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第24話 懐かしき人

「誰だと聞いている」

「あ! ごめんね。わたし、ファルムの冒険者ギルドマスター、ネリスだよ」


 小屋の中からの問いかけに、ネリスが大きめの声で返答する。

 僕はこの声を確かに知っていると思うのだが、うーん……誰だろう?

 転生してから出会った人物ではない。そこは間違いないはずだ。

 となるとその前、幸運と幸福の神として活動していた数百年の間か、はたまたそれよりも前なのか。

 神になる前だとそれこそかなりの長命種になる。もしかしたら千歳をこえているかもしれない。

 でもそんなアホみたいに長息な種族、素では竜族しかありえないのだが……僕の知り合いの竜族でもない気がする。

 誰だ?


「ネリスだと? バカを言うな。あれはまだ赤ん坊だった。ギルドマスターなど信じられるものか」

「いつの話してるのさー!! 確かに物心ついてから会ったことはないけど!」

「「ないのかよ!」」


 思わずツッコんじゃったじゃないか!

 会ったことないんかい!!


 僕とスフィのコンビネーション抜群なツッコミが炸裂すると、ネリスがこちらを振り向き、テヘっと舌を出しながら照れ笑いをしてみせた。

 テヘじゃない。テヘじゃ。


「手紙、届いてたでしょー? 届いてたよねー! ねー!」

「ん……そういえば何か来ていた気はするな。火にくべたが」

「くべるなー!! 出て来なさーい!!」


「だ、大丈夫なんですかこれ……」

「さあ……」


 もう僕とスフィは動揺で言葉が震えていた。

 相手方はネリスのことを知ってこそいたものの、まだ赤ん坊だと思っているし、届いたはずの手紙を燃やしたとか、かなりヤバイヤツな気がしてならない。

 相当な堅物か、老いが回っているのか……というか、そんなのが監視役って。

 僕の心労が増えるだけな気がしてきたぞ?


 だがそんな予感とは裏腹に、やっぱり覚えがあるのが気になって仕方がない。

 中から出てきてくれれば、中の人物が誰かわかるだろうか。


「出てきてくださいー! 話が進まないじゃないか~!」

「だーもううるさい! わかった! わかったから扉を叩くな! 壊れるだろう!」


 ドンドンドンと、絶え間なく扉をたたく迷惑極まりない行為が功を結んでか、相手方が堪忍して扉を開けてくれた。

 慎重に、かなり警戒心強めにゆっくりと開かれる。

 が、ネリスはそれも辛抱ならなかったのか、ガッと開きかけの扉を掴み、乱暴に開けてきってみせた。

 握りこぶしを腰に当てている後ろ姿は子供っぽさを感じさせるものの、その態度は昨日の酒場と同様の怒りを示しているように思えた。


「ギルドからの正式な文書を燃やすとかありえないでしょ!! ねー!!」

「ッ……それはそうだがっ……あーもう。オレにも事情ってもんがあるんだ。てかお前、本当にあのネリスか? ずいぶんとでかくなったな……」

「論点ずらさない! ホンット聞いた通りの変わった人だね、レイルさんは!!」


「え……?」

「あら。どうかしたの?」

「レイル……だって……?」

「「??」」


 僕の反応に対して、スフィや前の二人も不思議そうにこちらへ目を向けてくる。


 ネリスが相手方の名前を口にした瞬間、僕は彼が誰なのかを完全に思い出した。

 肩まで伸びた金髪。

 キリっとしていて逞しい紫色の瞳。

 亜人種であることを証明する、少し長くとがった耳。

 その外見的情報と名前が合致した人物が、一人だけ知り合いにいたのだ。


「レイルさん……本当に、レイルさんなんですか!?」

「およ、ルティアちゃん知り合いだった?」

「は? いや知らん。誰だお前は」

「あっ……いえ、その……すみません」


 思わず声に出てしまったが、レイルさんの言葉を聞いてハッとする。

 彼は僕が神になる以前の知り合いだ。

 今の僕(ルティア)のことを分かるはずもない。

 一歩出かけていた足を引っ込めて、ひとまずは今の発言を誤魔化しておく。


「はぁ……まあいい。話は聞いてやる。中に入れ」

「むっ。何か上からだな~……しょーがない。ルティアちゃん」

「あ、はい」


 ぷくっと頬を膨らませて不満をあらわにするネリスの後を追い、僕とスフィもレイルさんの家にお邪魔する。

 中は意外と手入れが行き届いており、外からは考えられないほどの清潔感があった。

 レイルさんは端に重ねて置いてあった椅子を取り、そこに腰掛けるように言ってくる。中で勝手なことをされたくないからなのだと思うが、どこまでも上からなレイルさんに、ネリスもむくれ面を引っ込める気はないようだった。


 椅子に座り、腰を落ち着かせた後、ネリスは少しばかりぶっきらぼうに事の説明をしていった。

 大まかには、僕の能力測定の結果による影響とお店の事。

 一通り話を終えたところで、レイルさんに何か質問はあるのか聞いたが……その時のレイルさんは、かなり表情を曇らせている様子だった。


「なあ、ネリス」

「……何?」

「話はわかった。だがそれ以前にな、オレに何の関係があるってんだ。それ」

「…………」


「ハァ!?」

「えっ?」

「ちょ、ネリス!?」


 堪忍袋の緒が切れた。という奴だろう。

 椅子から立ち上がったネリスは、レイルさんの胸倉を乱暴につかみかかり、鬼のような形相でその怒りをぶつけだした。


「いい加減にしてくださいよ!! ギルドからの依頼文書を勝手に破棄しただけにとどまらず? なんの反省の色も見せなければ、説明させておいて何の関係があるんだですって!? 思いあがるのもほどほどにしてくれませんか!! わたしはこれでもファルムの冒険者ギルドを預かるマスターなんですよ!!! いいですか? わたしは間違いを犯して反省しない人間が大嫌いなんです! 関係あるなしにかかわらず、まずはその態度をあらためていただけますか!?」


 狭い小屋の中に、息をつく暇もない怒号が鳴り響く。

 どうやらネリスは、怒ると言葉遣いが丁寧になるらしい。しかしその丁寧さが逆に怖い。近くに座っている僕ですら、その気に圧倒されてひるんでしまった。

 だがこれは……かなりヤバイ方向に事が進んでいる気がする。


 そう思った矢先、レイルさんのがっちりとした左手が、ネリスの細い腕をガッと掴みにかかった。


「ネリス。お前さん何か勘違いしてねぇか」

「は? 何ですか。この期に及んでまだ何か言うつもりですか」

「何かも何も、オレはとうの昔に冒険者引退してんだ。そもそも登録したのだって、ちょっと用事があったから程度に過ぎねえ。いいか? お前は既に無関係の、隠居したジジイを無理やり連れ出そうとしてんだよ。だから言ったんだ。オレに何の関係がある?」

「そんなことは知ってますぅー! でも登録名簿にまだ名前がありましたからね! そんな言い訳は通用しません!!」

「おっと、そいつはオレの過失だな? 謝っておこう。だがもうわかっただろ? オレにやる気はない。監視役なら他を」

「そうもいかないってんですぅー!! それ以前なのはあなたも一緒!! 文書を燃やした時点で拒否権はありません!!」

「あ!? んだソリャ聞いてねぇ!」

「言ってませんから!!」


 お互いに譲らないネリスとレイルさん。

 しかし言い合っているうちに、段々と会話の質が落ちてきているような。

 最初は互いの事情をぶつけあっていたはずが、主張を押し通すために変な罵詈雑言まで混じり始めていた。

 そして……


「ジジイならジジイらしく若者を支えて見せろってんですよ!!」

「ああ!? そりゃオレの事言ってんのか!?」

「自分でジジイって言ったんじゃないですか! ボケちゃいました!?」

「てめぇいい度胸だ! そりゃ喧嘩売ってきたってことでいいんだよなぁ!?」

「望むところですよ老いぼれジジイ!!」


 行きつくところまで行ってしまった口喧嘩が、ついに暴力沙汰にまで発展しようとしてしまっていた。

 二人の勢いに押されて何もできなかった僕だが、さすがにこれは止めたほうがいいだろう。

 ネリスはかなり腕の立つ槍使いだと思うのだが、レイルさんも間違いなく彼女に引けを取らない。本気で暴れまわったら間違いなく甚大な被害が出てしまう。


「あの二人とも! さすがにそれはまずいです! 下手したら町が――」

「「あ゛ぁ゛!?」」

「ひっ!?」


 あ。

 しまった。

 これあれだ。

 火に油を注いじゃった感じの。

 ……やばい、僕ピンチでは?


「ルティアっつったか……元はと言えばお前の監視役だよな。分かったよ。じゃあこれで手を打とう」

「へ……?」

「ルティア、お前がオレと戦え。結果次第では受けてやるよ」

「ほぉう? それはいい案だ。痛い目見ますよ? ルティアちゃん、こんな老いぼれけちょんけちょんにしてやって!!」

「ええぇぇ……」


 ほらやっぱりー!!!


「……あーあ。やっちゃったわね」

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