闇の神、誕生
ゴゴコゴゴコ。
魔空間の片隅。
巨大な音をたてながら、その邪悪な生物は、今まさに誕生しようとしていた。
人間界から飛ばされてくる、悪しき心の影響を受け、闇は次第に膨らんでいく。
ガガッ、グワッ。
闇は人の形をとる。
が、それは形だけ。邪悪な心が固まっているに過ぎない。
器となる、人の身体を探さねば。
その闇は、パラダイスワールドに狙いを定め、他の闇に隠れて近づいた。
ふわふわと上空を漂う。
人気のない森の中。モンスターに襲われ倒れていた男性がいた。男性に家族はいない。一人でこの森に住んでいたらしい。
闇が近づく。
男性は瀕死だ。動くこともできない。
〈フフフ……〉
闇が囁く。
〈ちょうど良い。貰うぞ。その身体〉
男性の身体の中に、闇が入った。
身体中から、闇が溢れる。
一瞬にして傷が治った。
目を見開き、体の感触を確かめる。
良い感じだ。
「フフフ、ハハハ、アハハハハハ……!」
これで肉体は手に入れた。
邪悪な心の生命体、魔の神、ダークキングの誕生である。
「フフフ。この地はなかなか良い。よし決めた。この地をわしの物とする」
こうして、ミーアノーアとダークキングの因縁は、始まったのだった。
「はっ」
何か悪い予感がする。
ミーアノーアは一目散に部屋を飛び出して窓の外を眺めた。
闇が、大きくなっている。
スゥイ達が懸命に退けた闇が、また襲ってきたのだ。
「ミーアノーア様」
スゥイが階段を上がってきた。
街の住民達は、朝早いこともあり、まだほとんど眠っている。
ミーアノーアは彼らを起こさないよう、そっとスゥイに戦士達と一緒に司令室に集まるよう指示した。
スゥイは、窓の外を見て状況を理解し、戦士達を呼びに下りる。
司令室の扉は取っ手を持ち、両手で外側に開く両扉のタイプだ。中の声が漏れないよう厚くなっているため、開く時に力がいるが、そんな思ったほど重いという訳じゃない。
長いテーブルが縦に置かれている。
両脇に十人ずつ座れる。
そして、ミーアノーア専用の椅子は、みんなとは違う場所、テーブルの横の部分に置かれていた。
部屋の扉を開けた時、まっすぐミーアノーアの顔を見られるようになっている。
スゥイ達が入ってきた。
扉が閉められ、席に全員がつく。
ミーアノーアは戦士達の顔を見て、聖なる龍が言っていた魔の神、ダークキングの話をする。
戦士達に動揺が走る。
言葉を発したスゥイの声も震えていた。
「それでは、この闇は、そのダークキングが誕生したために起きた闇だと言うのですか?」
「それはまだ分からないわ。けれど、それが本当だと言うのなら、これからの戦いは、きっと厳しいものになる」
ざわめきが支配する。
恐怖で頭を抱える戦士の姿も見えた。
「それでは、これから俺達は、その強力な闇と戦うことになるのですね」
「ええ。それから、もし戦いたくないという人は、遠慮しないで言って下さい。誰も責めたりしないわ。恐怖を感じるのは、普通のことだもの」
戦士達は沈黙した。
しかし、自分たちはグランドキャッスルを守る戦士。
ミーアノーアと共に戦うことを、誇りに思っている。
誰も、逃げ出す者はいなかった。
「ありがとうみんな。わたしは、あなた達を誇りに思います。これからも、わたしと共にいて下さい」
「はい! ミーアノーア様!」
そして彼女達は司令室を出て、外に向かった。
闇が迫っている。
グランドキャッスルを守るため、戦士達は身構えた。
「フフフフフフ」
闇の中から声が聞こえる。
「誰?」
ミーアノーアが叫ぶ。
黒い闇の中から何者かが出てきた。
「ヒッ」
その姿に戦士達は一歩後ろに下がる。
男は、灰色のタンクトップに黒い皮のズボン。胸板が厚い。爪は伸び、鋭く尖っている。背はスゥイより高い。両肩から上腕部にかけて赤い模様のタトゥーがある。炎と闇を表しているらしい。
何より、恐怖を煽るのはその目だ。邪悪な輝きを放つその大きな目で、ギラギラと睨み付けている。
普通の男性に闇の力が加わったことで、このように変貌したのだろう。
「わしの名はダークキング。闇を統べる神として生まれた。お前がミーアノーアか?」
「わたしの事を知っているの?」
「この地へ流れついた闇から聞いた。救世主と言われる女がいると。わしは、この地を気に入った。この地を行き場のない、我ら闇の者の大地としよう」
「わたしは聖なる龍より、救世主として闇を討つように言われました。そんなことはさせません」
「フフフ。ならば、邪魔な者を消すとしよう」
パチン。
ダークキングが指を弾く。
魔兵士達がぞろぞろと現れた。
「まずは見せて貰うぞ。救世主とやらの実力を」
ダークキングは高見の見物と決めこんだ。
ザッ。
スゥイが魔兵士の群れに飛び込む。
さすがは騎士。優れた剣技の持ち主だ。
その速さに魔兵士達は翻弄される。
スゥイに続いて戦士達も突進。
そしてミーアノーアも。
「聖麗剣!」
光輝く剣を持ち、闇を倒していく。
グランドキャッスルの中では、人々が不安そうにその戦いを見つめていた。
みんな祈るように見ている。
「ミーアノーア様。頑張って下さい」
「スゥイ殿ーー!」
「みんな、ファイトォ!」
声援が飛ぶ。
彼らにはこれしかできない。
その声を背にして、ミーアノーア達は戦う。
守るべきものがある。
魔兵士達は壊滅した。
ミーアノーアとダークキングが睨み合う。
「フッ」
余裕で、ダークキングが笑う。
「それでは行くか。救世主を倒しに」
彼は気を溜める構えを見せた。