部屋は手前の真ん中に扉があり、綺麗な長方形になっている。あとは奥手に二枚のガラス窓があるだけのシンプルな構造だ。

 広さとしては縦が7.5メートルで、横が4メートルくらい。

 なんでこんな大きな部屋が空いているのかは些か気になるところだが、今はまあおいておこう。


 応接室と言っても、僕とレイルさんしか対応できる人がいないので、用意する椅子は二、三対、長めのテーブルを用意して、挟み込むような形にすればいいだろう。

 できればソファのような座り心地のいい物を用意できるとなお良しだ。

 それなら一対でもいい。

 あとは個人用のデスクをと思ったが、こちらは話し合った結果大きめのデスクを一つ用意して、奥の真ん中に配置。偉い人が座るような、威厳がある感じにしようということになった。

 ここまででもかなり具体的に内装がつかめてきたので、それからはインテリアなんかをどうするかと話し合いを始め――ようとしたところで、ふと現実に帰る瞬間があった。


「……ところでこれ、揃えるのにいくらかかるんでしょうか」

「うーん……知らん!」

「ですよねぇ」


 先が思いやられる。

 どこかに今は使ってないような、お誂え向きの物があったり……は、さすがにしないよなぁ。


「何々? 長テーブルにソファ、あとこのデスクは……なるほど! 中々それっぽいね~」

「はい。でもやっぱり資金面が――って、ふおおぉ!?」


 真上から聞こえるはずのない声が聞こえてきて、思わず変な声が出てしまった。

 座っていた体を跳ねさせ、くるりと背後を振り返ってみると、僕の反応に目をぱちくりさせているネリスがそこに立っていた。


「ネリス。起きたのか」

「うん。おはよう! ルティアちゃんが運んでくれたみたいで、悪かったね~」

「い、いえ。それより大丈夫なんですか?」


 隈はなくなっているようだが、まだ時間にして4時間経っているかどうか。

 睡眠不足は健康、そして成長の大敵。

 あまり無理はしてほしくないのだが……それは今更か。


「へーきへーき。それより内装の話っぽいよね。それならもう発注してあるから心配しなくても平気だよ」

「「……は?」」


 えっへん。と胸を張るネリス。

 僕とレイルは、そんなうまい話があっていいものかと顔を合わせ、ネリスを見やる。


「あれ? これも言ってなかったっけ。店を出す提案をしたのはわたしなんだから、最低限開店までのサポートをするのは当たり前じゃないか~! 備品を交換するついでにね、いくつか候補になる物を仕入れたんだ~。数日中に届くと思うよ~」

「い、いやでも……さすがに申し訳ないというかなんというか……」

「むう。じゃあその分はツケにしとくってことで!」

「はぁ……」


 めちゃくちゃ明るい顔してツケって言われても、それはそれで反応に困る。

 でもまあ、その方が気が楽でいい。

 というかあれだ、申し訳ないのもあるのだが、本当に心配しているはもっと別のベクトルなのだ。


 だって今の僕、幸運値マイナスだし。

 そんなうまい話が重なって、何か起こらないとは思えない。

 ……ああ、この数日でなんだか心が荒んでしまった気がする。


「となると、どうしましょう。物が来るまでは内装は何とも言えませんよね」

「ルティア、折角冒険者登録したんだろ? なら稼ぎにでも出ないか」

「それよりも大事なことがあるでしょ!!」

「……大事なこと、ですか?」


 なんだかやけに楽しそうな表情を見せるネリスだが、僕たちにはさっぱりわからない。

 何か開店に際する手続きで必要なことでもあるのだろうか。


「お店の名前! 決めなきゃでしょ~!!」

「……あー……」


 そういう感じの。


「名前か……オレにその手のセンスはない。任せよう」

「確かにレイルさんはダメそう。頭固い隠居ジジイだったしね~」

「そうだな。確かにオレは頭が固いからな」

「……む」


 渾身? の煽り文句をすんなり流され、ネリスはその頬をぷっくり膨らませる。

 文書を燃やされたことをまだ根に持っているのか、はたまたレイルさんのことが嫌いなだけなのか。

 せめてちゃんと会話をしてほしいところだが、世話になっている手前あまり強くも出られない。

 レイルさんが安易に乗らないところがせめてもの救いか。

 ここは下手に突っ込んだりせず、先に進めるのがいいだろう。


「僕もあまり経験はないですが、そうですね……お悩み相談室……みたいなのはなんか違いますし、なんでも屋? はピンとこないですよね……うーん。スフィはどうです?」

「は!? なんで私にまでふるわけ!」

「え? だってスフィも仲間じゃないですか」

「仲間ってあなた。私はあくまでイアナ様に命じられたからここにいるだけで……まあ、別にいいけど……」

「ちょろい」

「あんですって!?」

「なんでもないです!!」


 これは事故だ。不可抗力だ。つい流れで口に出てしまった。

 だからその可愛らしいけど恐ろしい犬歯をぎらつかせないでください。


「もう……そうね、『大賢者ルティアのお悩み相談ギルド』なんてどうかし――」

「絶対嫌です勘弁してくださいなんですかそれ恥さらしですかどう考えてもヤベー奴って思われるだけじゃないですか」

「何よその拒絶の仕方!! 人が折角考えてあげたっていうのに! ばか!!」


 真面目に黒歴史になるレベルの名前を提案してくるもんだから、まるでゴミを見るような目で拒否してしまった。

 スフィは僕をに馬鹿と残した後、部屋の隅でいじけてしまった。流石に言い過ぎただろうか……でも僕の気持ちも分かってほしい。

 新米でぺーぺーの冒険者が大賢者を名乗るだけでも恥ずかしいのに、そんなののお悩み相談ギルドとか誰が来ると言うのか。

 僕が笑いものにされるばかりか、下手をしたら冒険者ギルドの方にまで被害が及ぶぞ。

 だがしかし、そんな僕の心配とは裏腹に……。


「そうか? オレはいいと思うぞ」

「……え?」

「わたしも好き! 大物感あるよね!」

「ええ!?」


 レイルさんとネリスはもう、それはもうノリノリなのであった。

 これを聞いたスフィが機嫌を取り戻して戻ってくる始末だ。

 いやこれはマズイ。本気でマズイ。

 このままだと本当に『大賢者ルティアのお悩み相談ギルド』なんて看板を作る羽目になってしまう。


「ちょ、ちょっと待ってください! せめて大賢者は勘弁してください!」

「む? なぜだ? だってお前は――」

「レイルさんそれ以上は魔術喰らわせますよ!!」

「面白そうだけどな~! だってルティアちゃんは将来本当に大賢者にだってなれる才能が――」

「ネリスも冷静になってください! 僕はまだぺーぺーですから!!」


 レイルさんは昔の僕を知っているから余計に違和感がないのかもしれない。

 だがネリス、君はもうちょっと頭を回せ。回せるはずだろう。

 なぜ急におバカキャラみたいなことを言い出すんだ。


「はぁ、もうめんどくさい……」


 あんな恥ずかしい看板を背負いたくないと思いながらも、自分ではいい案が出てこない。そんな状況に感嘆のつぶやきが口からこぼれる。

 第一、大賢者などという肩書は僕には重すぎるのだ。

 それにふさわしい人はもっと別に……


 ――ドッガアアアア!!!


「「「!?」」」


 店の名前という本題から離れ、分不相応な称号への忌避の念が湧き上がってきたころ。

 大きな衝撃とともに、何か大きな破壊音が僕たち全員の耳に入った。


「何!? 外からだよね!!!」

「見に行くぞ!」


 音の大きさと衝撃からして、かなり近い距離で事が起こっているようだった。

 名前決めを一時中断し、僕たちは大急ぎでギルドの外まで走り出る。

 ギルド前の目抜き通りには瓦礫が散乱していて、路上には悲鳴をあげながら逃げ惑う人々の姿。

 すぐ近くの北門の方へ顔を向けてみると、門と周辺の建物が木っ端みじんに破壊されてしまっている。

 死者が出ていてもおかしくはない状態だった。


 何者かの襲撃……と考えるのが自然だが、一体だれが、どんな理由で?

 煙が上がる門を見上げ、突然すぎる展開に歯を食いしばる。

 ひとまずは状況の確認をしようと、僕たちが足を動かそうとしたその時、門の方向から大きな声が聞こえてきた。


「ファルムの諸君。ごきげんよう! 紳士的なワタシの名はゴート!! 手荒ですみませんが質問をさせていただこう!!」



「――先日、北の森で起こった火事。あれを止めてくれた少女(・・)はいるかな?」

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